トランプ大統領を米国の思想潮流から考えると
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第103回

2月 27日 2017年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆プラグマティズムな人

前回、米国のトランプ大統領の行動をドイツ観念論の哲学者の代表であるカントとヘーゲルの思想にあてはめて考えてみたが、今回は足元の米国の思想哲学から考えてみたい。それは今のトランプ大統領そのものかもしれない「プラグマティズム」である。

20世紀の米国で盛んとなったこの思想はギリシャ語で「実行」「実験」を意味する「プラーグマ」を語源としている通り、実用的なものを真理とする考えである。簡単に言えば、ドイツの観念哲学に対して、実際に起こっていることに着目して行動する立場をとり、イギリスの経験論がその中間に位置することから、ドイツとの対立構造が浮かび上がっている今日のトランプの米国にはぴったりの位置づけとも言えるだろう。

就任後、英国のメイ首相と真っ先に会談をすることで、英国の伝統を重んじつつも、ドイツを中心とした観念論には一線を画す。彼特有な言葉では、ドイツのメルケル首相が唱える価値観は「ばかげたこと」なのかもしれないが、彼は根っからのリアリストでプラグマティズムを身のまとった哲学者だと考えると現象には納得がいく。

◆深い学問なのだが

ロシアのプーチン大統領も然りでドイツ哲学の観念論者ではなく、トランプ氏と同じくリアリストでプラグマティズム思想の臭いがするから、トランプ大統領はプーチン大統領のことを褒めちぎっているように思える。それは生理的な反応で、となればトランプ大統領がドイツのメルケル首相と永遠に親しくなることはないかもしれない。これは英国のEU(欧州連合)離脱という流れの中で、さらなる悲劇の引き金になりそうだから怖い。

そうはいいながらも、単純にトランプ大統領に当てはめるほどプラグマティズムは単純ではなく、深い学問である。

チャールズ・パースを創始者とし、デューイやジェイムズといった後継者が各自の実践を通じ理論化していった。デューイはシカゴ大学教授時代に付属小学校に「実験学校」をつくり、「問題解決学習」を実践した。子供自ら疑問から解決したいことを考え、実験に取り組むという流れの学びである。つまり能動的に問題に取り組むプロセスを学びとする考えで、その問題解決に向けた柔軟な思考が社会を成長させるとの考えを説いた。

この問題解決の過程には、教養や知識が必要で、それらをすべて考えての教育であり思考ではあるが、最近ではこのプロセスが抜け落ちてしまい、目的に直線的な考えが実利主義であり、学問で言えば経営学などの実践的な領域になる。

◆日本のリーダーもまた

ジェイムズは、思考の対象が真実か否かは関係なく、生きていくうえで有益かどうかが重要であり、それが真理である、という考えである。宗教観で言えば、信仰は人々に生きる意味を与えたり、心に安寧をもたらしたりすること自体で有用とし、宗教を肯定するという考えをとった。

それは心の問題を取り残す格好になり、宗教者にとっては違和感のある考えではあるが、現実問題としてそれがひとつの宗教のあり方といわれる向きもあるだろう。そして、これが今、世界や米国を支配している空気かもしれない。産業の停滞や移民の増加による米国民の逼迫した気持ちは、教会で説かれる救いとともに、実態としての救いが必要であり、それが実利主義と結びついた時、人はそれに頼ろうとする。

トランプを選んだ米国は現在、そういう国ということであろう。その国のリーダーと楽しくゴルフで「遊ぶ」ことで仲良くできる日本のリーダーもまた、同じ思想なのかもしれない。

※『ジャーナリスティックなやさしい未来』関連記事は以下の通り
第102回 トランプ大統領を「定立化」して新たな「真理」を考える(2017年2月20日)
http://www.newsyataimura.com/?p=6377

第92回 尊敬する「人倫国家」への失望と、そして切ない希望(2016年11月10日)
http://www.newsyataimura.com/?p=6070

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/
■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link
■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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