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大分県の地域再生―「小澤塾」塾生の提言(その3)
『バンカーの目のつけどころ気のつけどころ』第65回

3月 18日 2016年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住18年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

私の勤務するバンコック銀行日系企業部では主に日本の地方銀行から20名強の出向者を受け入れている。こうした出向者に対してバンコック銀行の商品を理解してもらうなどの目的から約5か月間にわたる研修期間を設けている。この通称「小澤塾」では、タイにおける銀行業務以外に出身行の地域をテーマに論文を作成してもらっている。今回は第3回として、大分銀行からの出向者である今井雅浩さん(平成14年入行、大分県別府市出身)の提言を紹介する。

1.大分県の現状

(1) 大分県は日本の九州地方東部にあり、18市町村から構成され、総人口は約1,171千人(H26/10月現在)で全国33位。経済状況は、県内総生産4.19兆円で全国33位、一人当たり県民所得2,489千円で全国33位・九州第2位、消費者物価指数103.0%で全国14位の状況(H24年現在)。

(2) 当県は別府湾に面する別府温泉、県中央部に位置する由布院温泉は全国的に知名度が高い。一方で、気候は瀬戸内気候に属し比較的温暖で、海・山が近く新鮮な食材も手に入りやすい特徴を持っているものの、自己主張の強い九州管内の他県に比べ、情報発信が弱いこともあり、目立ちにくい面もある。

(3) また、人口は昭和60年には125万人となったものの、その年を境として、東京一極集中や過疎化の進行等により減少傾向が続き、平成22年には119万6千人となった。現在もその傾向は継続している状況。

①更に世代別で見ると下記の通りとなる。

①64歳までの人口割合が全国比40位なのに対し、65歳以上の人口割合が全国比10位と既に高齢社会へ突入していることが分かる。このことから、大分県内の若い労働力が減少し、事業継承や産業の継続に支障をきたす事態が、そう遠くない将来に訪れることは容易に想像がつく。

②よって、大分県の今後を見据え、新たな産業を創造し、打開策を講じていく必要があると思料する。

2.大分県の特色

こうした現状認識を踏まえて、大分県の特徴を見てみる。大分県は次の四つの強みを持っている。それは①温泉②長寿③医療施設④外国人―のキーワードを持った4点である。具体的には以下の通り。

(1)日本有数の温泉地

①「おんせん県おおいた」、一定のPR効果が現れており、大分のことをよく知らない人も、これを耳や目にすることで、「おおいた=おんせん」というイメージを安易に印象付けられる。

②温泉の源泉数4,411個は全国第1位、全国27,396個のうち約16.1%を占めている。また、源泉数湧出量については、285,553リットル/分で全国第1位、全国2,648,056リットル/分のうち約10.8%で、更に地熱発電でも日本一を誇り、栽培、養殖などの産業、食文化や美容と医療に至るまで、豊かな温泉の恵みが幅広く活かされていることから、県では「日本一のおんせん県おおいた」と称し、全国に大分の温泉をPRする活動を行っている。

③別府温泉・由布院温泉は日本でも有数な温泉地である。その有数な温泉地であっても、温泉資源のみに頼りきっていた観光業界は、バブル崩壊後に大打撃を受けた経緯もある。その中で、由布院温泉は町ぐるみで観光業を盛り上げていった良い例である。由布院温泉は、日本各地からの視察が今でも絶えない状況である。昨今は別府温泉も街づくりを行いつつあり、外国人観光客も取り込みながら、リピーターづくりに努力している。

④大分県外客の来訪回数は約7割が複数回。新規来訪者も毎年約3割は維持している。宿泊した市町村は「別府市」(45.6%)が最も高い割合となっている。次いで「由布市」(24.4%)、「大分市」(9.5%)となっている。

(2)長寿県

①平均寿命は全国対比でみると、男性 80.06歳(8位)、女性 86.91歳(9位)と日本でも比較的長寿な地域である。

②一方で、健康寿命は全国対比でみると、男性69.85歳(39位)、女性 73.19歳(34位)短く低位にある(厚生労働省定義「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」参照)。

③これらが意味することは、寿命は長いものの、健康上に問題がない状態で日常生活を送る期間が短いことを指している。この健康寿命の要因については、科学的な根拠まで至っていないものの、大分県としては改善策として、県民健康増進計画「第二次生涯健康県おおいた21」を策定し、健康づくり事業を実施している。具体的な内容は下記の通りで、大きく3事業に分け取り組んでいる。

【うま塩プロジェクト推進事業】

県産の「旨(うま)み」を持つ食材を「上手(うま)く」活用した「美味(うま)い」塩分控えめ食事=「うま塩レシピ」を官学連携により開発し、家庭及び外食・中食に普及していくプロジェクト。

【健康経営事業所拡大事業】

生活習慣病を発症することが多い働き盛り世代が日常生活の中で多くの時間を過ごす「働く場」に着目し、個人ではなく、事業所にて行われる健康づくり活動を活性化することで、県民の健康増進を目指すプロジェクト。

【健康寿命啓発事業】

健康寿命の延伸(健康寿命日本一)を実現するため、市町村や民間団体等と連携し、県民の健康づくりの意識の向上を目指すプロジェクト。

(3)医療・福祉関連の環境が充実

①大分県の医療関連環境は全国でも上位にあり、設備のみでなく、医師数・看護師等の人員も整っている。

【病院病床数10位・1711.5床(人口10万人あたり)、医師数15位・256.5人(従業地別人数、人口10万人あたり)、看護師数 8位・1151.3人(人口10万人あたり)、医療・福祉就業者割合 7位・13.4%(対就業者総数)、老人ホーム定員数 2位・43.6人(65歳以上人口千人あたり)】 (「大分県100の指標平成27年度版(平成22時点)」参照)

②大分県で病床数が多いのは、国立病院機構大分医療センター、大分県立病院、国立病院機構別府医療センター、大分大学医学部附属病院のような病床数300床以上の規模の大きな国公立病院があることも要因の一つと言える。

③また、こうした病院は、大分県内の平均と比べると、比較的高給与であることに加え、福利厚生も充実していることから、多くの看護師の就職・転職先としても人気があることや、教育環境が整っていることが県内の正・準看護師の充実にも効果があると思料する。

(4)外国人が身近な存在

①大分県は、外国人留学生が全国3位(人口10万人あたり277.1人、実際の留学生人数3,245人:平成26年5月時点)と多い。これは、別府市にAPU(立命館アジア太平洋大学)があることが大きく寄与している。

②この大学は、学校法人立命館が2000年4月に設立した日本初の本格的な国際大学で、世界各地から集まる国際学生が定員学生約6,000名の約半数を占め、教員も約半数が外国籍という多文化・多言語のキャンパスを創造している。開学以来131の国・地域から学生が集まっている (平成27年11月現在、APU「国・地域別学生数」HP参照)。

③別府市は、観光に加え国際大学を有していることから、大分県の国際交流の窓口的な地域である。同地域での交流も行事を通して行われており、国際化は推進しやすい環境にある。

④また、大分県の出身国別留学生数では、第1位中国1,104人(前年度1,346人、18.0%減)、第2位韓国611人(前年度746人、18.1%減)、第3位ベトナム340人(前年度251人、35.5%増)、第4位インドネシア222人(前年度186人、19.4%増)、第5位タイ210人(前年度193人、8.8%増)、となっている。留学生数は、全国的にも、中国・韓国からの留学生を中心に2年連続減少している。主な要因としては、日中・日韓関係の影響や、国内外における留学生獲得競争の激化などが考えられる。大分県も同様の傾向が続いているが、一方で、ベトナムやインドネシア、タイなどアセアン諸国からの留学生が急増している(国際政策課国際交流班「平成26年度外国人留学生受入れ状況について」より抜粋)。

3.大分県の特色の融合について

(1)大分県は四つの強みをもっており、それを融合させることで地域活性化へつなげることが可能と思料する。その案として以下の内容を提案する。

(2)「【観光地別府】を【国際的な医療地別府】へ」である。別府市は大分市に次ぐ大分県第2の都市であり、この提案の条件に最も近い環境にある。また、別府市がモデルケースとなれば、県内への波及も効果的に行われやすいと思料する。

(3)大分県の地域を活性化をさせるためには、県外から人を呼び込み、1週間以上の長期滞在者を作りだすことである。しかしながら、現状の大分県の資源のみでは、長期滞在者を留まらせることは困難な状況。そこで、観光業でなく、医療をメインとした産業を確立することが、現在の資源を最大限に生かし、地域活性化へつなげることが可能と思料する。

(4)別府市を国際的な医療地とするために、別府市に外国人を受け入れられる病院を造る必要がある。

(5)そのよい例として、タイ王国には年間100万人以上の患者を受け入れている東南アジア最大規模の総合病院「バムルンラード・インターナショナル病院(BI)」がある。

【バムルンラード・インターナショナル病院(BI)】

①BIはタイの株式上場企業で、当院を訪れる外国人患者は年間40万人以上、世界190カ国以上からあらゆる人種の患者を受け入れている国際病院であり、「医療ツーリズム」におけるリーダーとして世界中のメディアから注目され、海外報道機関で広く紹介されている。

②BIの最大の特徴は、高度な医療技術もさることながら、外国人患者を年間40万人以上受け入れられる環境を整えていることである。患者が快適に過ごせるよう、ホスピタリティーを最大限に考慮した「設備」や「外国人スタッフ雇用や通訳システム」などである。こうした環境が外国人患者を多く受け入れている要因となる。

(6)大分県には、四つの強みを生かし、BIに近づくことが、可能であると思料する。

(7)実現するための手段を考えてみる。

①APUをモデルケースにした、外国人専用の教育機関(看護学校)の創設。(自治体の支援)

⇒自治体が大学誘致用の助成金制度を創設、又は「大分県立国際看護短期大学(仮称)」を創設。大分大学医学部とAPUが連携し「国際看護学部」を創設するなど。

②医療機関と宿泊施設(旅館・ホテル)が提携し、外国人患者家族の受け入れ態勢を整える

⇒宿泊施設も外国人を雇用することで、「コスト削減」「ホスピタリティー向上」「宿泊施設の稼働率向上」が期待される

③「長寿県」であることをPR(イメージ戦略)

⇒大分県に滞在することで長寿につながるイメージを創る。大分県の特産食材を提供し、「大分で食事することで、長寿へつながる」イメージ向上を図る。例えば、関あじ・関さば・とり天・から揚げ・りゅうきゅう・しいたけ・カボスなどに加えて、従来にない独自料理の開発など

④リハビリを兼ねた県内ミニツアーを定期開催(自然公園等の散策・温泉巡り)

⇒患者や家族に大分県を知ってもらい、観光客としてのリピーターづくり

⑤交通の利便性を改善

⇒外国人が大分へ行きやすい交通網を整備する。福岡・大分空港から病院までの「送迎サービス」を導入

4.最後に

(1)上記に示した案は、現状の大分県の資源を有効に活用したものであり、さらに今後の抱える課題にも対応しているものと思料する。

(2)大分県民性として、情報発信下手な点があるが、この産業を育てることで、「国際医療県」としての分かり易いキーワードを得ることができ、積極的な発信ができる。

(3)また、当産業を確立することで、地域再生に悩みを抱える県のモデルケースとなることも可能と思料する。

※本レポートはあくまで個人の意見であり、大分銀行及び大分銀行グループの見解を代表するものではありません。

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