п»ї 加速する「タイプラスワン」戦略(その2)『ASEANのいまを読み解く』第10回 | ニュース屋台村

加速する「タイプラスワン」戦略(その2)
『ASEANのいまを読み解く』第10回

6月 13日 2014年 国際

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助川成也(すけがわ・せいや)

中央大学経済研究所客員研究員。専門は ASEAN経済統合、自由貿易協定(FTA)。2013年10月までタイ駐在。同年12月に『ASEAN経済共同体と日本』(文眞堂)を出版した。

◆ミャンマーのボトルネックはハードインフラ

「タイプラスワン」戦略の特徴の一つは、長年にわたり資本を投下し蓄積されてきたタイの産業競争力の源泉とも言われる「産業集積」の活用にある。在アジア・オセアニア日系企業実態調査(2013年10~11月実施/ジェトロ)によれば、日系製造企業の平均現地調達率は金額ベースで、カンボジアで10.7%、ラオスも11.0%、ミャンマーに至ってはわずか3.3%のみ。一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内からの調達比率はカンボジアとラオスで高く、各々36.6%、42.7%と日本からの調達(各々22.5%、18.7%)を大きく上回る(文末のグラフ参照)。これら両国では、隣接するタイやベトナムとの連携をベースに事業運営体制が構築されている。

一方、ミャンマーは様相が異なる。ミャンマーはタイに隣接するものの、主要な国境での取引の中心は日用品や食品などの小口取引・輸送であった。これは、ミャンマー側国境周辺の道路などインフラの未整備がボトルネックになっている。

両国最大の国境メソト(タイ)・ミヤワディー(ミャンマー)間を流れるモエイ川に架けられた友好橋は、これまでに複数の亀裂が見つかっており、重量制限のため通行が出来るのは中小型トラックのみ。大型トラックの場合は橋の手前で中小型トラックに、更に橋を渡って再び大型トラックへと、2度の積み替えが必要になる。

また、ミャンマー側は国境から西へ約18キロ地点からコーカレイ間にドーナ山脈が横たわっている。この山岳道路を貨物輸送車が走行する場合、道幅が狭く対向車とのすれ違いが出来ず、現在も1日おきに「下り」と「上り」とで交互通行になっている。現在、タイが支援する形で拡幅工事が行われている。ミャンマーがタイとの連結性を高め「タイプラスワン」の候補に躍り出るには、まず、それらハードインフラの改善が急務である。

◆「タイプラスワン」成功の鍵は擬似的国内取引の実現

「タイプラスワン」戦略を支えるのは、メコン地域を縦横に走る経済回廊などのハードインフラに加え、関税・非関税等国境障壁の低減化に代表されるソフトインフラの制度整備とその実行である。「国境」に横たわる障壁を、可能な限り軽減・除去し、「擬似的」な国内取引を目指すことが、CLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)が投資誘致をする上での「鍵」である。

関税面では、ASEAN自由貿易地域(AFTA)のもとCLMV(前述3カ国とベトナム)各国は、2015年1月に総品目数の7%の品目を除き域内関税を撤廃する。これら7%は3年間の猶予が与えられ、18年に撤廃される。現在、全9558品目のうちCLMVで全体の72.6%で既に域内関税を撤廃、残る品目のほとんどが関税5%以下にまで削減されている。

一方、通関手続き面では、通常、国境を越えて部材や完成品等貨物を動かす場合、輸出通関直後に輸入通関手続きを行わねばならない。また、貨物も国境で相手国側車両に積み替えることになる。

しかしメコン地域では、それら手続きの簡素化に取り組んでいる。例えば、輸出入両国共同で通関検査を行う「シングルストップ通関」や両国車両の相互乗り入れを実現する「越境一貫輸送」がその代表例であるが、メコン地域全体でこれら措置を導入すべく、越境交通協定(CBTA)が策定されている。現在までにタイ・ミャンマー2カ国の国内手続きが終了しておらず、早期発効が待たれる。

CBTA発効に先立ち、タイ・カンボジア2国間での先行的な取り組みが始まっている。両国間で貿易量が最も多いアランヤプラテート(タイ)・ポイペト(カンボジア)国境では、12年6月からトラック及びバスで各国40台を上限に相互乗り入れを開始している。

相互乗り入れは貨物の積み替えを不要化し、輸送時間の短縮、貨物破損リスクを軽減する。陸路輸送で常につきまとう「片荷問題」も、タイ・カンボジアのグループ工場間での貨物量の均衡化を通じて解決でき、輸送コストの低減を可能にする。

越境輸送の円滑化は、カンボジア初のサービス誕生を後押しした。今年6月末にプノンペン中心部に「イオンモール・プノンペン」がオープンする。同モールには国内外から190店のテナントが出店する。うち49店は日本企業である。同モールで販売される商品の多くは、まとめた形で隣国タイから陸路で国境を越えて運ばれる。国境での確実なAFTA特恵関税の適用や国境障壁の低減、越境一貫輸送などの実現は、今やカンボジアに投資を惹(ひ)き付ける新たな「鍵」となっている。(続く)
 

在メコン日系製造企業の原材料・部品の調達先の内訳

[資料] 2013年度 在アジア・オセアニア日系企業実態調査(ジェトロ)

 
 
 

CLMV各国のAFTAによる関税削減状況(2013年12月時点)

             (注)AHTN2012バージョン。

[資料] 2013年度 在アジア・オセアニア日系企業実態調査(ジェトロ)

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