п»ї 「五輪担当・丸川珠代」の裏事情ダメージコントロールに動く安倍政権 『山田厚史の地球は丸くない』第74回 | ニュース屋台村

「五輪担当・丸川珠代」の裏事情
ダメージコントロールに動く安倍政権
『山田厚史の地球は丸くない』第74回

8月 05日 2016年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

第3次安倍改造内閣が4日、発足した。女性の入閣は3人。総務相に留任した高市早苗、環境相から五輪担当に横滑りした丸川珠代、稲田朋美は初入閣で防衛相に納まった。3人とも安倍が「お気に入り」。注目は、歴史認識や靖国問題で安倍の代弁者として振る舞ってきた稲田だ。

「稲田さんはスターですから」と、安倍はしばしばいう。党政調会長に抜擢(ばってき)するなど盛り立ててきた。防衛相に起用して身内ともいえる保守右翼の期待に応えたが、中国・韓国は反発、米国も心配している。

◆防波堤としての役割

対極にあるのが丸川五輪相だ。首都に小池百合子都知事が誕生したことの「ダメージコントロール」である。

小池は2020年東京五輪の予算の透明化を訴えた。新国立競技場だけではない。東京都が担当する競技施設も次々と建設費が膨張している。なぜこんなことになったのか。新知事が対決姿勢を強め五輪の闇(やみ)にメスを入れれば、ダメージは政権にも及びかねない。丸川はその防波堤としての役割を負わされる。

都知事選で自民党は分裂選挙になり、公認した増田寛也元総務相は大差で敗北。党を割って出馬した小池は除名しろ、という声が上がっていた。「反党的行為だから当然除名だ。これだけ都議会をコケにしたのだからノーサイドとはいかない」。荻生田光一官房副長官は記者懇談で言い放った。

自民党都連の怒りに応え、厳しい処分が下れば、女性都知事を寄ってたかってイジメている、という印象を振りまきかねない。小池側の思うつぼだ。都民が後ろについて「五輪疑惑」に火がついたら……。ありえないことではない。

新知事との対決は得策でないと考えた安倍周辺は、融和の道を選んだ。
 

◆五輪準備を取り仕切る「森喜朗と仲間たち」

メディアは、小池vs森喜朗という構図を用意している。世間は、後ろ盾のない女性知事が、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が群がる「五輪利権」に切り込む、という「小池劇場」を期待する。

役者はそろっている。都議会にはドンと呼ばれる内田茂自民党都連幹事長(註・8月4日に都連幹事長職を辞任すると表明)。歴代知事や国会議員をアゴで使う実力者。五輪予算に影響力を持ち、いかにも政界のボスというイメージだ。その盟友が「東京五輪はオレに任せろ」と言わんばかりの森喜朗元首相。なぜこの人が五輪を仕切っているのか、庶民は胡散(うさん)臭く思っている。

五輪の主催者は開催都市・東京都なのに、知事だった舛添要一や猪瀬直樹の影は薄かった。主導権は五輪組織委員会会長の森が握る。副会長はラグビー人脈で引き立て、日本スポーツ振興協会(JSC)の理事長に据えた河野一郎。理事には内田側近の都議2人がいる。内閣に五輪担当相を設け、「ラグビー議員」の遠藤利明を充てた。文部科学相は「スポーツ議員」の馳浩。2人とも「森の子分」。主催者の都を脇に置いて、「森喜朗と仲間たち」が五輪の準備を取り仕切っているのが実態だ。

◆「悪役」を覆い隠す表紙

都知事選で自民を敵に回した小池は、無党派層を取り込むため不透明な五輪事業を問題にし、「重要な決定がどこか分からないところでなされている」と訴えた。

メディアは、五輪施設の工事を内田が監査役を務める企業がいくつも受注していることや、新国立競技場周辺の都市再開発を巡る疑惑などを報じ始めている。

就任会見で小池は、「五輪事業の情報公開」と力説した。都議会自民党の出方次第では、正面衝突は避けられない。そこで首相が「打ち方止め」へと動いた。

都議会と知事の緊張が高まれば、東京都と政権の関係にも波及する。膨張する五輪予算は東京都の問題では終わらない。政権の支持率にも影響する。

内閣改造で「森の子分2人」を外した。特に遠藤五輪相は森の傀儡(かいらい)であることが見えみえ。内閣を代表して五輪を語るには印象が悪すぎる。清廉(せいれん)なイメージで事業の正当性を語ることが出来る役者に代えたほうがいい、と助言した知恵者がいたのだろう。

テレ朝のアナウンサーから転身した丸川は政界に馴染みはうすく、利権に触れる役回りではない。

「丸川さんは聡明な方ですから」。会見で印象を聞かれた小池は、言葉少なに答えた。

「厚化粧の大年増」と石原慎太郎に毒づかれたことが追い風になった小池には、老獪(ろうかい)な男たちに挑む、という構図が戦いやすかったろう。政界の裏に通じた元首相や都議会を操るドンなどの「悪役」を覆い隠す表紙に丸川は起用された。

テレビ出身の才媛という共通項がある小池と丸川は何かと並ぶ機会が多くなるだろう。政治はイメージ戦でもある。政界という男社会に挑戦する賢い女という小池のイメージを希釈させるのが丸川の役目なのだ。

4年後への計算もある。2期目の小池に勝てそうな候補は今の自民党に見当らない。民進党からは蓮舫が出るかもしれない。五輪と重なる次の首都決戦は、女の戦いか。

◆「コンパクト五輪」はどこへ行った

その前に決着をつけておく課題をお忘れなく。東京五輪はこれでいいのか。「コンパクト五輪」を謳(うた)いながら、2兆、3兆と費用が膨れた。誰が、どこで、どう決めたのか。そもそも震災復興を押しのけて真夏の東京で五輪をやる意味はあるのか。誰のための五輪なのか。

「不透明な五輪にメスを入れる」という公約を小池知事は掲げた。よもや議会対策の「脅し」で終わることはないだろう。有権者はその本気さを見守っている。(文中、敬称略)

One response so far

  • 箒川 兵庫助 より:

     丸川氏大臣起用の意味が良く理解できました。有難うございます。
    >・・・政界の裏に通じた元首相や都議会を操るドンなどの「悪役」を覆い隠す表紙に丸川は起用された。
    >・・・政界という男社会に挑戦する賢い女という小池のイメージを希釈させるのが丸川の役目なのだ。

     ところで「コンパクト五輪」という言葉は,日本語破壊の最たるモノです。「コンパクト・オリンピック」は,11文字で2つの外来語の組み合わせ。5.7.5調から言えば,「こじんまり五輪」が7文字で平仮名と漢語の組み合わせ。しかし意味不明のカタカナ語「コンパクト」を交えた「コンパクト五輪」(7文字,外来語+漢語)は,カタカナ語を有り難く思う,グロバリゼ-ションの流れに乗った日本人の感性にピッタリ。(さすがは,五輪組織委員会委員,元大蔵官僚ノ-パンしゃぶしゃぶ官僚が考えそうな標語)

     とは言え,「金の流れ」が都民でない小生にもよく分かりません。ただ官僚得意の「(予算を)小さく産んで大きく育てる」流儀もここで発揮されているようです(例えばその他に八ッ場ダム建設費用。生まれたときは約2千億円。現在,1兆円以上かかっても未だに出来ない)。
     すなわち,「コンパクト」とは女性がお化粧をするときに使う「大化け」道具と解釈すれば,五輪費用がアテネやロンドンの五輪費用を遙かに超えて,2兆円,3兆円になるのもコンパクトのなせる技。
     この大化けを小池都知事の大好きな猫が退治できるかどうは,有権者の本気度にかかっていると思います。しかし根本的には,消費税であれ,庶民に対する税金が高すぎることに問題があると,考えます。

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