п»ї こどもたちが教えてくれた「生きること」『ジャーナリスティックなやさしい未来』第140回 | ニュース屋台村

こどもたちが教えてくれた「生きること」
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第140回

9月 10日 2018年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

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一般財団法人福祉教育支援協会専務理事・上席研究員(就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括・ケアメディア推進プロジェクト代表)。コミュニケーション基礎研究会代表。精神科系ポータルサイト「サイキュレ」編集委員。一般社団法人日本不動産仲裁機構上席研究員、法定外見晴台学園大学客員教授。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。

◆難病のこどもの言葉

東京・銀座シネスイッチで上映していた仏映画「こどもたちがおしえてくれたこと」は、難病の5人の子供たちの日常をとらえたドキュメンタリー作品だ。登場人物は5~9歳(撮影当時)のアンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアルの5人。彼・彼女らは交わることなく、それぞれの病気とともにそれぞれの家族と環境で暮らす。それを彼・彼女らの表情と言葉で展開するわけだが、この一挙手一投足とその言葉一つひとつが心に響く。

難病を患っているという記号はむしろ彼・彼女らの生きる力になって伝わってくる言葉の力となり、さらにそれを伝える意志のしなやかさをメディアの力ともなって、秀逸な作品となっているようだ。

映画全般に関しては、映画評論家に任せるとして、私の専門領域である「ケア」と「メディア」について言うならば、この作品が出色の存在だと思わせるポイントが「ケア」とは何かを問いかけた時に、浮かび上がってくる社会の在り方を映し出していること、さらにメディア行為として、台本のない筋書きに「伝える」意志の中に包み込むようなケアの視点があり、それが受け手の共感を呼んでいるという点である。

◆背景に相互対話型社会

映画の公式サイトには「治療を続けながらも、彼らは毎日を精一杯生きている。家族とのかけがえのない時間、学校で仲間たちと過ごすひと時。辛くて痛くて、泣きたくなることもある。けれど、彼らは次の瞬間、また新たな関心事や楽しみを見つけ出す。そんな子どもたちを、カメラは優しく、静かに見つめ続ける」と、この作品を表現した。この説明は「瞬間を生きる子供」というフィルターによって、抽出された言葉であり、それも正しい。

ただ前提がある。それは子供自身がすべて「認められている」ということだ。その証として登場する子供はよくしゃべる。それは聞いてくれる人がおり、対話が成り立っているから。そのやりとりも言葉も聞いていて心地が良い。医師や家族などの大人は、相手がたとえ子供でも、説明には相手のわかる言葉で語る。

このコミュニケーション社会に住まう時、子供は決して不幸ではないし、人に何かを「教える」存在にすらなる。日本において、このコミュニケーション環境は成り立ちにくい。大人であっても医師とのコミュニケーションは情報伝達型で相互対話型にはなりにくい。映画は日本社会に生きるものにとって、フランスとの根源的なコミュニケーション社会の違いを見せつけられたのと同時に、私たちが幸せに向かうための素敵なヒントを得たような気もする。

◆丁寧に伝える命

さらに、伝える行為についても、ジャーナリスト出身の女性監督アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンは自身の娘を病気で亡くした過去を持つことで、この映画に強い意志をしなやかに入れ込んだような印象がある。

メディア行為として、何かを作り発する、ということは、作り手の意志のもとに何かをパッケージ化して「まとめて見せる」行為なのだが、そのまとめ方がストーリーを作ってその道筋に沿うものではなく、一人ひとりの個と、その現在を見つめただけに過ぎない「つくり」に、それぞれの命の共鳴みたいなものが響きあうような気がしてくるから面白い。

これは、ジャーナリズムとして、「そこにあるもの」を「まとめる」ことは、手の込んだ制作ではなく、あるものを丁寧に伝えるという強い意志のもとに成り立っていることを教えてくれている。この強さは優しさであろう、そして娘の死というつらい経験ゆえの、命への慈しみなのであろうとも思う。

■いよいよ始まる!2019年4月開学 法定外シャローム大学
http://www.shalom.wess.or.jp/

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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