п»ї ナチス犯罪人と戦争被害者年金 『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第26回 | ニュース屋台村

ナチス犯罪人と戦争被害者年金
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第26回

12月 27日 2016年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

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勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

今回取り上げるのは、ドイツの国営国際放送とでもいうべきメディアかな、と思えるDeutche Welle(DW、ドイチェ・ヴェレ)の12月6日付英語インターネット版の記事です(原文の見出しは「Nazi criminals still receiving war victim pensions」)。こうした機関が報道するにしては少し違和感のある内容なのですが、ドイツの法規制上、ナチス犯罪人には、戦争被害者を対象とする年金は支払われないのが決まりなのに実態はそのようになっていない、というものです。

第2次大戦敗戦の処理において、国内外でとかく日本と対比されるドイツですが、彼らは彼らなりにまだ尾を引いている事柄があるのだ、ということです。もっと言えば、ナチ犯罪との当時のかかわりにおける、ドイツ人たちの現時点における心の底での葛藤とか自己否定のような気持ちはどういうものであるのか、をいろいろ想像させるものです。特に、ヨーロッパでもイギリスのEU(欧州連合)離脱など、これまでの理想とか大義の見直しうんぬんが言われるなかで興味を引いた記事です(以下、記事内容の翻訳)。

◆受給取り消しはわずか99人

[見出し]ナチス犯罪人たちが今も戦争被害者年金を受給し続けている

[前文]ドイツ政府が新たに発表した報告によれば、ナチス犯罪人たちに戦争被害者年金が支払われることを阻止するため1998年に制定された法律はほとんど効果がなく、また労働省は今その件に対しほとんどなすすべがない。

[本文]ドイツ連邦労働社会省が委託した新しい調査結果によれば、ホロコーストに加担したドイツ人がいまだに国から「戦争被害者」年金を受け取っている。そして同省は、その事実に対して何かをする意図がない。

両者とも歴史家であるステファン・クレンプ氏と、グローバルホロコースト研究機関であるサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)のマーチン・ヘルツ氏とによってまとめられた報告は、ナチス犯罪人への給付遮断を目的に1998年制定の戦争被害者支援法によって、1998年から2013年の間で支払い停止の処分を受ける可能性のある7万6千人のうち、実際に年金が取り消されたのはわずか99人にすぎない。また、2008年以降では取り消しされた年金は全くない。

報告のなかで、歴史学者たちは述べている。「公共メディアは新法(戦争被害者支援法)に大きな期待を抱いていた」と。そして「その法は第三の帝国時代に人間としての規範を犯した人々への障がい者手当を遮断することによって正義がなされることを意図されたのである」と。

エルサレムのSWCディレクターであるエフレイム・ズーロフ氏は、報告書の結論を「類まれなほどがっかりさせる」とし、一方、国際アウシュビッツ委員会のクリストフ・ヒュブナー氏はディー・ターゲスツァイトゥング(ドイツの日刊紙)の記者に対し、「当初多くのナチスの被害者たちに年金受給を拒否する際に示された冷淡さとごう慢さを思うと、その結果は恥ずべきものだというしかない」と述べた。(翻訳続く)

◆紛糾

クレンプ氏とヘルツ氏は新法のもとで何件の年金が取り消され、そしてその決定がどのようになされたのかをたずねて、ドイツ連邦労働社会省のすべての係官に調査アンケートを準備し送った。当該法が可決された1998年には約百万人のドイツ人が戦争年金受領を申請したが、ホロコーストに加担した人々を対象から切り離す条項はなかった(「アドルフ・ヒトラーがもしこんにち生きていたら、彼の通常の年金に加えていわゆる『戦争年金』も受給できたであろう」とその当時、公共放送局ARDは指摘した)。

実際に、何人かのナチドイツの最も不名誉な犯罪人の未亡人たちは終戦後において戦争被害者年金をもらっていた。1942年にプラハで暗殺されたホロコーストの正犯立案者ラインハルト・ハイドリヒ氏の未亡人、リナ・ハイドリヒ夫人は1985年に没するまで被害者年金を受けていた(それとは対照的に、1944年のクラウス・フォン・シュタウフェンベルクによるヒトラー暗殺未遂事件にかかわって処刑された共謀者の未亡人たちは当該年金を受給するのに何年もの間法廷で争わねばならなかった)。

90年代後期にドイツ連邦社会裁判所(BSG)が下した裁定では、ナチ犯罪人を定義して、アウシュビッツに従事した者、あるいは親衛隊または親衛歩兵隊に任務した者とされ、新年金法が可決された時点で該当者数を5万人と政府は見積もった。前述のサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)のその後の調査結果では7万6千人となるのであるが。

どちらの数字を信ずるにせよ、実際にカットされた99人という数字とは実に巨大な隔たりがある。

報告書では、ドイツ連邦社会裁判所(BSG)の裁定が本来停止されるべき年金が引き続き支払われることを許容するという複雑な事態を招来したという。ある事例では、個人機密防御法あるいは戦死者親族を対象とする特別立法が年金の最低限部分の支払いを可能にしたことを明らかにしている。(翻訳続く)

◆お役所事務の問題

本件を調査した歴史学者たちは、ナチ犯罪容疑者に関する不完全な記録とか事実をフォローするには不十分な要員体制などの役所の問題を指摘している。そのなかで彼らが最も足りないものとして、南ドイツのルートヴィヒスブルクにある国家社会主義者犯罪調査センターの中央オフィスにおける電子化された情報を挙げている。そこでは犠牲者、目撃者あるいは犯罪人などに関するおよそ70万人の記録を保持している。

ルートヴィヒスブルクの前述の犯罪調査センターを指揮している国家検察官のイェンス・ロンメル氏はそのような批評には少し当惑している。「データがデジタル化されていたら結果がどう変わるのだろうか、聞きたいものです」とドイチェ・ヴェレ(DW)に述べた。「我々が内部で、コンピューターを使用してデータを探ることができればよりたやすいことだろう。しかし、結果においてそれで何か違ったものになることはないだろう。それと、いずれにしても我々はこの事柄を進めることができる多くの当局部署のうちのただ一つに過ぎないのだから」と言う。

また彼が言うには、彼の部署の務めは、要請の都度それら戦争被害者年金の記録を年金当局に交付することである、と。前述の報告によればSWCの歴史家たちが昔の記録を調べた際、ルートヴィヒスブルクのオフィスは「多くの場合それら該当者が正確に誰であるかを突き止めることができなかった」とはいえ、ナチ犯罪にかかわった2600人の戦争年金受給者がいることに気づいていた。いずれにせよ、ロンメル氏はそれら犯罪人たちがまだ生存しているか否かを明らかにはできなかった。

連邦労働社会省自身、発行済みの報告書を考慮して関連の法規を変更する予定はないと述べた。「ナチ戦犯者関連の年金支払いの留保あるいは取り消しが少数にとどまっている主な理由は、犯罪人たちがすでに死亡してしまっていることによる、と認識されなければならない」と、DWのスポークスマンは電子メールで送付された報告の中で述べている。

そして、「最も若い犯罪者でもすでに90歳近くになっているのだから、年金受給者のうちの、生存している犯罪人を見つけ出せる可能性が年々減っている」と。(以上、翻訳終わり)
※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.dw.com/en/nazi-criminals-still-receiving-war-victim-pensions/a-36665084

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