п»ї 徳島県の地方創生について 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第133回 | ニュース屋台村

徳島県の地方創生について
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第133回

12月 07日 2018年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住20年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

◆1章 徳島の歴史と現状

江戸時代の徳島は、四国最大の経済力を誇っていた。1889年に市町村制を施行した当時の都市人口をみると、徳島市は約6万人で、東京、大阪、京都、名古屋、神戸、横浜、金沢、仙台、広島に続く全国10番目の規模であった。徳島は古来より昭和の初期にいたるまで最も重要な商品であった「塩」「砂糖」「藍」「タバコ」の生産地だったのである。徳島の町はこれら4大産業(阿波藍、和三盆糖、鳴門の塩、刻みたばこ)で蓄えられた豊かな民間財力を背景に、活気のある大都市であった。

しかし、現在の徳島県の位置づけは、以下の通りである(注:本文中のグラフ・図版は、その該当するところを一度クリックすると「image」画面が出ますので、さらにそれをもう一度クリックすると、大きく鮮明なものをみることができます)。

さらに、徳島県の今後の見通しについては、国立社会保障・人口問題研究所が発表した2045年までの人口推移(2015年)によると、75万人から53万人へと22万人、29%も減少する見込みとなっている。また、高齢化率の推移(2015年)によると、既に3割を超える水準から早いテンポで4割に達する見通しとなっている。

徳島県は、人口減少と少子高齢化により、労働の供給力が弱まり、また、モノやサービスを買う人が減って、需要が減少し、経済活動の縮小につながる悪循環に陥ってしまっている。4大産業が衰退して以降、かつての姿は取り戻せていない。4大産業に代わることができる徳島の強みとは何なのか、次章で考察していく。

◆2章 徳島の強み

1. 阿波女

徳島県の様々なデータを収集し、全都道府県との相関関係を分析した。約80件のデータから、都市部が上位を占める項目に徳島県がランクインし、かつ他都道府県と相関関係の見られるものがあった。

・相関関係  上位:徳島、東京、愛知  下位:青森、(福島)、(沖縄)、(秋田)

・相関関係の見られた都県に限定し、追加で収集した関連データ

女性医師比率は都市部が高い傾向にあるが、徳島県には徳島大学医学部がある。
徳島大学は医学部設置が1949年と中四国では岡山大学の1922年に次ぐ早さであり、非常に有力。多くの医師または医学研究者を輩出しており、研究成果についても多くの実績を残している。

また、女性の大学進学率、女性医師比率、看護師数からも女性が社会進出する志が高い県民性がうかがうことができる。女性の社会進出を支援するには、託児所や介護サービスの充実など、女性が働きやすい環境を整備する必要があるが、幼稚園数や介護療養型医療施設病床数がいずれも上位となっている。

これらの要因から、県民所得、子育て世帯年収が地方の中では比較的上位となっている。それに伴い、徳島の女性は外出機会が多いだけに、おしゃれにも関心の高い人が多く、装身具購入費、衣服靴購入費、女性洋服購入費、化粧品購入費、子供用洋服購入費が上位となっており、地域経済活性化に寄与していることが読み取れる。徳島の女性と徳島大学医学部の相乗効果は、現在においても消費活性化に寄与していることがデータに反映されており、成功モデルと評価できる。

また、徳島県労働力率(国勢調査、2015年)によると、徳島の女性の割合が全国平均を大きく上回っていることが分かる。女性社長の比率についても全国3位となっており、徳島の女性パワーはこれからの日本が目指すべき方向を先取りしているとも言えるのではないだろうか。

2. 国立徳島大学

前項で徳島大学医学部に触れた。徳島大学は1949年に創立された国立大学である。徳島大学の特徴として、医学・農学・工学研究が進んでいることと、大学院の充実が挙げられる。特に、医学、LED、農業、AIの要素を有機的に連動した研究に注力している。

また、大学特許権実施収入ランキング(文部科学省、2016年)から、徳島大学は産学連携において名だたる大学に負けない実績を有していることが分かる。

徳島大学は、医工連携・農工食連携を柱として、研究成果の社会還元に取り組む、地域に密着した人が育つ研究型大学と言えるのではないだろうか。

3. サテライトオフィス

徳島県の山間部に位置する神山町という過疎地域がある。神山町の人口推移と高齢化率の推移(国立社会保障・人口問題研究所、2015年)から、徳島県を大きく上回るペースで人口減少と少子高齢化が進行していることが分かる。

神山町は、過疎地域の町おこし施策の一つとして、サテライトオフィス開設による企業誘致を実施している。全国各地でサテライトオフィスによる町おこしを実施している地方自治体は数多く存在する中で、神山町が選ばれた要因は以下の通りである。

また、2018年現在、徳島県のサテライトオフィス進出企業数は神山町16社、美波町17社、三好市7社、美馬市7社、他地域含め合計57社となっている。それぞれの地域の特徴を生かしたサテライトオフィスを提供していることが県としての成功要因と言える。

神山町はサテライトオフィス開設により、人口転入出を大幅に改善したという結果が出ている。さらに、2011年には人口流入が流出を上回ったという実績も残している。

徳島のサテライトオフィスは成功モデルとして、行政や大手企業からも注目を浴びており、徳島は過疎化対応の先進国と言えるのではないだろうか。

◆3章 これからの徳島

徳島県は、人口の減少と高齢化が今後も進行していくことから、経済基盤の弱体化に直面することが予想される。徳島の強みを生かして、かつての活気ある姿を取り戻したい。地方創生には新たな産業の育成が必要である。そこで、産官学の連携を提言したい。

1. サテライトオフィス地域での研究開発拠点の構築

継続的で高度な研究開発を行うためにも、研究開発拠点の充実が求められる。徳島のサテライトオフィスは、成功要因からも研究開発基盤を確立できる環境が整っていると言えるのではないだろうか。徳島大学の医学、LED、農業、AIの要素を有機的に連動した医工連携、農工食連携の研究開発体制を構築することで、場所や時間にとらわれない多様で柔軟な研究開発が可能となり、新たな技術革新の可能性が高まると考える。

2. 徳島大学と連携した人材の育成

徳島の女性と徳島大学医学部に見られた相乗効果から、新たな教育の場の提供を考察したい。読解力、英語、数学(確率、統計、プログラム)、ITに特化し、子どもや女性をターゲットとした専門的な教育の場を形成する。教授や教員、研究者、産業界のOBたちを指導者とし、オープンキャンパスやワーキングホリデー及びインターンシップの要素を取り入れることで、多くの人を呼び込めるよう施策する。今後の社会で求められる人材の育成を図ることで、地域経済活性化を促すことができると考える。

3. ベンチャー企業の育成・支援強化

新たな産業の育成の観点から、資金面の問題は避けて通ることが出来ない。地元ベンチャー企業や研究を投資対象とするファンドの開発、ふるさと納税を用いた補助金捻出の施策はどうであろうか。このように、地域から始まり、地域に還元されるような構造とすることが望ましいと考える。

4. シンクタンクの形成

上記の提言の実現には、行政、企業(産業)、大学、金融機関の連携が必要不可欠である。強いネットワークを持って共同するために、各組織から人材を送ったシンクタンクの形成についても提言したい。企画の立案や相談窓口の一元化を図ることができ、情報を共有することが可能。これにより、新しい試みを主体的に発信することができると考える。

金融機関の、従来のセミナーや商談会などコミュニケーションの場を提供するほか、個々の企業の技術ニーズにマッチする大学の研究を見いだして結び付けていく取り組みも重要と言える。しかし、これまでの“銀行”という殻を壊した、産官学の連携を能動的に率先するような新しい役割が求められている。また、新しい産業の需要と可能性を正しく判断し、必要があれば助言を行う、ベンチャーの与信審査と支援が地域金融機関に今後求められる仕事と言える。

※『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』過去の関連記事は以下の通り
第131回 再生可能エネルギーによる山梨県の地方創生(2018年11月9日)https://www.newsyataimura.com/?p=7740#more-7740

第128回「観光不毛の地」愛知県の観光振興策について(2018年9月28日)
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第123回 神奈川県の地方創生を考える (2018年7月13日)
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第122回 スマート農業を通じた北海道の地方創生(2018年6月29日)
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第117回東京近郊県の周遊型観光コースを提言(2018年4月20日)
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第116回東北地方の外国人向け観光について考える(2018年4月6日)
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第109回「観光立国―日本」は貧しさの証明?(2017年12月15日)
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第106回四国地方の観光プランを作ってみた!(2017年11月2日)
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第105回 大都市・大阪の地方創生(2017年10月20日)
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第94回 抜本的な産業育成の必要性―埼玉県の地方創生(2017年5月19日)
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第67回 神奈川の産業集積と地方創生(2016年4月15日)
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