п»ї 日本の大学訪問と産学連携への試み 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第108回 | ニュース屋台村

日本の大学訪問と産学連携への試み
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』
第108回

12月 01日 2017年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

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バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住19年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

銀行業務とは、人々の日常生活や企業活動をサポートするものである。それゆえに人口減少や産業活動の停滞により、銀行業務は大きく影響を受ける。日本の地方銀行の2017年度上期決算を見てみると、約半分の地方銀行が営業赤字に陥ったようである。黒田東彦(はるひこ)日本銀行総裁による極端な金融緩和政策が赤字の直接的な原因の一つである。しかし更に構造的な問題として、「地方の人口減少」と「産業衰退」にその原因を求めることが出来る。

◆新しいビジネス機会の創出

私が属するバンコック銀行日系企業部の存在基盤も極めてぜい弱である。直近のジェトロ・バンコク事務所の調査によると、タイで実質的に活動を行っている日系企業は約5500社ある。おかげさまで私達バンコック銀行では、かなり多くの数の日系企業とお取引を頂いている。しかし、もしもタイにおいて、これらの日系企業の活動が何らかの理由で停滞してしまったら、私達の部署は存在意義を失ってしまう。

このため、私達バンコック銀行日系企業部は、良質な金融サービスの提供のみならず、私達のお客様の業務に資するサービスの提供も行っている。お客様が各種トラブルに巻き込まれることを回避するため、労務問題や経営リスクに関するセミナーを年6回、開催している。「迎洋一郎さんによる工場診断サービス」は直接的にお客様の利益向上に貢献できる。日本政策金融公庫やファクトリーネットワークアジアのビジネスマッチングを支援することにより、我々のお客様の売り上げ向上の機会をつくることが可能だ。こうしたサービスは、既にバンコック銀行日系企業部の中ではルーティン化(日常化)している。

更に、私がこの数年間にわたって注力しているのが「新しいビジネス機会の創出」である。「日本とタイの間の観光推進」「両国の特産品を中心とした貿易促進」、そして「日本とタイの大学との産学連携機会の創出」である。こうした目的で、日本及びタイの地方大学を10校以上訪問し、新たなビジネスに結びつくヒントを得ようとしてきた。今回は、この大学訪問で得た私の新たな認識を披露したい。

◆苦しくなる大学経営

私にとって第一に印象深かったのは、日本の多くの大学が私の訪問を大歓待してくださったことである。学長や副学長を始めとして多くの方々が関心を示され、私1人の訪問に対して、10人以上の方々で対応して頂いた大学も複数あった。もちろん、今回の訪問はバンコック銀行が提携している有力地方銀行のお骨折りによって実現したものであり、これらの銀行と地方大学との深い取引関係が反映されたものと容易に想像できる。しかし、各大学の皆様とお話をするうちに、「現在の日本の大学が置かれている厳しい経営環境」にも起因しているものであると少しずつ気づいてきた。

若年人口の減少が急速に進む日本。特に地方の大学は入学者数の減少に直面し、経営が立ち行かなくなる事態が現実のものになりつつある。既に日本の私立大学のうち約半分は赤字経営に陥っている。更に2018年以降は、18歳人口が一層減少する事態(いわゆる2018年問題)を迎えることとなる。

こうした現実は、地方の国立大学の経営にも大きな影響を与えることとなる。2013年、文部科学省は「国立大学改革プラン」を策定し、このプランに基づいた各国立大学の運営と大学の補助金算定を開始している。私立大学のみならず、国立大学においても海外からの受け入れ留学生を含む学生数の維持・増加や、産学連携の推進は喫緊の課題となっている。こんな事情もあって、私は各大学の方々から真剣なお話を伺うことが出来た。

◆「スーパーグローバル大学構想」

ここで少し私たちバンコック銀行日系企業部の産学連携の試みについてお話ししたい。
私達の産学連携の試みはスタートしてはや2年が経っている。日本政府の全面的支援によってタイに設立された泰日工業大学のバンディット学長。1973年の創設以来日泰間の技術交流や人材育成に貢献をしてきた泰日技術振興協会(通称ソーソートー)のスチャリット理事長。タイ投資促進委員会(BOI)のボンゴットExecutive Director。その他、在タイ日本大使館、ジェトロなどの日本政府関係者にもご出席いただき、「産学連携部会」と称しこれまで定期的に会合を開いてきた。

この活動を通して、今年度は泰日工業大学のインターン学生4人の日本での受け入れ企業を見つける作業を行った。私どもの提携先銀行である山形銀行、千葉銀行、山梨中央銀行のご協力により、幸いにもタイ人学生のインターン受け入れ先を見つけることが出来た。この他、タイにおいて「産学連携案件の税制恩典の仕組みづくり」などを志向してきている。残念ながら、こちらはあまりうまくいっていない。

今回の日本の大学訪問に当たっては、これまで産学連携部会で議論してきたことを踏まえ、以下の事項について意見交換を行った。

①日本及びタイ人大学生のインターン受け入れ先の選定

②交換留学生プログラムの策定と日タイ大学間の橋渡し

③日タイ間の産学連携による技術開発

④日タイ間の学々連携

これら四つの課題のうち、すぐにでも実現可能と思われるのが、日本の大学生のタイでのインターン受け入れ協力であった。先程ご紹介した「国立大学改革プラン」の中にも、大学のグローバル化は新たな技術の創出や人材養成機能の強化などとともに重点項目の一つとなっている。「スーパーグローバル大学構想」の名のもとに、多くの国立大学が外国人留学生の受け入れや日本人の海外留学を増加させようとしている。

「ニュース屋台村」の拙稿第91回「データから読み解く『沈みゆく日本』」(2017年4月7日掲載)でもご紹介したように、米国の主要な経営学修士(MBA)校への日本人留学生数も2000年の4万6千人から2015年には1万9千人と半分以下に落ち込んでいる。日本人留学生の数は韓国の3分の1以下の水準であり、中国人留学生の32万8千人と比較すると17分の1と、日本の若者の国際化は大きく出遅れている。これでは日本の将来を憂えてしまう。

こうした事情もあって、文部科学省は各大学に日本人の海外留学を推奨しているのであろう。ところが世界の大半の国の大学が9月入学であり、日本の4月入学という特殊事情により、学部レベルでの交換留学制度はほとんど機能していないのが実態である。

◆短期留学でも生まれるチャンス

このためいくつかの大学は2週間から3カ月程度の短期留学を志向している。「2週間程度の短期留学では外国のことは何もわからない」と当初私はこの短期留学を否定的に考えていた。ところが海外旅行者を含む日本人の出国者総数もここ数年、1700万人程度で伸び悩んでいる。否、漸減傾向といってもよい。日本人全体が内向きで、海外に出向かなくなっているようである。こうした日本の事情を考えると、短期留学であっても若者を海外に出すことも必要なことだと考えを変えた。

ある大学の海外留学プログラムの例を取り上げてみよう。学生は2週間、シンガポールとタイに行き、政府機関、現地大学および現地に進出している日系企業などを訪問して帰国する。海外渡航の事前・事後にも日本で海外事情についての授業が組まれている。費用は日本学生支援機構(JASSO)から奨学金(10万円程度)が給付され、自己負担は約20万円となる。大学生を子供に持つ知人に聞いても、昨今の大学生は自分達で海外旅行にも行かなくなっていると聞く。こんな日本の状況の中で、たとえ2週間の短期海外留学であっても、このプログラムに参加することにより、若い人達が海外に眼を向ける契機となりうる。現地を実際に見るとともに、海外進出企業を知り、海外で働く日本人と話すチャンスが生まれる。

現在、バンコック銀行日系企業部では、日本のいくつかの大学に協力をして、海外留学に際して訪問する在タイ日系企業の紹介を始めている。またバンコック銀行の会議室を提供し、提携銀行からの出向者による講演を行うなどの協力もしている。今後は提携地方銀行を通じて更に多くの大学にこうしたサービスを提供していくつもりである。

日本の大学生の海外留学への協力はめどがついたものの、これ以外の産学連携や学々連携についてはどのようなことが出来るのかまだわかっていない。一方で、日本とタイの各大学が作成した研究シーズ集が徐々に私の手もとに集まりつつある。これら研究シーズ集の活用方法も含めて「今後私達に何が出来るのか?」をじっくり検討していきたい。

※「バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ」過去の関連記事は以下の通り
第91回 データから読み解く「沈みゆく日本」
https://www.newsyataimura.com/?p=6487#more-6487

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