8月ジャーナリズム、手を抜かずにニュース目指せ
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第86回

8月 19日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)


コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆忙しい8月

日本の8月は忙しい。厳かに迎えるべき広島と長崎の原爆の日や終戦記念日、お盆があるかと思えば、日々のドラマに一喜一憂してしまう夏の高校野球に、地域の夏祭りはピークを迎える。

ポスターには花火大会と盆踊りの告知が並び、それを楽しみにする子供がいる。地域行事として、その日に向けてせっせと準備するコミュニティーの人にとれば、身近な活動として生きがいでもあるだろう。今年からは8月11日に国民の祝日として「山の日」が制定されたから、なおさらに日々の感情は日替わりの様相となった。

戦後71年の時の長さを感じながら、戦争を語る世代が少なくなり、記憶の風化問題は、さらにこの日替わりスケジュールの8月の風景も影響するのだろう。戦争を考える日々が、一過性に終わってしまうことの繰り返しを、この半世紀以上も続けてきたように思えてならない。

◆揶揄をはねのけ

ジャーナリズムは8月になると、恒例行事のように戦時中の出来事を発掘し、風化防止に向けた活動を後押しし、平和を希求するのを目的とした記事を積極的に発表してきた。その行為はいつしか「8月ジャーナリズム」と呼ばれている。

これは、「一過性がない」との揶揄(やゆ)でもあり、メディアはそんな揶揄にもめげず、毎年同じ報道を繰り返している。私自身、毎日新聞に入社間もない時期に戦後50年を経験し、その年の8月に掲載された大型コラム「記者の目」で「私たちは知らなければならない」という見出しで、朝鮮半島からの「女子挺身隊員」をめぐる訴訟から、若い世代へ「知ること」を呼び掛けた。

私は結局、共同通信社でもソウル特派員として、多少なりとも朝鮮半島の日本統治下をめぐる問題にかかわることになるのだが、8月以外にその問題を報道するのは、難しいのも実感している。「知ること」を呼び掛けた者として、夏祭りと同様に、ジャーナリズムは8月に記憶の発掘をしなければいけないのは、続けていくべきであろう、と強く思う。

しかしながら、今年の8月15日付の全国紙からジャーナリズムを眺めてみると、少し悲観的な様相も浮かび上がってくる。

それは有効な「発掘作業」が行われていないこと、である。

15日付朝刊の一面で「戦後もの」を展開したのは、読売新聞以外の全紙(日経を除く)だが、内容は朝日が「老いる語り部継承に苦悩」として沖縄戦の経験を語る人の高齢化の問題に焦点をあてた記事、毎日が「戦後平和 原点回帰を」として連合国軍総司令部の最高司令官マッカーサーの通訳だった日系2世の思いをまとめたもの、東京は「科学は平和のために」として飛行爆弾に従事した90歳の元東大生の語りを紹介した。

◆パンチのない一面

記者の苦労は伝わってくるものの、どれも、8月15日であるがゆえに、大きく取り上げられた記事であり、ニュースとしてのインパクトはない。新しい事実を見出しで展開する内容はない。

社会面で展開するならまだしも、やはり一面には、戦後70年過ぎても、ニュースで勝負できる内容であるべきだが、今の大手メディアはそれもやりにくくなってしまっているようである。

その中で、産経の一面は「慰安婦拒否したため、史料なし」として、1937年に現在の中国・河北省で司教が殺害された「正定事件」が、一般的に知られている史実とは違うことを当時の書簡を根拠に「発掘」した内容。こちらは、歴史を修正しようという流れの中にあって勢いよい印象があり、ニュースで勝負しようとする意気込みも伝わってくるが、記事の説明ではまだまだ根拠としては不足だ。今後も引き続き根拠を発掘してほしいと思わせるのは、やはりそれがニュースだからかもしれない。

8月は各紙とも、それぞれの観点から平和は語られるが、読者や市民にとって、語られる平和が確かな心の平安に結び付けられるような思いで記事を紡いでほしい。ジャーナリズムはまだまだ発掘するべきものはある。風化を理由に手を抜いてはいけないはずである。

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■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
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■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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