п»ї 初の統一地方首長選と国会議長のスキャンダル『東南アジアの座標軸』第16回 | ニュース屋台村

初の統一地方首長選と国会議長のスキャンダル
『東南アジアの座標軸』第16回

12月 04日 2015年 国際

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宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

りそな総合研究所顧問。インドネシアのコンサルティングファームの顧問も務め、ジャカルタと日本を行き来。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

12月9日に実施される正副首長を選出するインドネシア史上初の統一地方首長選挙で、地方における国政政党の勢力図が塗り替えられる可能性があります。イスラム系国民信託党の合流によって国会議席数で多数派を形成することになった与党連合ですが、野党連合のゴルカル党が伝統的に強いとされる地方選でさらに足場を固められるかが焦点です。

◆FI社の採掘契約延長を巡る裏取引疑惑

今回の統一地方首長選を前にゴルカル党を揺るがしかねない事態が発生しました。ゴルカル党所属の国会議長、セティヤ・ノバント氏のスキャンダルです。

セティヤ国会議長は11月に国会議員団を率いて訪日した際に天皇皇后両陛下と会見したほか、安倍首相とも会談し、中国の人工島建設で緊張が高まる南シナ海問題や両国間の経済協力などについて意見交換したインドネシアの大物政治家です。訪日に先立つ9月には米国を訪問し、次期大統領選に共和党から出馬表明している実業家ドナルド・トランプ氏の選挙キャンペーンに出席していたことが問題視され、インドネシア国内でも批判を浴びました。

今回新たに表面化したのは、インドネシアのパプア州で銅や金を産出している米系資源会社大手フリーポート・インドネシア(FI)が2021年に期限を迎える採掘契約を巡り、セティヤ氏がFI社の社長との間で裏取引したのではないかという疑惑です。採掘契約の期限延長を政府内で根回しする見返りとして、FI社がパプア州で計画する水力発電事業(400万ドル相当)の権益49%を自らに譲渡するよう要求、さらにFI社の株式11%をジョコ・ウィドド大統領に、同9%をユスフ・カラ副大統領にそれぞれ譲渡するよう要求したというものです。

FI社の社長は、インドネシア政府が現在の2021年の採掘期限で契約終了を望んでいることを察知し、採掘契約の延長を勝ち取るため米国本社を巻き込んで政府へのロビー活動を展開してきました。

この過程でFI社の社長は、セティヤ氏や彼の友人で石油ビジネス界のマフィアといわれるアラブ系インドネシア人のリザ・ハリッド氏と数度会談していましたが、米国の「海外腐敗行為防止法」違反に問われることを恐れて、会話を録音していました。それが明るみに出て、事態を重く見たスディルマン・サイド・エネルギー・鉱物資源大臣が、国会懲罰委員会に告発したのです。委員会での査問がまもなく始まると思いますが、各党の思惑が絡み、野党側はセティヤ氏を擁護するため同氏に近い担当委員に替えて委員会を乗り切る構えです。

◆バリ銀行スキャンダルでも疑惑浮上

一方、ゴルカル党内ではアブリザル・バクリー氏とアグン・ラクソノア氏がそれぞれ党首に選出されたと主張し、その正統性を巡り昨年から内部分裂状態が続いていました。現在、統一地方首長選を前に表面的には和解しているものの、バクリー氏は1990年当時、FIの採掘期限延長を成功させたことから、FI社株の一部譲渡を受けて2億ドル以上の売却益を得たと報道されています。このような背景から、アグン氏はゴルカル党の懲罰委員を交替させてセティヤ氏を追及する姿勢を見せています。

セティヤ氏はアジア通貨危機当時、バリ銀行が経営破たんした地場銀行インドネシアナシオナル商業銀行(BDNI)に多額のインターバンク債権を抱え、債権額の60%相当の手数料を同行が支払い、彼の経営する会社に債権回収を委託させ、その資金が政治資金に流用されたとされる疑惑(バリ銀行スキャンダル)を始め、いくつもの不正取引疑惑が指摘されてきた人物ですが、これまで不思議と訴追を免れてきました。彼のバックにいる大物政治家に救われてきたということかもしれません。

今回はジョコ大統領の名前まで取引交渉に出されていますから、国家の威信が揺らいでいます。事の成り行き次第では今後の外国投資動向にも大きな影響を与えます。また、録音には大統領側近のルフット政治・法務・治安担当調整相の名前まで出てきています。

ジョコ政権の弱体化を画策している真の黒幕は誰なのか? インドネシア政界を揺さぶるスキャンダルに自浄作用が機能するのかが注目されますが、名前を使われたジョコ大統領とカラ統領はこの件について現時点では名誉毀損などでの告訴の動きもなく、国家警察も懲罰委員会の結論待ちとして沈黙しています。

◆対日関係改善へリバランス図る?

一方、ジョコ大統領はこのほど、関係各国との経済交流の深化を図るとして、各閣僚に責任担当国を割り当てました。外務大臣を差し置いて担当国を指名したため、国内では非効率だとの論議を呼んでいます。

とりわけ注目されるのは、大統領とは個人的にも親しいリニ国営企業担当大臣です。リニ氏はジャワ高速鉄道プロジェクトを中国に受注させた国営企業に絶大な権限を持つ大臣です。日本の担当閣僚はソフィヤン国家開発計画相で、政権内では影響力のある閣僚ではありません。

日本とインドネシア関係では、11月下旬に二階俊博自民党総務会長(日本インドネシア国会議員連盟会長)を団長とする1000人規模の交流団がジャカルタ入りし、ジョコ大統領を表敬訪問しています。また、先のクアラルンプールでのASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議の際に、安倍首相はジョコ大統領と会談し、中国との受注競争に敗れたインドネシアの高速鉄道計画について「結果に失望した」と遺憾の意を直接伝える一方、両国経済関係の強化について合意したはずです。ジョコ政権はジャカルタ都市高速鉄道(MRT)計画など3件のプロジェクトで日本から総額1400億円の円借款に同意してリバランス(再均衡)を図っているかのように見えますが、最大援助国の日本に対する扱いが今後どのようになるか関心があるところです。

また、ジョコ政権発足後、国家警察との対立から大統領直属組織の汚職撲滅委員会(KPK)の幹部の辞任を受けて、空席となっている後任幹部候補の「適性試験」が進んでいません。現在KPKが不正を指摘している約200の不正汚職の調査も停滞しています。今月16日が現職任期期限とされ候補者審査を進めて空席状態を回避できるのかが国会で問われています。

先月まで国会で審議するとしていたKPKの捜査権限を弱体化させる法案は、経済減速を表向きの理由として来年に先送りされたはずでしたが、国会と政府が年内のKPK改正法の法案化を目指すと報道されています。適性検査の遅れと改正法案化の再始動は、ジョコ政権とジョコ政権に揺さぶりを掛ける守旧派勢力との攻防戦になりそうです。

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