п»ї 自然災害にBCPで備える 『国際派会計士の独り言』第29回 | ニュース屋台村

自然災害にBCPで備える
『国際派会計士の独り言』第29回

7月 24日 2018年 経済

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内村 治(うちむら・おさむ)

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オーストラリアおよび香港で中国ファームの経営執行役含め30年近く大手国際会計事務所のパートナーを務めた。現在は中国・深圳の会計事務所の顧問などを務めている。オーストラリア勅許会計士。

最大震度6弱を記録した大阪北部地震に続く最近の西日本豪雨では、230人以上の死者・行方不明者が出るなど甚大な被害が出ています(7月20日現在)。自然災害の脅威を改めて思い知らされるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

本稿では、企業が今回のような自然災害のほか、テロなどの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画であるBCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)について、筆者の経験も交えて私見を述べたと思います。

◆平常時から緊急時を想定する

今回の豪雨災害では、数多くの道路、鉄道などの交通インフラが損壊したことにより部品供給が滞って複数の自動車メーカーの工場が操業停止になったり、有名酒造メーカーの工場が浸水して製造がストップしたりするなど、経済活動にも重大な影響が出ており、復旧のめどがまだ立ってところが多いと報道されています。

足下の日本経済は活況観に沸いているにもかかわらず、企業の経営環境は風水害や地震、火山噴火などの自然災害リスク、景気変動やテロなどによる事業環境リスク、製造物責任リスク、財務やコンプライアンス・リスクなど様々なビジネス・リスクに囲まれています。企業や産業ごとにこれらのリスクの程度は違いますが、その中でも特に大地震、水害、テロや感染症の発生など不測の事態によって事業の継続性を揺るがしうる大きなリスクには特別な対応が望まれるところです。

BCPに関していえば、筆者自身の経験として、米国で2001年9月11日に起こった同時多発テロ時の事業を継続させるための対応として、この取り組みを初めて耳にしました。ある金融機関はBCPもあって、被災してから数日のブランクで事業を再開したと聞いて驚いた記憶があります。

私の所属していた会計事務所のニューヨーク・オフィスもテロの起きたビルに隣接していたためほぼ半壊状態で、すぐに近くのホテルに事務所機能を移転し、そこで半年間業務を行いました。更に、03年前半にかけて中国、香港、台湾、シンガポールなどで広まったSARS(重症急性呼吸器症候群)により数カ月間に及ぶ経済活動の停滞を余儀なくされた際には、筆者は当時、香港から中国含めアジア地域の担当をしていて、人的な接触を計画的に避けさせたり本社機能の一部を一時的に移したりするなど、BCPの重要性を痛感しました。

内閣府の「防災情報のページ」では、BCPについて「災害時に特定された重要業務が中断しないこと、また万一事業活動が中断した場合に目標復旧時間内に重要な機能を再開させ、業務中断に伴う顧客取引の競合他社への流出、マーケットシェアの低下、企業評価の低下などから企業を守るための経営戦略。バックアップシステムの整備、バックアップオフィスの確保、安否確認の迅速化、要員の確保、生産設備の代替などの対策を実施する」と定義しています。

ここで重要なのは、単なる計画書の立案ではなく、平常時からリスクマネジメントとしてトップマネジメントが主導して実行に移していき、緊急時において事業の継続・復旧を図ることが肝要と言えます。また、平常時にビジネスへの影響度分析を行っておくことも必要でしょう。内閣府だけでなく、経済産業省や中小企業庁においてもかなり詳細にBCPについての解説を行っていて、その重要度が理解できると思います。

◆日本はBCPへの対応が不十分

しかし、日本企業のBCPに対する対応は十分とは言えないようです。今年5月に出された帝国データバンクの調査では、BCPを策定している企業は14.7%にとどまり、現在策定中または検討していると答えた企業は44.9%でした。地域別にも、例えば、中小企業の多い近畿地域では策定済みが13.1%と低く、先の大阪北部地震で被災した企業がBCPに対応ができていたのかどうか気になります。BCPの必要度を理解しながらも、策定に必要なスキルやノウハウがないことや、人材や時間が確保できないことなどがBCPを導入できていない理由だそうです。中小企業庁のウェブサイト内の「中小企業BCP策定運用指針」で大変詳細に解説していて、一見の価値があると思います。

会計財務的な視点では、例えば自然災害の場合、不測の事態によって企業の資産が損壊し、それに伴う復旧のための費用が単に発生するというだけでなく、売上高が減少するなどの直接的な影響が損益計算上、出ると考えられます。一方で、一般管理費などの費用には金額的にあまり影響がない可能性がありますが、売り上げなどが減ることにより営業利益が減るのが一般的だと思われます。また、事態によっては特別損失が多額となりますが、損害保険の種類と程度、政府や地方公共団体からの財政支援の可否などによって全体の損失は増減するということです。キャッシュフロー上は多額の支出が先行すると考えられるため、運転資金を含めてキャッシュフロー対策を戦略的に詳細に見ていく必要性があろうと思います。

◆先人の知恵

「転ばぬ先の杖(つえ)」というのは言い古された言葉ですが、自然災害を含めて企業を取り巻くリスクが高まる中で、改めて含蓄のある先人の知恵だと思います。ぜひBCPも含めて防災意識が更に高まってほしいと感じています。

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