п»ї 「気質」から見る日本とアジア その1『ジャーナリスティックなやさしい未来』第15回 | ニュース屋台村

「気質」から見る日本とアジア その1
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第15回

5月 30日 2014年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

仙台市出身。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長などを経て、株式会社LVP(東京)、トリトングローブ株式会社(仙台)設立。一般社団法人日本コミュニケーション協会事務局長。東日本大震災直後から被災者と支援者を結ぶ活動「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。企業や人を活性化するプログラム「心技体アカデミー」主宰として、人や企業の生きがい、働きがいを提供している。

◆焦点は根源的エネルギー

戦後レジームからの脱却を掲げて誕生した2006年の安倍晋三政権だったが、安倍首相の体調不良による退陣から、復活した12年からの第2次政権は、民主党の自壊もあり、衆参両議員の多数を獲得し、次々とレジーム脱却に向けた法案や政策、人事、そして判断が行われてきた。一つひとつは小さく見えても、気がついたら、国の形を変え、外交の上でも国際関係が変わってくる。今回は、それら現象を国の「気質」という面から考え、特にアジア外交における各国の気質と関係性を明らかにしたい。

まず前提に気質を理解してもらう必要がある。気質は、個人においては生まれ持った「生きる戦略」であり、生まれてから大声で産声をあげる赤ちゃんも、儚(はかな)げな産声の赤ちゃんもそれぞれの気質によっての行動であり、性格行動とは、この気質が表面化、行動化したものである。

この気質は、米スタンフォード大学での研究が有名である「エニアグラム」という考えを採用している。私は、この論を採用し、コミュニケーション術の方法としてビジネス領域で講義などを展開しているものだが、今回は国家にあてはめながら、論を展開していきたい。

エニアグラムは、この気質を9つに分けた考え方で、その根拠は、脳内神経伝達物質であるドーパミン、セレトニン、ノルエピネフリンの3種類の多寡(たか)による。その9つは、タイプ1(以下T1)からタイプ9(以下T9)に分けられ、それぞれT1完璧主義型、T2慈愛主義型、T3成果主義型、T4創造主義型、T5理論分析主義型、T6確実慎重主義型、T7楽観行動主義型、T8強権リーダー主義型、T9平和強調主義型となる。

それぞれのタイプには長所と短所、事象に対する反応と行動が違う。それは行動を遡(さかのぼ)った際にたどり着くエネルギーの違いでもある。この「根源的エネルギー」と呼ばれる素因から表出される行動は化学反応のような明快さがあり、分析すれば予測可能な現象ともなるから興味深い。

このタイプを国に当てはめると、これまでの外交や社会現象が起こった根源的な理由が見えてくるのである。ただ国には脳内神経伝達物質がないから、国の神経は人だと考えると、国を構成する人の気質が国家の気質に大きく影響する、という前提のもと、文化や外交などこれまでの国家活動と歴史を考察し、その気質を割り出した。

◆日本は確実慎重型

まず日本は何かというと、典型的なT6確実慎重主義型の国家である。大きな組織や守ってくれるものの庇護(ひご)を受けて、コツコツと仕事をするのを得意とする。組織に従順な公務員や大企業の企業戦士、といったイメージがそのまま日本であり、実際に日本人はこのT6が最多だと考えられる。

そして安倍晋三首相がこのタイプ。歴代首相で言うと故小渕恵三氏も同様である。このタイプは、庇護の中にあると、大きな力を発揮する特徴があり、今の安倍首相は、衆参両院多数与党と自民党内でも目立った敵もおらず、支持率も安定、という最高の状態にある。これを理解すれば、今の政府の振る舞いも説明がつく。

隣国に目を向ければ、隣接する2大国は同じタイプである。中華思想が代表するような自国中心主義の中国はT8。アジアのボスとしてのプライドは「自分は強いものでなければならない」という根源的なエネルギーがある。そしてロシアもT8で、どちらもT8の親分肌だから、双方は長年牽制(けんせい)することはあっても、血みどろになることはない。

従って、中国にしても、ロシアにしても、広大な国土を背景にした親分肌は子分を必要とする。そして力を誇示しようとする行動も伴う。中国における内陸部の自治区への強硬的な態度や、ロシアのウクライナへの軍事行動は、まさに気質の表層化である。今、現在進行形でこのタイプの典型である「ボス」たちの覇権争いが再燃しているのである。

◆周囲の見極めが重要

T6は、T8の親分と共に、その庇護のもと緻密(ちみつ)に確実に事をなしていくのが得意な気質であるから、対中、対ロ外交は慎重に強調路線を進むのが日本にとって気質に適(かな)った行動である。これは追従するとか、服従せよ、と言っているのではなく、周囲の情勢を慎重に見極め、事をなしていけば、必ず国家として質を高められるという意味。日本の高度経済成長はまさにこの態度が産み出した結果とも言える。

しかしながら、情勢を見誤り、T8との対立に臨んでしまうと暴発を招く可能性があるのがT6でもある。日清、日露戦争から太平洋戦争までの過程は、T6の国家がアジアの覇権、大東亜共栄圏という理念のもと、T8を目指してしまい、国家破滅(はたん)の道へと突き進んでしまった痛恨の実例。この気質は基本的にDNA遺伝子と同様、不変だから日本はT6なりの確実で健全な国家運営と外交活動が自然なのである。

今後は、アジア各国のそれぞれのタイプをつまびらかにしながら、各国の行動の本質に迫り、日本としての適切な対応策と効果性の高い処世術を考えていく。今回は日本がT6であり、周辺の大国がT8の持つ「強くなければならない」という根源的エネルギーそのままの行動をはじめたことを認識し、冷静に受け止め、日本として慎重な国家活動が求められることを警告として発した。次回は、アジア各国とのタイプをめぐる考察と対応策を示したい。

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