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不倫専門の出会い系サイト広告が招くフランスの波紋
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第12回

3月 20日 2015年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

今回取り上げるのは、2015年3月10日付米ニューヨークタイムズ紙、ニューヨーク版のA5ページ「Extramarital Dating Site Unsettles the Land of Discreet Affairs」(不倫専門の出会い系サイトの広告出現で大人の恋愛の国であるはずのフランスが取り乱している)である。

「そこまでやるか、自由の先導国フランス」というのが率直な感想である。ただ、表現の自由の大義も、ここまでくるとフランスといえどもその国の普通の人々の本音としては、例の風刺漫画に由来するテロ事件もあって「背に腹は代えられない」と感じているのが実情と思える。

◆単純な大義の実行が難しくなった現実へのいら立ち?

ニューヨークタイムズ紙のこの記事は読者の興味を引きつけながら、実は理想を唱えてそれを実行していく重さに音(ね)を上げつつあるフランス、を伝えたいとする幾分冷ややかな米国東部知識層の目を感じさせる。

しかし、うがってみれば本当は米国も、今までのように圧倒的軍事力の行使によって彼らの価値観に従わない者たちを排除するという単純な大義の実行が難しくなった現実へのいら立ちから共感するところがあるのかもしれない。

正直に告白すると、自分も興味本位で当該サイトへのアクセスを試みた。英文サイトで、日本からの登録も可能だ。しかし、核心にせまる項目へのインプットを迫られるに及び、小心者の哀しさで怖くなりやめた。どなたか、勇気のある方は探究していただきたい。ただし、その結果生ずるかも知れないご家庭内、あるいは職場におけるご自身への影響についてはもちろん責任を負えないが……。

原文の抄訳は以下の通り。

◆「グリーデン」の派手なバス広告

〔パリ発〕最近、著名な政治家の裁判で行き過ぎた乱痴気行為が詳細にわたって明らかにされ、国民があ然としている国で、また同じく大統領本人が同棲(どうせい)相手の存在にもかかわらず不実を犯したことが明るみにされたそんな国では、不倫を奨励する広告に対してもさほど大騒ぎをすることもないであろうに、と思われるのである。

しかし、その類の自由奔放さではつとに知られたフランスにおいてさえ、最近出現したある広告――それはまさしくイブの誘惑を想起させるようにかじられたリンゴをロゴマークに使用し、恋愛を求める人妻たちに照準を合わせて開設されたウェブサイトの広告(※編注=文末の英文リンクにアクセスするとご覧になれます)である――-が反響を呼び、国中の論争を引き起こしているのである。

「女性によって考案された女性のための最高級の婚外恋愛サイト」と銘打つ不倫専門の出会い系サイト「グリーデン」の広告が、フランスのいくつかの市で運行されるバスの背中を派手に飾った。

これに対し、七つの市では広告を撤去し、また反対する団体はソーシャルメディアを活用して運動を起こしているが、このような動きは公的倫理、私的な性行為そして国の自慢である表現の自由、の各領域の許容範囲をめぐるフランスに特有な文化についての突出した意見の分裂を示す最新事例を提供するものである。

カトリック教家族協会(Catholic Family Association)は先月、アメリカのサイトの掲載業者である「ブラック・ディバイン」をパリの高等裁判所に訴えた。このカトリック系団体は当該広告が露骨、反道徳的で、民法のある条項を顧みず違反しているとする。

その条項は1804年にナポレオン1世の時代に起案され、結婚式において唱えられるのがしきたりになっているもので、夫婦はお互いに敬意、貞節を示し、助け合わねばならない、と説く。

「その広告を見たときショックを受け不快になりました」と、同協会のスポークスウーマンであるオード・デュクロさんは言う。そして、「不倫は夫婦と家族を汚し、フランスの社会の骨組みをも破壊するのです。公然と不貞をけしかけ、不倫の犠牲者を傷つけることは道義に反するのです」と続ける。

みずからの愛人についてウィキペディア上で14ページにもわたって書かれているルイ14世の居城がある保守的な土地柄のベルサイユで、バス運行会社ケオリスは先月、1週間の間に500件の苦情に接するに至り、広告を撤去した。通常、この種の苦情の件数は年間を通しての合計が900件くらいのものだ、と述べる。

絵のように美しいランブイエでは、保守系の市長がバス会社に対し広告が民法を冒し、結婚の尊厳を傷つけるとの理由で取り外すよう求めた。

反グリーデンのソーシャルメディアでの運動は累計2万件の反対署名を集め、ツイッター上で「グリーデンを阻止しよう」との呼びかけが拡大した。「タンゴデオ」(Tangodeo)と名乗る男性は、地下鉄の汚れたグリーデンの広告を映した写真を掲載して、「夫婦の貞節はカネで売るものではない!」と書いた。

この広告が噴出させた騒動は、しばしば見過ごされはするがフランスの奥深い社会保守主義のストレスを反映するものだ。そのことは、建前上はこのローマカトリックの国において、移民反対に加えて伝統的な家庭の価値観を擁護する右翼政党「国民戦線」の出現によって強烈に例証されているのである。

同じように、何十万人もの規模の街頭反対デモを引き起こすに至った同性婚合法化に対する予想外の反発によって、それを唱導する動きは近年不意を突かれている。

人によっては不快感を覚えたという、著名な同性カップルが2人の(性的)関係を暗示する巨大な白黒写真の撮影者であるオリビエ・シアパ氏は言う。「世界中の人々はフランスを性的誘惑の総本山と見なすが、実際には外国人がそうあってほしいと望むよりも我々は保守的なのだ」と。

保守主義のストレスは、物議を醸した広告によって会員加盟を勧誘したグリーデンやそのほかの不倫専門の出会い系サイトに完璧な痛手を与えることになった。グリーデンが行ったもう一つの広告であるパリ地下鉄向け版では、恋人と遊ぶことが国民の抗うつ剤使用を抑え、ひいては国の医療費負担軽減につながると(大胆にも)提言している。

また、同様の別の出会い系サイトである「アシュリー・マディソン」はその画面に、フランソワ・オランド大統領とその3人の前任者たちにいずれも顔面に口紅の跡をつけて登場させた。そして広告は読者に問う。「彼らみんなに共通していることは何だ?」。 答えは「みんな、アシュリー・マディソン・ドットコム(ashleymadison.com)(の会員になること)を考えるべきだった」。広告が登場した際に何枚かが警察によって撤去された、とアシュリー・マディソンの関係者は話している。

◆IMF前専務理事と大統領の浮気

グリーデンは2009年に創業し、自分の身分をさらすことなく愛人のプロフィルを集めることができる加盟会員をフランスで100万人、世界中で240万人擁している。

グリーデンのスポークスウーマン、ソレーヌ・パイエトさんは、サイトへの告発について、フランスでは1975年から浮気は犯罪とみなされていないのだからおかしいとし、検閲を非難している。

彼女はさらに、女性によって女性のために運営されている当該ウェブサイトは、女性のための正義を実現する行為のひとつであるとも言う。というのは、フランスの女性たちは何世紀もの間、男の背信による侮辱に苦しめられてきたが、過去の歴史では自分たちが同じことをすると修道院や監獄に送られるなどの懲罰に耐え忍んできた、と。

「私たちは女性にも彼女たちの夫の裏をかく手だてを与え、性的に独立してほしいのです」と、パイエトさんは話す。彼女はまた、つい数週間前には風刺のきいた週刊新聞「シャルリー・エブド」に対する1月のテロ襲撃に触れて、「フランス人は表現の自由のために通りに出てデモで声を上げた。(昔ならいざ知らず)2015年においてカトリックであれほかの宗派であれ、宗教団体がフランス人に対し道徳を強いることはできない」と主張した。

監視カメラが回り、電子メールが漏えいされ、大統領の情事が広く公表される時代にあっては、浮気予備軍が怒りの伴侶に捕われるのを避けたいとする願望が、隣人を誘惑よりも危険が少ない交際サイトへと人々を駆り立てるのだ、と社会学者は分析する。

最近、浮気の代償がいかに高くつくかを思い知らされる出来事があった。それはセックスパーティーが大好きで、みずからの政治生命と結婚を破滅させた国際通貨基金(IMF)の前専務理事でかつ、一時期にはフランスの大統領候補本命でもあった人物、ドミニク・ストロスカーン氏の2月の裁判である。

オランド大統領の場合は昨年、フランスの女優である愛人に会うためエリゼ宮(大統領府)をバイクで抜け出すのを目撃され、ニュースメディアから標的にされた。

そこで、笑いものとされることになった大統領の元パートナー、バレリー・トリユルバイレールは彼を痛めつけることになる全暴露本で、その情事が彼女を苦しめ睡眠剤の大量服用に追い詰めたいきさつを公表して仕返しした。その本はベストセラーとなり、そしてまもなくそれは、ちょうど2017年の大統領選に合わせて映画化される可能性がある。

「大統領は良い大統領と悪い夫の両方でありえる。フランス人はそれを混同して考えない」と、社会学の教授で、『The Four Faces of Infidelity in France』(英訳、フランスの不倫の四つの顔)の著者でもあるシャルロット・レバンさんは指摘する。レバン教授は、フランスではこんにちのポスト・フェミニスト世代の独立した女性は、彼女たちの母や祖母よりも不倫に対しはるかに非寛容であり、1960年の離婚が3万件であったのが2012年には12万5千にのぼっていると、問題提起する。

レバン教授はまた、グリーデンのような不倫専門の出会い系サイトにより多く人が集まるとしたら、それは少なくとも、そのうちのある人々は彼女らの夫がもしや登録しているのではないか、と疑っているから、とも付け加えるのである。(抄訳終わり)

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.nytimes.com/2015/03/10/world/europe/in-france-gleeden-an-extramarital-dating-site-unsettles-the-land-of-discreet-affairs.html?_r=0#

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