п»ї 「トランプ旋風」―支持した貧困白人は報われるか? 『山田厚史の地球は丸くない』第81回 | ニュース屋台村

「トランプ旋風」―支持した貧困白人は報われるか?
『山田厚史の地球は丸くない』第81回

11月 11日 2016年 経済

LINEで送る
Pocket

山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

ドナルド・トランプの登場を歓迎しているのは、フランスの極右政党・人民戦線のルペン党首、暴言を売り物にするフィリピンのドゥテルテ大統領、ロシアのプーチン大統領などだ。北朝鮮の金正恩委員長も歓迎しているだろう。そんな人物が米国の第45代大統領になる。

トランプ旋風を支えたのは、低所得・低学歴の白人男性だという。繁栄を支えてきた白人層に「没落意識」が広がっている。

◆大富豪が貧困白人の希望の受け皿という皮肉

日本に「シャッター商店街」があるように、アメリカには「ラストベルト(さびた工業地帯)」が広がる。工場が海外に移転し、廃墟化する地域だ。給与のいい仕事はなくなり、街には低賃金で働くアジアや中南米からの移民が目につく。

同性婚とかイスラムやら、受け入れがたい価値観が蔓延(まんえん)した。白人中心で「豊かな社会」だった頃への郷愁が、大統領選挙で政治的怒りとして噴き出した。

崩壊する中産階級の不満や不安が「メキシコ国境に壁を造る」「不法移民は追い返す」と公言し、「アメリカ・ナンバーワン」を叫ぶトランプへの支持となった。

政治の歪みもトランプに追い風となった。「1%が99%の富を握る社会」ともいわれる。経済強者が社会を支配し、政治まで動かしている、と多くの人は思っている。

政治家、企業経営者、役人、弁護士などのお偉方が形成する「エスタブリッシュメント」が都合のいいように仕切っていると。

4年に一度の大統領選挙は、庶民が政治の場に躍り出るまたと無いチャンスなのだ。

弁護士、ファーストレディー、上院議員、国務長官だったヒラリー・クリントンはエスタブリッシュメントの象徴とされた。予備選では社会民主主義者のバーニー・サンダースに脅かされ、決戦でトランプに競り負けた。既成政治家への強烈な風当たりをもろに受けたのである。

大富豪のトランプが貧困白人の希望の受け皿になったのはなんとも皮肉なことだ。

◆ちぐはぐな政策 ポピュリズムの扇動

果たして、トランプは没落する中間層の守護神になるだろうか。経済政策は以下の通りだ。

TPPから離脱して国内の雇用を守る

中国を為替操作国に指定し高関税をかける

インフラを整備してGDP成長率を倍に

連邦法人税を半額に

所得税は減税、相続税を廃止

パリ協定から離脱し石油産業を活性化

アメリカ第一の通商政策をとる

この政策で貧困や格差は是正されるだろうか。中間層の崩壊に歯止めがかかるだろうか。

TPP(環太平洋経済連携協定)をやめても職場は戻ってこない。製造業がアメリカを離れるのは経済のグローバル化がもたらす産業空洞化によるものだ。

中国製品に高関税をかけても米国産が復活する可能性は小さい。バングラデシュやパキスタンなどの製品が伸びるだろう。

インフラを整備するのは大事なことだが、財政資金が必要だ。火の車の連邦予算の歳入を増やせるのか。法人税も所得税も気前よく減税するという。パリ協定から離脱して化石燃料を燃やすエネルギー政策に逆戻りするというが、有望市場と見られる新エネルギーに逆行しないか。

トランプの政策はちぐはぐだ。周到に練られたとは思えない。耳あたりのいいキャッチフレーズを並べた選挙用、詰めればぼろが出る。投票した有権者も深く考えず「今の政治はろくなものではない」というポピュリズムの扇動に乗ったとしか思えない。

◆大企業や富裕層から富がしたたり落ちる?期待

最たるものが「オバマケアの廃止」だろう。米国には日本のような国民皆保険がない。高額の医療をカバーする医療保険は民間の保険会社が売っているが、バカ高い。低所得層は加入できず、病院で治療を受けられない、入院できない。医療難民が社会問題になっている。

オバマケアは、皆保険には程遠いが最低限の医療を受けられる仕組みを作ろうというものだが、三つの勢力が阻止に回った。

「小さな政府」を標榜する共和党。社会福祉に予算を食われることに抵抗する富裕層。商売に影響する保険会社だ。

「自己責任」を尊重する米国社会の弱点は「支え合う」という連帯感が希薄なことだ。既に保険に入っている人は、オバマケアに税金が注がれることを不愉快に思う。

日本でもそうだが、不況で苦しくなると、税金で支えられている弱者が疎ましくなる。自分は切り詰めているのに、あいつらは税金で、という感覚だ。膨大な富を抱え込む少数の強者は、生活の場には見当たらない。社会は分断され、住むところが違う。金持ちの暮らしは、せいぜい新聞のゴシップ欄やテレビの世界だ。不満のまなざしは身の回りに増えた移民や貧乏人に向かう。

没落する中間層こそオバマケアを必要とするのに、「止めてしまえ」というトランプを支持した。

相続税も同じだ。廃止の恩恵を受けるのは金持ちだ。トランプがそうであるように、多くの富豪は生まれながらカネ持ちだった。相続税廃止は経済強者の既得権益保護の「一丁目一番地」である。

法人税半額、所得税減税も強者に都合がいい政策だ。

トランプの政策が支持されるとしたら、「トリクルダウン」への期待ではないか。

法人税を半額にして企業が儲かれば、仕事が増え、賃金も上がる。所得税が減れば消費に回る。相続税がなくなれば金持ちが元気になって景気がよくなる。GDP(国内総生産)成長率倍増。やがて下々に恩恵が、というわけだ。

トランプの主張は、GDP600兆円を謳(うた)うアベノミクスと同じである。その日本はいまどうなのか。トリクルダウンは起きたのか。

企業は儲けても労働者の取り分は増えない。金持ちが潤っても国内にカネは落ちない。

◆選んだ責任を負う有権者

グローバル経済の中で先進国はどこも低成長、低金利、低物価に喘(あえ)いでいる。

20世紀のように成長で問題が解決できるような社会構造ではなくなった。

その一方で、ゴミにして捨てるほどある食料や過剰生産物が余っている。世界が問われているのは、いかに公平・公正に分配するか、ではないのか。

自己責任のアメリカには、分かちあう思想が希薄だ。豊かな社会でありながら、幸せになれない人がこれほどいるのるアメリカの問題は「富の偏在」だろう。それなのに、大富豪をリーダーに選んだ。

多様性を認めない分断社会が、熱狂の中でトランプを大統領に押しあげた。

選んだ責任を、アメリカの有権者はこれから負うことになる。

コメント

コメントを残す