п»ї ソーシャルワーカーは誰でもなれる『ジャーナリスティックなやさしい未来』第87回 | ニュース屋台村

ソーシャルワーカーは誰でもなれる
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第87回

8月 26日 2016年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)


コミュニケーション基礎研究会代表。就労移行支援事業所シャロームネットワーク統括。ケアメディア推進プロジェクト代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長など経て現職。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆言葉の応酬

ソーシャルワーカーとして生きる―。そんなタイトルで行われる「ケアメディアフォーラム」が9月4日に東京・渋谷のレック渋谷本校で行われる。ソーシャルワーカーを目指す人の門戸を広げ、気楽に支援する活動を始めてほしい、というメッセージを伝えるのが趣旨で、コーディネーター役を仰せつかっている者として、さて、どんな形でソーシャルワーカーの仕事の素晴らしさを伝えようかと頭を悩ませている。

気軽さ、で言えば、私自身何の資格もないまま、思いを行動に移し、それを続けることで、結果的に就労移行支援事業所を運営したり、ケアメディアなる媒体を発刊するに至ったりしているから、誰でも、今すぐ、始められる、ことを強調したいと考えている。

基調講演は「『つながる』を形にするコミュニケーション」がタイトルになっており、ケアメディア推進プロジェクトのテーマソング「明日へ」「春と夏~ウサギとカメ」も歌手の奈月れいさんに出演いただいて披露する。後半は、「助ける≒助けられるが未来を拓く」と題して、保健学博士で蒲田寺子屋代表の松岡恵子さんと対談するスタイルで、参加者も交えてディスカッションする予定である。

◆ケアと言葉

「ケア」の拡がりを新たなメディアで切り開くことをテーマにしている立場の私だが、松岡さんも詩人やパフォーマーの顔を持つプロのソーシャルワーカー。東京大学出身で国の研究機関に働いた後、高次機能障害者の支援などを中心に活動する一方、詩人としては、精神科医の斎藤環さんから詩作品「謝れ職業人」が紹介されたことから、認知が広がった。

そんな経歴について、松岡さんは「意志的」ではなく、「ただそうなっただけ」と気負いがない。その自然なスタイルに惹(ひ)かれるのは、肩ひじ張って「支援する」人よりも、自然体で「ただそうなっただけ」の支援者が増えることは、社会全体の質を変えて、「助ける」「助けられる」人が増えるのではないかとの思いがある。支援の現場にいる人として、どんな言葉の応酬になるだろうか。個人的には楽しみである。

そんな個人的な期待はともあれ、来ていただいた方に、支援する人として一歩前に進んでいただくための、ヒントのようなものを与えられればと考え、分かりやすい切り口として、「考え方」「動き方」「楽しみ方」の三つの段階で展開できないかと思案中である。

◆考え方

「前に進もう」。そんな思いを抱いて就労移行支援事業所の門をたたく利用者に、利用の際の冒頭で話す考え方の基本がある。それは、何かを始める際に「being」(ビーイング)、「doing」(ドゥーイング)、「having」(ハビング)の順番で考え行動する癖をつけること。まずは自分が「どうありたいか」=ビーイング、を思い描き、そのイメージに向かって「動きだし、動き続け」=ドゥーイング、必要な技術や見識や教養などが必要ならば、それを「持つ、身に着ける」=ハビング、ための行動が有意なものとなり、獲得のモチベーションとなる流れである。

これはどんな学習にも通用するフローだが、ソーシャルワーカーにおいては、特に確認すべき点がある。それは、自分の支援を「他人のため」で、それが「喜んでくれる」からだとばかりに思っていないか、という点。支援相手が喜んでくれている自分ばかりを思い描いていると、「喜ばれない」現実にぶち当たった時に挫折感を味わい、やめてしまう原因にもある。だから、ビーイングは周辺の反応や状況にかかわらず、「あり続けたい自分」をイメージすることが大切で、自分のあり方を他人に依存しないことがポイントになるだろう。

ここでテーマにしている精神疾患者についても、自分たちが思い描いている常識とは別世界に感情があるなどの多様な感情を受け入れなければならない。時には辛抱強く、その人が良い方向に行くことを信じることが重要な仕事になる。感謝される、という夢よりも、可能性を信じられる自分を思い描く方が現実的で、その上に行動と技術が積み重なっていくのではないだろうか、と日々の活動の中から思い続けている。

◆動き方と楽しみ方

ピラミッドで言えば、考え方が最下層の土台であり、動き方は第二層となる。ここでは主にコミュニケーションがポイントとなる。一般的な外とのコミュニケーションに加え、内省を意味する「自分の心とのコミュニケーション」が大切だ。精神疾患者と接するには、いつも自分が「フェア」(公平・公正)であるかが問われていると考えている。

どんな病気であれ、罹患(りかん)すると誰もが心細くなる。治るのだろうか、という不安。精神疾患者は多かれ少なかれ、その靄(もや)の中にいる、と考えてみる。たとえ、瞬間的に明るく元気溌剌(はつらつ)であっても、それは永遠ではない。同時に靄の中にいる自分を想像してみる。この想像力が「動きだし」には必要で、内省から始めたコミュニケーションは質が良くなっていく。

この基本が出来たらどう楽しむかになってくる。特に精神疾患者はその思い描き方も行動も、一般社会からすれば予想外なことばかり。それを常識に当てはめようとするとストレスになるばかりだから、予想外であればあるほど、笑って受け入れて、そこからどんな関わり合いができるのか考えてみる。

そうすると、社会での常識が疑問となってくることも少なくない。案外、自分のイメージで常識化しているものが、単なる思い込みだったりする。それに気づいたとき、新しい世界につながっていく感覚を得るだろう。それは、心地よい瞬間のはずだ。

こんな話を、ディテールを盛り込みながらと思ってはいるが、いつものように当日になったら違う展開になるかもしれない。是非、9月4日に足をお運びください。入場無料です。

詳細は、ケアメディアHP
http://www.caremedia.link/
LECのコールセンター 0570-064-464 でも「ケアメディアフォーラム係」で受け付けています。

■『ジャーナリスティックなやさしい未来』関連記事は以下です。
テレビメディアが人の心に寄り添えているのか、という疑問
https://www.newsyataimura.com/?p=5488

■精神科ポータルサイト「サイキュレ」コラム
http://psycure.jp/column/8/

■ケアメディア推進プロジェクト
http://www.caremedia.link

■引地達也のブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/kesennumasen/

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