п»ї 放射能の現実を見据えて『ジャーナリスティックなやさしい未来』第9回 | ニュース屋台村

放射能の現実を見据えて
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第9回

4月 18日 2014年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

仙台市出身。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長などを経て、株式会社LVP(東京)、トリトングローブ株式会社(仙台)設立。一般社団法人日本コミュニケーション協会事務局長。東日本大震災直後から被災者と支援者を結ぶ活動「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。企業や人を活性化するプログラム「心技体アカデミー」主宰として、人や企業の生きがい、働きがいを提供している。

先週に引き続き、全国のコミュニティFM局に番組を配信した衛星ラジオ局「ミュージックバード」の「未来へのかけはし Voice from Tohoku」の放送分をお届けする。まずは、ラジオ放送の内容を紹介する。

◆放射能の現状

東日本大震災からまもなく3年。このコーナーでは被災地の「今」を、現地の方々ご自身の思いを、生の声で語っていただきます。

本日お伝えするのは、福島県の南相馬市立総合病院の非常勤医師として働く坪倉正治(つぼくら・まさはる)さんです。坪倉さんは、内部被曝(ひばく)を心配する住民の不安を解消するために、健康診断を呼びかけ、被災者の相談にも乗ってきました。坪倉さんの思いをお聞き下さい。

【坪倉さんより】
   私が働いている南相馬市立総合病院では、震災の4カ月後の2011年の7月から、住民の方々の被曝量を検査するような体制が組まれ、継続的に検査が行われています。

結果から言うと、今現在、福島県内、南相馬市を含め福島県内に住んでいらっしゃる方の被曝量が、非常に低いということが分かってきています。確かに放射性物質が飛散したことは確かで、それによっていくらか放射性物質が留まるようなホットスポットと呼ばれる場所や、いくつかの食品の汚染が続いているということは確かです。ただ、流通している食べ物であるとか、そういうものを食べて、体の中に放射性物質が増えてきているような人は、今はいないし、子どもたちが遊ぶような、学校や、そういう場所で生活している方において、被曝量は、日本の他の場所に住んでいらっしゃる方の被曝量と、正直遜色がない。そして何か体に影響を及ぼすようなレベルには到底到達しないようなレベルの被曝量に抑えられているという子どもたちがほとんどです。

これは住民の方々とか、行政の方々とか、企業の方々とか、色んなスタッフの方々とか、そしてそのお父さん、お母さんを含め、福島県内に住んでいらっしゃる多くの方々の頑張りや努力の賜物(たまもの)だというふうに思います。

だからと言って、もう放射線の問題全てが解決していて、何も問題なくて、何もこれ以上する必要がないという話では決してありません。もう3年になろうとする今でも、避難生活を強いられたりだとか、色々な困難にぶつかりながら、毎日毎日を一生懸命暮らしていらっしゃる方が、数多くまだまだいらっしゃいます。

放射線が、放射線自体が危ないということは確かだと思いますが、ただ「怖い、怖い、怖い」「危ない、危ない、危ない」「あそこはこんな状態だ」みたいなことだけではなくて、そこで暮らしている方、そこで一生懸命前に進もうとしている方が今も多くいらっしゃるということを、是非忘れないでいてほしいと思います。これからもご支援いただければというふうに思います。よろしくお願いします。

【エンディング】
   坪倉さんの活動は、公式ブログでご覧ください。

震災の風化を食い止めようと作られたこの歌、『気仙沼線』。活動は「気仙沼線普及委員会」のフェイスブックでご覧ください。
(以上放送内容終わり)

◆心の荒廃食い止めよ

福島を歩き、原発避難者らの声を聞いていくと、首都圏で生活する私が気づかず、はっとさせられることがある。放射能という不安は、放射能を放出した震源地が近いという空間的な不安と、長年にわたり蓄積され体の異常がいつ起こるかわからない時間への不安がまずある。前者の不安が消えたかと思うと後者がやってきて、後者が去ったかと思うと前者が心の隙間に襲いかかる。この二重の苦しみに、家族や周辺の人への思いも加わり、不安は複層的になる。3年という月日は、その複層を積み重ねてきただけのような気がしてならない。東京五輪誘致の最終選考で安倍首相は福島の原発事故について「状況はコントロールされている」「福島は東京から離れている」旨2点を強調したが、福島では後者の発言を「見放された」と感じたと、ある福祉関係を取りまとめる女性は言った。

支えなければ崩れそうな状況は今も変わらず、そうした宰相の創造性を欠いた発言にも気持ちが左右されてしまう。坪倉医師は現場で、不安を解消させるための検査や啓蒙活動に奔走し、今最も現場で内部被曝の現状を知る人である。今回の話を要約すれば、「今は大丈夫だが、それは地域の努力によるものであり、これからも努力が必要、なので支援が必要である」ということ。政府の支援はもちろん、まだ終わらない原発事故後の処置に一般のわれわれの支援も終わらせてはならないのである。

放射能による発症がなければ人的被害はなく、問題はないように見られがちであるが、福島で聞いた「事実」を提起したい。原発事故後、現地の若い女性が「どうせ子供が産めないから」と自暴自棄になり、除染作業員相手の売春をしているという話である。信頼の置ける人から聞いた話だが、私自身、売春をしている人に直接確認はしていないから真意は不明だが、心の荒廃を食い止める取り組みが必要なのは確かであろう。科学の数値では表せない「汚染」の広がりは、無関心から始まる。放射能という怪物に立ち向かうには政府だけでは太刀打ちできない。私たちの戦いはまだまだ続くのである。

坪倉さんの放送はユーチューブでもお聴きなれます。

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