п»ї 未来を見据え新たな領域に踏み出す時期 『経営コンサルタントの視点』第22回 | ニュース屋台村

未来を見据え新たな領域に踏み出す時期
『経営コンサルタントの視点』第22回

12月 13日 2016年 経済

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中野靖識(なかの・やすし)

株式会社船井総合研究所上席コンサルタント。メーカーから小売業まで幅広いコンサルティングフィールドを持つ。一般消費者向けの商材を扱う企業の現場レベルでの具体的な販売手法の提案を得意とする。

経済産業省の商業動態統計月報(平成28年9月分)によると、平成28年9月の商業販売額は36兆6810億円、前年同月比▲4.7%の減少で、卸売業は25兆6430億円、同▲6.0%の減少、小売業は11兆390億円、同▲1.7%の減少になっています。

同じ資料に卸売業、小売業の前年同月比推移グラフが掲載されていますが、2015年春以降から緩やかなダウントレンドが続いている様子が見て取れます。

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出所 経済産業省 大臣官房調査統計グループ商業動態統計月報(平成28年9月分)

今年は天候不順による野菜の高騰なども影響して、色々な商品の買い控えが広がったこともあり、日本国内の家計消費全体が伸び悩む傾向が続いています。

加えて、観光庁が発表した訪日外国人消費動向調査(平成28年7-9月期結果)によると、インバウンド需要の勢いが弱まっているらしく、訪日客数は増加しているものの、旅行消費総額は前年同期比2.9%減の9717億円だったそうです。

訪日外国人向け需要の獲得に向けては、前年まで売れていた温水便座や薬品だけではなく新しいニーズを見出していくこが必要になっていることが鮮明になりつつあります。

日本国内外の環境の変化が進み、いよいよ過去の成功やノスタルジーにとらわれず、未来を見据えて新たな領域に踏み出していかなくてはならない時期が到来していると考えるべきなのでしょう。

◆経営者に必要な強い意志と勇気

2016年11月8日にニコンがIR資料「構造改革の実施に関するお知らせ」の中で、人員適正化へ向けた施策として国内で募集人員を1000 名程度とする希望退職の募集を実施すると告知していました。

上述でご覧になっていただいた商業動態統計には、以下に示すような家電大型専門店販売額の動向も掲載されており、9月単月では生活家電が前年同月比を上回る一方、カメラ類が大幅ダウンしています。

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出所 経済産業省 大臣官房調査統計グループ商業動態統計月報(平成28年9月分)

商業動態統計の家電専門店ルートにおけるカメラ類の凋落(ちょうらく)傾向は、大手メーカーの戦略に影響を及ぼすほど深刻化、つまり国内他ルートや海外においても厳しい状況にあることを示しているものと思われます。

経営資源配分をより収益性の高い領域にシフトしていくことは企業としては当然のことなのですが、企業ブランドと製品が一致する領域に手を付けるためには、経営者に強い意志と勇気が必要になります。

日本国内にはこのような時代の変遷、外部環境変化に対して、強い意志を持って変革を推し進めた企業がたくさんあります。

日清紡グループもその一つでしょう。

1907年に高級綿糸を扱う紡績会社として誕生した日清紡績は、時代の流れを取り込んだ多角化を推進し、現在では操業利用域の繊維売上成比は11%しかありません。

戦争、敗戦、戦後復興やプラザ合意以降の為替相場変動など、当時も価値観が大きく転換する外部環境変化がたくさんありましたが、彼らは、自社の強みを生かしつつ、新たな成長領域に経営資源をシフトし続けて現在の事業ポートフォリオになっています。

変革を推し進める上で、企業内に様々な対立が発生したことは予想に難くありません。それらを乗り越え、新たな領域に経営資源をシフトするために、当時の経営者は多大なエネルギーを使ったことでしょう。

今回、構造改革を発表したニコンの告知では「当社グループ全体の企業価値向上に向けた体質改善を目的として、売上成長から収益力強化への戦略転換を行い、以下の方針にて取り組む。」と記載されていました。
・当社グループ全体で収益性の改善と向上を目的とした「選択と集中」を実施
・生産、販売、R&D 体制をグローバル規模で最適化
・事業の構造改革に合わせて本社機構もスリム化
・ポートフォリオ経営への転換、資本効率を重視した経営指標の導入と浸透およびガバナンス体制の強化

これらを通じて、「半導体装置事業、映像事業の事業戦略見直し、グローバル規模での生産・販売・R&D 体制の最適化および本社機構を含めた組織・人員の適正化を実施する」と明記されており、メーカーの顔であった部分にメスを入れることになるものと思われます。

製品をベースに企業の歴史を積み上げてこられた方やOBにとっては残念に感じられることも多いとは思いますが、企業を残していくためには必要な判断であったのでしょう。

カメラ業界では国内2位のメーカーでもありますので、製品のファンも多く、計画の進捗を含め、多くの方が注目し、その進捗を評価していくものと思われます。

ニコンファンの一人として、私も彼らの勇気ある決断が成功することを願ってやみません。

※筆者の共著『多店舗展開の基本実務』(株式会社船井総合研究所流通業活性化プロジェクト/著、すばる舎、2016年10月)より
http://www.subarusya.jp/book/b244590.html

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