п»ї 日系企業のタイ進出の失敗事例 その1『バンカーの目のつけどころ、気のつけどころ』第2回 | ニュース屋台村

日系企業のタイ進出の失敗事例 その1
『バンカーの目のつけどころ、気のつけどころ』
第2回

8月 08日 2013年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住15年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

タイには相変わらず、多くの日系企業の進出が続いている。しかしバンコック銀行日系企業部が、タイ商務省のデータを活用して2009年に行った内部調査では、タイ進出日系企業の約3分の1は恒常的な赤字もしくは債務超過になっているとの結果を得ている。タイの進出日系企業数が4500社であれば、実に1500社は問題を抱えているということだ。

問題の原因は、以下の4つに類型化できるだろう。
① 目的の明確ではない海外進出
② 企業内犯罪
③ 人事管理
④ 資金繰り

今回は、この中で最初に挙げた「目的の明確でない海外進出」を検討してみよう。

◆手軽な進出の先にある落とし穴

そもそもタイに顧客がいるのか? 自社の製品が顧客のニーズに合致するのか? 競合先はあるのか? 自社製造に価格競争力はあるのか? こうした問題は、進出予定先であれば当然自分で確かめなければいけないことである。例えば、タイに来て主要顧客を訪問する。友人、ジェトロ、銀行などに尋ねる……。時には競合先を訪問することも、やってしかるべきである。

しかし実際には、こうしたことをやらない人が多すぎる。特にここ数年は、工場新設などの多額の費用負担を必要としないサービス業の進出が増加しているため、「皆がタイに行くから」といったブームに乗った手軽なタイ進出が多いように感じられる。政府、地方公共団体、銀行などが企業の海外進出をあおるため、タイに進出しないと損をするような気にでもなるのだろうか?

◆企業特性を考慮しているか

製造業においては、原価計算や進出場所の詳細について検討がなされていないケースもある。日本より土地の値段や工場建設費用が安いからと言って、安易に進出を決めるケースが見受けられるが、今後進出する企業が競合するのは、既に数年前にタイに進出している日系企業なのである。

既に進出済みの企業は、格段に安い値段で土地を手に入れ、機械の減価償却は終わっているかも知れない。また、進出場所についても「赴任する従業員のことを考えてバンコクに近い所に決めました」という優しい本社社長もいる。しかしバンコクに近い所であれば、当然のことながら、土地の値段も高ければ、人件費も高くなる。

大手企業との競争から、現地労働者の採用の難しさも想定される。もちろん、重要な顧客との距離の近さを考慮してバンコク近郊を選択することもありうるだろう。いずれにせよ進出場所の選択は、あくまでもその企業の特性を考慮に入れて行われるべきである。

◆「進出目的は何か」相応の覚悟を

一方、非製造業の場合、タイ資本51%超が基本となるため、さらに問題が難しくなる。工場製品の販売などを手がけるケースは、わずかでも製造の一部をタイに移管し、製造先として日本資本100%で登録することが最も良い方法である。また、タイ投資委員会(BOI)の特典を利用するケースもありうる。能力が高く、きちんとしたコンサルタントを活用すれば、何とかこうした道を見つけてくれる可能性がある。

しかし、飲食業などのサービス業の場合、日本側の独資は道が閉ざされており、タイ側のパートナーを見つけ出さねばならない。この場合、一般的に以下の4つの手法が採られる。
① 同業種のきちんとしたパートナーを探す
② 資金は全額日本側で出すが従業員などに名目上の株主になってもらう
③ タイ人コンサルタントに出資してもらう
④ 日系金融機関や商社の子会社に出資してもらう

日本のサービス業がタイに進出する場合、これら4つのうちどれにするか検討する際、簡便性の議論に終始するケースが多いが、どれもそれぞれにリスクがあるため、会社の進出目的に合わせた選択をすべきである。

「タイのことがよくわからないため、店舗進出などの営業戦略や人事管理など難しい問題はタイ人パートナーに任せたい」として、同業種のパートナーを求めるケースがある。こうした進出の覚悟のできていないケースは、往々にして失敗に陥る。タイ人パートナーは、日本側の製品のノウハウとブランドさえ手にすれば、早々に日本側パートナーを追い出すかもしれない。

これは、従業員の名義貸しやタイ人コンサルタントのケースも同様である。また、タイ人コンサルタントを使った場合、事業拡張にあたって増資ができないケースも出てくる。一方で、日系金融機関や商社に応援を頼んだ場合は、しっかりとした利益の捻出が要求される。

◆周到な準備怠れば進出後にツケ

タイ進出を検討している日本の企業はこうしたシナリオを事前に十分理解した上で、準備を進めているだろうか? また実際に進出するにあたって、誰がタイのその会社を経営するのか事前にきちんと決めているだろうか? 現地にいる日本人もしくは日本語をしゃべれるタイ人に、簡単に経営を任せる気ではないだろうか?

タイに進出を考えている人の多くが勘違いしているのは、「日本語をしゃべれる人は良い人だ」という誤った方程式である。しっかりわかってほしいのは、「日本語をしゃべれる人は良い人でもできる人でもない。日本語をしゃべれる人は、日本語をしゃべれる人でしかない」ということである。

しかしながら実際には、多くの人が「地獄に仏」とばかりに、前述の間違えた方程式を作ってしまっている。進出先の会社の経営をどうするのかは、進出前にしっかりと検討すべき課題である。(次回に続く)


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