п»ї トランブ米大統領の力ずくのうそ『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第31回 | ニュース屋台村

トランブ米大統領の力ずくのうそ
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第31回

1月 09日 2018年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

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勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

◆最強国家の元首と仮想現実

1970年代後半から通算15年超に及んでアメリカに居住していた。しかし、日本企業の駐在員として、その巨大な国のごく限られた文化、社会の空間によそ者として身を置いていたにすぎない。そして、その滞在期間において、アメリカでの様々に劇的な出来事を見聞きしたものの、自分にとってはしょせんメディアを通したバーチャルリアリティー(仮想現実)でしかなかった。とりわけ、大統領は、しばしば様々な事件でメディアにより衝撃的に報道され、これが世界最強国家の元首の扱われ方なのか、また本当の姿なのかと驚くばかりで仮想現実感が一層強烈だった。

私の在住期間に限っても、ニクソン氏のウォーターゲート事件、レーガン氏のイラン・コントラ事件(イランに武器を秘密売却した代金をニカラグアの反政府ゲリラ援助に流用した事件)、そしてクリントン氏のモニカ・ルインスキー研修生との醜聞などが挙げられる。

そして今、トランプ氏の登場である。支持率が歴代最低とか、ロシアによる大統領選介入手引きへの批判に耐えかねて早晩辞職するだろうと言われてきたが、相変わらず世界を振り回しながらここまで持ちこたえている。
ひょっとして、アメリカの有権者にとってもこの国のトップの動きはメディアを通じた仮想現実なのだろうか? 今回紹介する米誌ニューヨーカーの記事を読んだ疑問である(以下全訳)。

◆偽りの公的儀式と二流の演説

The Most Frightening Aspect of Trump’s Tax Triumph(The New Yorker, December 21, 2017、By Masha Gessen)
トランプ税法案通過の最も驚愕(きょうがく)すべき点(ニューヨーカー誌2017年12月21日号、ニューヨーカー誌コラムニスト、マーシャ・ゲッセン)

ドナルド・トランプ氏は驚くべき災禍(さいか)を伴わせて税法制定の勝利を収めた。その税法改訂案がもたらす被害は、アメリカ社会が直面する格差拡大による損失や公共保健に及ぼす悪影響、そして赤字増大などの規模によって予測するだけでなく、様々な事柄に及んで権力者たちが次々うそをつく、まさに目を見張らせる光景によって政治の精神的土壌が傷つけられるひどさも考慮されなければならない。

その法案は中間所得者層に対する「贈り物」であるとトランプ氏は述べてきた。この主張には根拠がないように思われるが、実際に大統領がその発言を少しでも変えるようなことはこれまでしていない。トランプ政権の財務長官スティーブン・ムニューシン氏は財務省で法案がもたらす効果の試算を行った結果、当該税制法案は他の補助策なくそれ自体で税収が増えるように機能するものと発表した。しかし、彼はうそをついているものと思われる。うそは、実行したとする試算の結果についてではなく、もともと試算などやっていないのだ。米紙ニューヨーク・タイムズは先月(2017年11月)そのような試算調査が行われていないことを報道した。

これはトランプ流のうそであり、ほかのもっと普通の政治の世界でのうそとは明確に区別できるものだ。それは“パワーライ”(力ずくのうそ)とでも呼ぶべきものである。その目的は聞き手に何か本当でないことを信じ込ませることではなく、話し手のパワーを誇示するためのものである。トランプ氏は、いかにばかげた内容であっても公権的立場を使っていつでも自らの発言が波紋を呼ぶことを見せつけるために繰り返しツイッターであからさまなうそをつくのだ。ムニューシン氏は自分もトランプ氏と同じことができること、そして反対勢力よりも力があることを示したのである。

税法案が通過したことで偽りの公的儀式が行われることになった。儀式は住宅都市開発省(長官)のベン・カーソン氏が閣僚を先導して行った祈りによって始められ、その式次第には「勇気ある大統領と閣僚各位」と「我が国経済進展の機会を与えることを可能とする議会の一致に対する」感謝を込めた祈りが含まれた。(上下両院とも誰一人として法案に賛成する民主党議員がいなかったにもかかわらず、である。)その黙とう儀式に続いてトランプ氏は学校の教師が唐突に生徒の名を呼ぶがごときしぐさで副大統領に発言を命じた。ペンス氏は2分間をフルに使い忠実に、「大統領による中間層のための奇跡(の手立て)」に対する感謝を述べた。彼は「あなたの副大統領としてこの場に存在できることに深く光栄な思いでいます」と述べた。トランプ氏はその言葉を聞いている間、胸の前で腕組みをしたままかすかにうなずきながら厳しさを装う表情でいた。

その日遅くになって両院議会の共和党指導者たち、副大統領および他の共和党政治家らが彼らのリーダーを褒めたたえるためホワイトハウスに集まった。多数党院内総務のミッチ・マコーネル氏、下院議長のポール・ライアン氏ほかが司法任命とそして今、税法案を通過させた実績をたたえた。テネシー州選出の下院議員ダイアン・ブラック女史はトランプ氏に「私たちがあなたを大統領として敬い戴くことを許してくれた」ことに謝意を述べた。ユタ州選出で40年にわたり上院議員をつとめるオリン・ハッチ氏は「トランプ大統領は過去何世代もの前職者たちとの比較という次元のみならず歴史上最高の大統領となるであろう」と予言した。そしてペンス氏も再度トランプ氏に向かって「あなたはもう一度アメリカを偉大にするだろう」と述べた。

政治の世界における演説はめったに真実を言う機会とはならない。しかし、良い演説というものは共有できる現状認識を言い表すとともに、将来のビジョンとか何らかの称賛を併せて述べるものである。二流の演説は平凡な言葉で構成されて――善意は込められてもひらめきとか注目性に欠けるのである。そして、もう一つ、すべてが空虚な儀式としての全く不誠実な宣誓というジャンルに属するものがある。その部類の演説は民主的仕組みが機能している国々では普通聞けない。なぜなら、空虚な言葉は(民主政治の機能を支える)説明可能で裏付けあるものとは対極にあるものだからだ。そのような類いの演説は通常、独裁体制において行われるものである。それらが意図する聴衆は一般大衆ではなく圧政執行官たちである。まさにそれを我々がワシントンで水曜日に見聞きしたのであり、今回のトランプ税制法案通過勝利について最も恐怖を感じる点である。(以上全訳終わり)

※今回紹介した英文記事へのリンク
https://www.newyorker.com/news/our-columnists/the-most-frightening-aspect-of-trumps-tax-triumph

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