п»ї 人を助けるコミュニケーション『ジャーナリスティックなやさしい未来』第41回 | ニュース屋台村

人を助けるコミュニケーション
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第41回

3月 13日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

 コミュニケーション基礎研究会代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長などを経て、株式会社LVP等設立。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆関わり合いで生きている

 人は関わり合いの中で生きている、ということは誰もが分かっているはずだが、とかく忘れてしまいがちだから、私がセミナーなどで話をする際には、実感を伴う事例を紹介して「この世は関わり合いである」ことを強調し、その上でコミュニケーションの話を展開している。

原始社会であろうがテクノロジー社会であろうが、関わり合いこそがコミュニケーションであり、コミュニケーションは関わり合いである。「人を助ける」と書いてしまうと、自殺志願者の駆け込み相談である「いのちの電話」や、心理療法士の傾聴などの、少々「重い」コミュニケーションを連想してしまいそうだが、これらは「手段」であり、目的は「関わり合い」から自分の生命を肯定することである。

最近、実際に人を助けるのは「関わり合い」であることを自殺防止に取り組む3人の有識者から話を聞き、実感した。

1人は自殺防止に取り組む特定非営利活動法人、自殺対策支援センター「ライフリンク」代表の清水康之さん。自殺者の遺族への支援も行う中で、「大事な人を亡くした人は、新しい人生のストーリーを描けずに苦しんでいる」とし、「物語のつむぎ直しを行える、安心して悲しめる社会にする」のを目標にあげる。

自殺者も遺族の生きにくさも、結局日本社会が核家族化の進行で、孤立しやすい環境を作り上げている、と指摘し、「つながり」こそが、社会に求められているセーフティーネットであると説く。

もう1人。1991年から「あなたのお話お聴きします」活動を開始し、今年1月末まで6031回の悩みなどの話に耳を傾けてきた「自死・自殺に向き合う僧侶の会」共同代表の前田宥全(ゆうせん)さん。往復書簡でも心の悩みに接した経験から、最近の傾向を「生き方が分からないという方が多くなってきた」と言う。

主に僧侶のネットワークであるこの組織が大切にしていることとしてこう話す。「関わっていくという態度を示すことが大事です。特に私たちは対話をするようにしています。どのようにその方(相談者)が生活しているのか、その都度話して確認していきます。それは関わっていくということです」

◆孤独からの解放

 最後に1人。主に20代の自殺志願者をターゲットに、インターネットを駆使して防止に努める特定非営利活動法人、OVA代表の伊藤次郎さん。日本で20代の死因の半分が自殺という事実は先進国でも高い割合であることを問題視し、インターネットで「死にたい」「助けて」などの検索を手掛かりに、志願者に自殺阻止のアプローチをしてきた。

たどりついた志願者とメールでやりとりをすると浮かび上がってくるのは、悩みを誰にも相談できない「孤独感」。たとえそれが「女性にふられた」という人によっては年中行事のような出来事も、ある人にとっては死の淵に追いやられる絶望感。救うのは、孤独からの解放であり、関わり合いだ。

伊藤さんは、志願者との「関わり合い」を通じて「自殺に追い込まれない社会の基礎的マインド」を形成する必要性を説き、まず第一歩として自殺志願から立ち直る人に「自分の人生を通じて誰を幸せにしたいですか?」を問いかけるという。「欲望に際限はない。欲望で本当に幸せにはなれません」と話し、その欲望の対抗軸としては、やはり人との関わり合いから生み出される新たな価値観が重要だとの認識だ。

自殺から導かれる共通したこれら「関わり合い」のキーワードは、日本社会が求める普遍的な課題ともいえる。人を助けるコミュニケーションとは、今の日本社会では人と関わりを持とうとする姿勢と、その姿勢で発する言葉そのものでもある。

その上で、場面によっては指導や助言、そして傾聴という段階に入っていくのであろう。特に「聴く」という姿勢を確立するのは、人を助ける前提とも言える。つまり、人を助けるには、その対象となる人の信頼がなければならず、信頼を得るには、「話す」ことより、「聴く」姿勢から生まれる。

先日、私は引きこもりだった男性と対面し長時間かけてライフストーリーを聴く機会があった。彼が社会に接しようと思ったのは、「話を聴いてくれる人がいる」という瞬間だったという。人への不信から、一人でも信頼する、という実感が再度、彼を社会に向かわせた。従って、「関わり合い」の次に来るのは「聴く」というコミュニケーションが人を助ける、とすると、なかなか「話す」にたどりつけないから面白い。

◆傾聴の技術

 「聴く」にはコツがいる。これは財団法人メンタルケア協会の示すポイントが参考になるので、いくつか列記する。

「対話は理解よりも共感」「共感とプラスの言葉が生きる希望を生み出す」「早急な助言は話し手の反発を招く」「相手の言葉を丸ごと受け止めてあげる」「身を差し入れて聴くことで、相手を孤独感から救う」「説得して人を動かそうとしないこと。話を聴いてあげれば心は自然に動く」。

これらの技術を持つことで、人を効果的に癒やし助けることになるはずだが、やはり人を助ける、という大事業をやるには、その心構えが問われる。心構えのヒントとして、最後にナイチンゲールの言葉を引用する。

「ランプの貴婦人」と呼ばれ、病床の間、ランプを手に歩く姿に、患者らは生きる希望を見いだした。その彼女は「たった一人でもいいから、なんでも自分の思っていることを率直に話せる相手がいてくれたら、どんなにありがたいことだろう」と考え、さらにこう言ったという。「寄り添ってくれる人が一人いれば、孤独ではありませんし、絶望もしません。希望があれば、命の火は燃え続けます」

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