アベノミクスが日本を壊す
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第36回

12月 26日 2014年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住16年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

第47回衆議院議員選挙の結果、安倍政権は再び与党で公明党と合わせ3分の2を占める圧倒的な勝利を飾った。安倍首相が「アベノミクス解散」と命名した今回の選挙は、過去2年間の経済政策によって景気が上向いたか否かの極めて短絡的な議論に終始し、アベノミクスの持つリスクについて真剣に議論されることはなかった。そして総選挙での圧勝を受けてアベノミクスによる経済政策が継続されることになった。私は、アベノミクス継続によって遂に日本国家の経済破綻(はたん)が現実味を帯びることになったと感じている。

◆金融危機の5つの類型

2008年のリーマン・ショックを契機として出版されたカーメン・ラインハートとケネス・ロゴフの共著『国家は破綻する』(2011年、日経BP社)では、1800年以降に起こった金融危機を5つに類型化している。簡単に説明すると、以下の通りとなる。

① 対外債務デフォルト
 1800年から2009年までは計250回発生。中、後進国で頻繁に起こる。商品相場の下落が主要因。近年では対外債務デフォルトは次に述べる先進国銀行危機とリンクする可能性が大きい。
② 国内債務デフォルト
 1800年以降68回発生。ハイパーインフレにつながる可能性大。日本では戦後すぐに発生した。この時の国内債務GDP比率は266%。インフレ率は1945年に500%を記録した。
③ 銀行危機
 先進国の方が頻度が高い。金融自由化諸国で多く発生しており、住宅価格の上昇が銀行危機に影響を与える場合が多い。銀行危機はインフレ・通貨危機につながる可能性が高い。
④ インフレ
 紙幣印刷機の登場によりハイパーインフレが登場。ハイパーインフレと通貨危機は同時発生する。
⑤ 通貨危機
 固定相場の維持と不整合な財政金融政策によって起こる。

◆日本破綻のシナリオ

過去の歴史の教訓が書かれた同書を読むと、アベノミクスによって日本は幾つかの金融危機の直前にいることを思い知らされる。日本破綻のシナリオが幾つも書けてしまうのである。

【シナリオ1…国内債務デフォルト】
 前述のように第2次世界大戦後すぐに日本はこの金融危機を経験している。この時国内債務の国内総生産(GDP)に占める比率は266%。現在が240%である。過去の経験に照らし合わせて、現在の日本はこの国内債務デフォルトに「いつなってもおかしくない」領域に達している。

【シナリオ2…新興国の対外債務デフォル】
 石油価格の大幅下落によってもたらされている現在の新興国の通貨下落は、これらの国が対外債務デフォルトになる危険性をはらむ。ラインハートらの研究によると、対外債務デフォルトになる国の経済指標に一定の傾向値は見られない。
 一方で過去の歴史を見ると、簡単に対外債務デフォルトを宣言する国がある。1800年以降、具体的にはスペインが14回、ベネズエラが10回、ブラジル・メキシコ8回、インドネシア4回ほどの例が挙げられる。また対外債務デフォルトは先進国の銀行危機を引き起こす。対外債務デフォルトを起こした国に多額の貸し出しをしていた特定の銀行に対する信用不安は瞬く間に世界の金融市場に広がり、銀行間の貸出市場は機能不全に陥る。日本国内で収益の期待できない日本の3メガ銀行は、近年急速に海外での貸し出しを増やしているが、これらの調達原資は海外の銀行からの借り入れである。もしこれらがストップしたら、日本の銀行も大きな打撃を被る。

【シナリオ3…通貨危機】
 通貨危機は基本的に固定相場制の維持と不整合な財政金融政策によって起こる。世界中で固定相場を採用する国が少なくなる中で、近年では通貨危機の事例は少なくなっている。しかし私の見解では、ユーロの単一通貨を採用しながら国ごとに独自の財政金融政策を行ってきたユーロ諸国の近年の金融危機は、この類型に分類できると考えている。
 また、固定相場制ではないが市場の裁定を無視し、無理やり円安にかじを切ろうとしたアベノミクスは固定相場制の崩壊からくる通貨危機と同様のリスクを持っていると見ている。

◆気になる膨大な個人資産の行方

以上3つのシナリオを見てきたが、これに対して「日本は依然として金融危機を迎えることはない」と主張する人がいる。この議論の根拠は、日本国内にある膨大な個人資産である。

現在の日本の負債は、国債や政府短期証券などで1千兆円を超える。日本のGDPの240%もの金額に相当する。しかし一方で、日本には1200兆円もの個人資産があり、これらの資産が銀行、郵貯銀行、年金、信託などを通して安定した国債の購入者となっているのである。

更にアベノミクス以降、日本銀行は国債を大量に購入。その額は200兆円を超え、海外投資家による日本国債の保有高90兆円をはるかにしのいでいる。海外のヘッジファンドは過去に何度も日本国債売りを仕掛けてきたが、日本国債は動揺することはなかった。こうしたことから「日本が国内債務デフォルトになることはない」という主張である。

私もこの主張の大半については同意する。日本国債に対する海外投資家からの売り攻勢から直接日本がデフォルトになる危険性は少ないと思う。しかし、他の要因によって日本が金融危機にいったん陥った場合、日本の金融機関や投資家、個人も国債を投げ売りし、海外に資産を移し替えることは起こりうるであろう。

次に、この問題を議論するうえで考慮しなくてはいけないのは、世界の運用資産の規模の大きさである。世界の運用資産は世界全体のGDPの約2倍となる100兆ドルは優に超えると見られるが、これだけ巨大化するとその運用場所は限られてくる。米国国債市場、欧州金融市場、日本金融市場、そして新興国資源市場の4つである。

このうち欧州と新興国資源市場は問題を抱えており、世界の運用資産は相対的にこの2つの市場よりリスクの低いと見られる日本の金融市場に資金を振り向けている。日本のマーケットはファンドにとって「収益を期待する市場」ではなく、「資産を安定的に運用する市場」である。現在日本の東京株式市場の株式総額は400兆円を超えるが、このうち27%に相当する145兆円は海外投資家が保有している。

海外投資家はドル建てでの日本株の持ち値を安定させるべく円安になれば株高に、株安になれば円高へと海外ファンドは誘導してきている。海外ファンドの日本市場を見る目が変わらなければ問題はないが、いったん牙をむき日本市場を収益市場と見れば、大量の資金が流れ込んできて日本の金融市場はパニックになる。

◆日本株と円の同時売りでパニックに

それでは今後、日本はどのような形で破綻する可能性があるだろうか? 私が恐れるストーリーは「海外ファンドによる日本株と円の同時売り」のケースである。

前述のように日本の株式市場の3分の1は海外投資家の保有株である。145兆円の株式を一斉に売られ、その資金をドルに換えられたら日本円は大暴落する。外貨準備高を超える円売りにより、歯止めの利かない円安となる。

当然輸入品は高騰するが、特に問題となるのが食料である。自給率が40%しかない日本は、この食糧の取り合いとなり、1945年に経験した年率500%のハイパーインフレになるだろう。日本全国がパニックとなる。

ではいつ、このような事態になるだろうか? 日本経済が破綻するには何らかの契機が必要であろう。それは、地震や噴火などの天災による大都市の崩壊、または大手金融機関の破綻などが引き金となろう。しかしいったんこうした口実が与えられれば、海外投資家から攻撃を受け、国全体の破綻に至るほど日本は問題を抱えている。

こうした問題を加速化させたのが、アベノミクスである。そもそも安倍首相は経済成長のためなら財政再建は後回しにしても良いと考えている。アベノミクスによる財政出動により政府債務は増え続け、もはや返済不能なところにまで来ている。このため、海外投資家は日本国債の格付けを中国や韓国よりも低い「A」に引き下げた。海外投資家から見れば、日本という国家はリスクを取れるギリギリの水準にまできてしまったのである。いつなんどき、海外投資家が資金を引き揚げるか分からないのである。

大胆な金融緩和政策は日銀の資産増大を招き、海外から円の価値を疑問視せざるを得ない状況をつくり出してしまった。円安により貿易収支は恒常的な赤字となり、日本の富は急速に減っていく。更に今回の金融緩和策により日銀はすべての手段を使い尽くし、いったん海外投資家からの攻撃を受けると何ら対抗策を持たないのである。

本当に必要な施策である成長戦略はほとんど実施されていない、と言っても過言ではない。できるだけ早くアベノミクスの金融財政政策を変更しなければ、「日本の破綻」は目前に迫っている。

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