テレビメディアが人の心に寄り添えているか、という疑問
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第77回

5月 06日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャローム所沢施設長。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆癒やされたメディアは何?

「癒やされたメディアは何ですか?」。私が施設長を務める精神疾患者向けの就労移行支援事業所シャローム所沢での講座で、利用者にそんな質問を投げかけてみると、返ってきた答えは、音楽と映画が大半であった。例えば米国映画「グッド・ウィル・ハンティング」だったり、痛快なミュージカルコメディーの米国映画「ブルースブラザーズ」。音楽ならば中島みゆきの「時代」など。

その作品化した「メディア」の数々は、決してテレビ番組ではなく、作り手が精魂こめて練り上げた熟成されたものばかりであった。精神疾患者が癒やされるのは、簡単な作り込みで済ませてしまうメディアではない。何かを訴え、強い感情を伝えようという意思が積み上げられた作品こそが、人の心を揺さぶる、という視点は間違っていないように思う。

これが、私が考える「ケアメディア」なるものの基本概念にもなる。つまりは、簡単に作れてしまうものは、効率性や生産性を優先してしまい、受け手のことなど考えはしない。結果的に「人間」から離れた殺伐とした欲求優先のメディアになってしまう。受け手の顔と心を想像し、同時に広く人間社会をとらえて、コンテンツを作る作業が「ケアメディア」の条件となる。それはもちろん、心が必要な作業である。

◆必要な「見る気力」

先日、突然実父が急性膵炎(すいえん)で入院した。栄養を点滴で補給する絶食生活の中で、傍らにあるテレビに見向きもしなかった。「見る気力がない」という。数年前入院をした母も同じことを言っていた。そして、シャローム所沢の利用者も心の状態が悪い時には「テレビは見ない」という多くの声を聞いた。この発言が大多数の声ならば、テレビは体や心の状態が悪く、本当に癒やされるべき人の役に立っていないことになる。

つまり、心が元気、もしくは気力がある状態の中で「見られる」ものであり、テレビの画面で「癒やし」を叫んでも、ほんの少しへこんだ人を癒やせているだけなのが実態かもしれない。

私自身、「ケアメディア」の言葉をめぐり、現在その考えの源流をたどる知的冒険をしている最中であるが、表面上の行動として、3月に歌というメディアで全国リリースしたCD「明日へ」(CW、春と夏~ウサギとカメ)が歌手の奈月れいさんの活発な行動により、ライブ活動やラジオでその歌声が広まっている。

これが前述の熟成されたメディアであれば、その意味づけは受け手がとらえてくれるだろうが、結果は未知数。作り手の私としては、精神疾患者とのかかわりの中で、そこに届く言葉、もしくはメッセージとして最適で熟成した言葉を選んだつもりだが、絶対的に当事者ではない私が想像する受け手発想の中で、届くかどうかは、まだ分からない。分かり合えないからこそ、苦悶の中で想像し発信するプロセスが、その質によって言霊(ことだま)というメッセージに磨きがかかってくるのであろう。

◆冊子で普及

また「ケアメディア」では、小さな情報冊子を編集中である。7月1日発刊を目指すタイトルはそのまま『ケアメディア』で、キャッチフレーズは「人の心に向き合う情報誌」。向き合えば、元気な心よりも痛んだ心を優先してしまうから、自ずと精神疾患者向けの内容が多くなってくる。しかし、それが疾患者の自覚のあるなしにかかわらず、誰にでもつながる内容を、と作業している。

創刊号は脳科学者であり、小児科医師であり、教育学の博士でもある、文教大の成田奈緒子教授と対談し、脳と疾患、支援、メディアの関係を考えてみた。さらに知的障害者の学校を愛知県で設立した愛知県立大学の田中良三名誉教授へのインタビュー、精神疾患者による「映画鑑賞記」、「やさしい暮らし」の提言などの内容。まだまだ手さぐりの中での作業だが、やはりコミュニティー形成にはメディアは強い。心を中心にしたコミュニティー形成、そんな希望が目の前には開けている。

冊子を希望の方は100部単位で発送します。問い合わせはシャローム所沢まで。

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■ケアメディア推進プロジェクト
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