п»ї 北海道の地方創生を考える『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第69回 | ニュース屋台村

北海道の地方創生を考える
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第69回

5月 13日 2016年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住18年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏 

人口高齢化、更には総人口の減少に直面した日本はその打開策として、誰もが「地方創生」「地域再生」を口にする。そしてこの「地方創生」の具体的な手段として、皆が挙げるのが「観光」と「特産物販売」である。日本のテレビのスイッチをひねると、「旅番組」と「食品番組」の多さに辟易(へきえき)する。またその内容が大同小異である。

タイにいても日本の地方公共団体の方達が、「観光」や「特産物」の売り込みのために頻繁に来られる。しかしほとんどが税金の無駄遣いである。知事や市長が来て、主に日本人向けパーティーを開いたところで有効な施策とはならない(「ニュース屋台村」2015年4月24日号拙稿「おいしい日本食をタイ全土に広めたい」をご参照ください)。

こうした中でタイに対して、「観光」と「特産物」の売り込みに成功している数少ない県として挙げられるのが、北海道である。美しい大自然と雪景色、また農産物、水産物とも日本一の生産量を誇り、品質が良く品種も豊富で、タイでは既に「北海道」は1つのブランドとして確立している。

そんな北海道であっても、「観光」と「特産物」に頼って地方創生が成し遂げられるかと言えば、私の意見はきわめて悲観的である。もし円高が進行して円が1ドル=80円ぐらいまで上昇すれば、日本に来る観光客は激減するだろう。こうした円高の進行は近い将来起こりうると私は考えている(「ニュース屋台村」2016年2月19日号拙稿「目の前のバブル崩壊に備えよう」をご参照ください)。

「特産物」の売り込みについても当然円高の影響を受けるが、それ以上に品質保持の難しい農水産品の輸出は多く期待出来ないことにある。タイでは2015年、日本食レストランが500店新規に開店したが、270店が閉店した。純増230店である。ところが、日本から輸入される日本食材は逆に減少した。多くの食材が現地産品に取って代わられているのである。更に言えば農業、水産業従事者の所得水準は世界的に見ても、それ以外の産業の人と比較して低い。いくら1次産業の振興に努力しても、その地方の所得向上に資する可能性は低いのである。

こうした考え方に基づき、「地方創生」に最も成功していると思われる北海道について再度その検討をすることとした。まず地方創生を考えるために私が最初に着目するのは、その地方の強みと弱みである。

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北海道の主な強みと弱みは以下の通りとなる。

① 自然環境

総面積は日本の国土の約22%、可住地面積も約18%を占め、他都府県比で圧倒的に広い面積を有する。

また温帯気候の北限であると同時に、亜寒帯気候の南限に位置し、年平均気温は6~10度程度、梅雨は無く台風の影響もほとんどない冷涼・低湿な気候である。

四季の変化がはっきりしており、特に梅雨が無くさわやかな夏、そしてスキー・スケートなどウィンタースポーツを楽しめる冬が、他の都府県と異なる最大の特徴である。(一部引用:北海道庁HP)

② 人口・労働など

上記可住地面積の広さを背景に、総人口も全国8位の約540万人を有する。

一方、年少人口割合・出生率が低く、また札幌市を中心に高齢者が多く、人口減少率が高い地域でもある。

道庁所在地の札幌市は、その中でも北海道の人口の約35%を占める約190万人を有する、人口全国第4位の政令指定都市であり、一極集中化が進んでいる。

札幌市と、その他国内地方主要都市(仙台市・名古屋市・金沢市・福岡市)の比較を行うと女性や高齢者の就業率が低く、これが全体の就業率を引き下げている。また、要因としては、第一に、人口比で事業所数が少ないことによる求人数が少ないことが挙げられる。加えて核家族率が高く、親の子育て支援も受けられにくい現状から、女性の就業が妨げられている可能性がある。第三に、生活保護受給者が多く、そもそも働くことが出来ない人たちが多い現状にある。大都市・札幌市は、先に述べたその他主要地方都市比較で上記の業種が少なくなっている。

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③ 経済

【農業】
 北海道農業の特徴は、専業大規模農家の大量生産であり、食糧自給率200%超の日本の食糧基地として位置付けられている。

生産量1位の品目は、小麦・大豆・馬鈴薯・てん菜・たまねぎ・かぼちゃ・スイートコーン・生乳など。

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【漁業】
 北海道漁業の特徴は、日本海・太平洋・オホーツク海に囲まれた「海面漁業」がキーワードであり、経営体数・1経営体数あたりの生産額も全国第1位である。

生産の内訳は、ホタテ貝・スケトウダラ・サケ・サンマ・イカなど。

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④ ブランド(イメージ)

【国内】
 北海道は、ブランド総合研究所が実施する「地域ブランド調査」において、豊かな自然や、農業・漁業が産み出す食、そして大都市機能を持つ札幌を背景に、調査が開始された2009年より7年連続日本一である。また同市区町村ランキングについても、1位函館市、2位札幌市をはじめベスト5に3市、上位100位中15市町がランクインしている。

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以上見てきた北海道の強みと弱みから、今後北海道が取り組むべき課題について、私見を述べていきたい。

① 高齢者に「保育所」で働いてもらおう
 第一に、新たな雇用について提案を考えたい。   

北海道、特に札幌市において、女性や高齢者の就業率がその他都市と比較して低くなっているのは、先に述べた通りである。

そして待機児童数の問題は、子育てをしている貴重な若い女性世代の就業率を下げている一因と考えられることから、早急な改善策が必要である。

ここでは高齢者の雇用の創出案を検討するにあたり、内閣府の2014年版高齢社会白書にある、次のアンケート結果を参考とする。

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機会や環境が整備されれば、若い世代との交流に参加したいと考えている高齢者は、約60%と増えている。

それならば、若い世代との交流を「仕事」とし、待機児童数の問題を解消すべく保育士になってもらってはどうか。

下記表の通り、保育士は求職者数が少ない現状でもあることから、「高齢者保育士」の制度を提案したい。

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保育士は国家資格であり、大学・短大・専門学校等の保育士養成過程を修了するか、もしくは保育士試験に合格するか、どちらかの方法で資格を取得をする必要がある。

高齢者の場合は、年に一度の保育士試験(合格率は2014年度において19.3%)を受験する事が一般的となるであろうが、「シニア保育スタッフ」の様な資格を新たに創設し、一般保育士とは異なる簡素な試験内容にて(その代わり就業後の業務に制限を持たせるなど)、高齢者が就業を目指しやすい方法を考えたい。

何より高齢者は、子育てを終え、そして更に子の子育てを見守っている大ベテランである。体力的に厳しい業務は若者に任せるとして、知識・経験は大いに活用させていただきたいと考える。

② 食品の「ブランド化」を真剣に考えよう
 第二に、今一度、北海道の食品の今後について考えたい。

北海道の製造業は、「食品製造業」の割合が非常に高く、また出荷額・事業所数共に全国1位の規模であるが、付加価値額は全国5位に甘んじている。

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北海道の食料品製造業の付加価値額が低いのは、①良質な一次産品を生かし切れていない(簡単な一次加工のみでの出荷など)②工場の近代化が遅れている(機械化が遅れ手作業に頼っているなど)③物流コストが高い――などの要因が考えられる。

残念ながら、北海道にはブランド力がありながら、十分にそれを活用できていない。カニ、ウニ、メロンなど北海道ブランドは一次産業にとどまっているのが現状である。北海道ブランドを有した、加工度の高い食品を輩出できれば、保存期間も伸び、かつ大量輸送にも適することから、コストの引き下げなどにも資することになろう。新たな商品開発を含めた一層の食品加工業への取組みが、まずは北海道産業振興の足がかりになると思われる。

③ 「北海道ジビエ」を売り込もう
 最後に、食品のブランド化の具体例として「北海道ジビエ」について述べてみたい。

北海道においては、狩猟されたエゾシカが食用として加工されてきた歴史があるが、絶滅寸前にまで減少後の保護政策や生息環境の変化から、近年生息数が増加しており、農林業被害や交通事故の増加、強度の採食や踏み付けによる生態系への影響などが社会問題となっている。

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エゾシカに限らずジビエは、狩猟後の血抜きなど処理・加工技術が求められる。

北海道においては、23社のエゾシカの加工業者がある(※出典:農林水産省、H24年7月現在。なおエゾシカ以外の野生鳥獣の加工施設は無い)が、捕獲後の食肉としての処理頭数は、処理の他流通面の課題から、約16%程度にとどまっている。(出典:北海道庁HP)
ただし北海道にしかいないという希少価値、高い栄養価などPR出来ることは多い。

今後の加工業者に対する具体的な支援策としては、該当加工業への税制優遇(雇用・設備・研究開発費など)が検討できる。

また、今後の市場開拓に関する具体策としては、「北海道ジビエスト」の制定を提案したい。
現在ジビエに関する資格としては、一般的な狩猟免許と食品衛生法に関するものだけであるが、「北海道ジビエスト」については、北海道が持つブランド力を料理人に付与し、国内外へその存在を発信することを目的とする。

資格取得要件として、ジビエの先進国のフランスなどヨーロッパでの一定期間の修業(それへの補助金支援も有効)など、実を伴ったものを制定する必要があると考える。

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