п»ї 日系シェア100%の自動車市場『夜明け前のパキスタンから』第3回 | ニュース屋台村

日系シェア100%の自動車市場
『夜明け前のパキスタンから』第3回

6月 05日 2015年 国際

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北見 創(きたみ・そう)

日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

パキスタンの産業といえば、綿花の生産大国であるため「繊維」というイメージが強い。しかし、日系企業に限定するのであれば、「自動車」が最も重要な産業の一つだ。乗用車では、日系企業がシェア100%を占める貴重な市場となっている。自動車の普及はこれからで、成長が楽しみである。

◆年間20万台弱の市場

パキスタンの自動車産業は、1954年にゼネラルモーターズ(GM)とフォードの現地生産を開始したことが起こりとなっている。後発の日本勢は60年代から輸入販売を開始したが、国産化政策に伴い、スズキ(83年設立)、日産ディーゼル(84年)、日野自動車(85年)、トヨタ自動車(89年)、ホンダ(93年)と、大手メーカーが相次いでパキスタンに進出し、今日まで現地生産を行っている。

直近5年間のパキスタンにおける乗用車の販売台数は年間12万~16万台程度となっており、商用車は2万台前後であるため、14万~18万台が新車の市場規模となっている。そのほとんどが現地生産された自動車によって賄われている。

なお、正確な統計データはないが、中古車の輸入も多く、年間3万~6万台程度が主に日本から輸入されているといわれる。日本側の輸出統計でみると、2013年で2万4955台、14年で3万4393台の中古乗用車がパキスタンに輸出されている。

パキスタンの自動車生産台数の推移をみると、2006/07年度の20万4389台がピークとなっており、リーマン・ショック前後で半分まで落ち込んだ。これは2000年代前半に米国から対テロ戦争の最前線であるパキスタンに資金が流入した結果であり、パキスタンの真の実力ではなかったことが実情だ。

2014/15年度の10カ月間(7月~翌4月)の生産台数の合計は、乗用車が26.2%増の12万1645台、商用車が42.1%増の2万5778台であった。合計で14万7423台で、5、6月も同様の調子で生産販売が進めば18万台弱まで伸びそうだ。ピーク時には及ばないとみられるが、比較的好調であり、パキスタン消費者の購買力が上がっている兆候にもみえる。

◆乗用車では日系シェア100%

 2014/15年度の10カ月間(7月~翌4月)の乗用車販売台数は12万942台だったが、日系メーカーのシェアは100%であった。シェアが最も高いのはスズキの子会社であるパック・スズキで、市場の50%を占めている。次にトヨタ自動車が出資するインダス・モーターが34%、ホンダが16%といった順になっている。

今年度はカローラの販売台数が前年同期比62.2%増と大幅に伸びている。インダス・モーターは14年7月にカローラをモデルチェンジし、高級車種となる「カローラ・アルティス・グランデ」を発売し、売れ行きが好調となっている。

同社は設立25周年を迎え、カラチ市内のホテルで行われた記念式典では、トヨタ・モーター・アジア・パシフィック(シンガポール)社長でトヨタ自動車専務役員の井上尚之氏が「将来的な潜在性から、パキスタンは当社にとって最重要市場の一つ」と、スピーチの中で述べている。

◆「飛躍の時」は数十年後か

パキスタンの1世帯あたりの平均収入は2006/07年度の1万3349ルピー(1ルピー=1.2円)から、2013/14年度には3万999ルピーまで増加しており、中間層の造成も進んではいるのだが、まだ自動車を購入できる所得水準には達していないということだろう。

国際通貨基金(IMF)によれば、パキスタンの1人あたりGDP(2014年)は1343ドルとなっており、自動車が普及するであろう3000ドルの水準には遠く及んでいない。カラチの日本人駐在員の中にはインドネシア駐在経験者が多いが、そうした人たちに聞くと、「昔のインドネシアに状況が似ており、パキスタンもあっという間に3000ドルに達する可能性もある」という。

同じイスラム教の人口大国であるインドネシアは1996年に1394ドルに伸びた後、アジア通貨危機で停滞に入り、2005年に1404ドルに持ち直し、10年に3178ドルまで伸びた。エジプト、ナイジェリアも、インドネシアと同じように1500ドル前後で一旦は落ち込んだ後、急激な成長によって3000ドルを突破した。単純に、同様の軌跡をたどるとすれば、パキスタンが3000ドルを突破するのに十数年はかかる。

インド、バングラデシュと同様に、パキスタンも所得水準が上がっている。両国には日本企業の目は向いているが、パキスタンへの注目度はそれに比べると低い。今後、十数年で飛躍の時期が来るとして、それまでにどのような種まきをすべきか、思案のしどころである。

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