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大学院通いの社会人による「反人文系学問排除論」
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第52回

7月 03日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

コミュニケーション基礎研究会代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長などを経て、株式会社LVP等設立。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆文科省が廃止や転換を通知

下村博文文部科学相が6月8日に全国の国立大学法人に対し、人文社会科学系の学部・大学院の廃止や転換などを求める通知を出した。これに対し、大学教員や研究者の間から「教養力の低下」を懸念するなどの反発の声があがっている。

毎日新聞掲載の教育評論家、尾木直樹・法政大教授(臨床教育学)の言葉を借りれば、「混迷した時代だからこそ、これまでの延長線上にはない新しい価値観を見いだしたり、洞察力を働かせたりして解決の方法を模索する。要は第三の道を探り出すことが重要なのです。そのために役立つものが哲学であり、倫理学、文学、社会学。つまり文系の学問なんです」。

それは社会の頭脳を育てる領域にいる方々にとって当然の主張であり、やはりそれは社会に広く知らせていかなければならない。

同時に今日は、私の主張。その私は「社会人として大学院で学ぶ者」であり、その意見である。今春から上智大学大学院文学研究科で学びはじめている私だが、周辺を見ると同じように社会人として学ぶ人がいる。私より上の50代、組織で中核を担う人や、個人事業の方、そして仕事を引退した後の方。若い人には、社会に出たが、「自分の不足」を補おうと戻ってくる人もいる。そんな「仲間」と勉強をしながら、特に私のような40代以降で、社会にもまれ、経験を積み、そのうえで大学に通い学ぶことは、実は社会をしなやかに強くするバロメーターではないかとも考え始めた。

◆厳しい目で鍛える

社会人が大学及び大学院に入ることで、学びの多様さ、学びの複層化、学びと社会のつながりの拡大、という現象をまずは惹き起こすはずである。これが教員を鍛え、教えを深めて社会を強くする。きっと、この結果として、困難に陥った時に解決できる力を人と社会が養えるはず。教員には厳しいかもしれないが、私のような「中年」学生は、家計から授業料を払っており、そのお金をねん出する労働の尊さ、稼ぐことの難しさを知っているから、自分が払った授業料の費用対効果を考えると、教員が支配する授業という時間やその言動を厳しい目で見てしまう。しかし、どれが質の向上につながる、と思う。

「学生時代にやっておけば」と過去の自分に後悔することもしばしばだが、人には時期があり、学びも同じで、私で言えば、記者活動をしてきたことで、事業を構築してきたことで、見えるものは違う。ヘーゲルの弁証法は、今の私だから学べる角度と深さがある。将来、何の役に立つのか分からないまま「面白い」という感覚だけで、授業を選り好みしていた学生だった私。何か勉強したつもりでも、真理にたどりついてないことに気付いたのは最近だった。

これは、もちろん私中心の考え方だが、真理に近づく感覚は、人それぞれであるにしても、社会人でこそ勉学が実学に結び付き、真理に向かい合えることは間違いない。特に、その分野は文科省が不要とする人文系の学問なら、なおさらである。哲学や倫理学、歴史学。これら学問の深みは学んだものでしか分からないし、この「リベラルアーツ」部門を探求することは、よりよく生きようとする人間を考える重要なエンジンである。

◆基礎は人文系にあり

それでも、人文系にも問題はある。先ほどの毎日新聞に掲載された精神科医の和田秀樹・国際医療福祉大大学院教授(臨床心理学)のコメントを借りれば、「多くの日本の大学の文系がやっていることって、イノベーティブ(革新的)ではない。教授らは古いものにくらいついている傾向が強い。例えば精神分析でいえば、米国の教授は患者を治すため、常に研究してイノベーションしているが、日本ではいまだにフロイトがどう言ったとか教えてるだけのような人が多い」とのこと。革新的なことをやるには、勿論基礎研究が必要かもしれないが、その基礎は人文系であることを忘れてはならない。

こんなことを考えながら、「反人文系廃止論」「社会人が大学で学ぶ意義」「グローバル時代のリベラルアーツ(教養)とは」というテーマで、大学院で学ぶ社会人たちとディスカッションを始めた。これをワークショップ化していく予定だが、まずは仲間を募集することにした。議論を経て「反人文系排除論」を構築できればと思う。

ご興味のある人は、以下のフェイスブックにご連絡ください。
https://www.facebook.com/groups/414807892044174/

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