п»ї 消費税10%は棚上げか?『山田厚史の地球は丸くない』第30回 | ニュース屋台村

消費税10%は棚上げか?
『山田厚史の地球は丸くない』第30回

9月 26日 2014年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「安倍首相は来年10月に予定される消費税の税率引き上げを予定通り行うかは、11月に専門家を集め意見を聞いた上で、年内に判断したいと述べた」。

国連総会が開かれている米ニューヨークから、ニュースが届いた。総会に集まった世界のリーダーたちの関心事は、中東の過激派組織「イスラム国」の動向だ。オバマ米大統領はシリア領内の石油基地を爆撃し、各国に理解を求めた。人質を殺されたフランスはオランド大統領が「妥協はしない」と決意を語る。ウクライナも議論になった。

◆アベノミクスの化けの皮が剥がれだした

怖いのは、イスラム国だけではない。緊迫した国際情勢の中でも、安倍さんは消費税を語る。日本の「ガラパゴス状況」を感ずる一場面だが、外遊先の記者会見はどんな質問をするか事前に調整されている。国会審議と似て、事前に「質問取り」が行われる。内閣情報室の役人が同行記者の幹事とあらかじめ質問項目をすり合わせる。つまり首相に言わせたいことが質問になる。

外遊先でも消費税が話題になるのは、安倍政権にとって今最大の課題は、イスラム国でもウクライナでも北方領土でも北朝鮮拉致被害者でもなく、アベノミクスの行方なのだ。2回目の消費増税をするのか、しないのか。政権の命運を賭ける判断になるだろう。

結論からいうと、安倍首相は「10%への税率引き上げは先送りしたい」と考えている、と私は見ている。

アベノミクスの化けの皮が剥(は)がれだしたからだ。要因は二つある。4月の消費税引き上げと円安だ。ボディーブローのように家計を連打し消費を鈍らせている。

はっきり出たのが4-6月の国内総生産(GDP)。9月に発表された確定値は、年率換算で前期に比べ7・1%の下落だった。1-3月は消費税前の駆け込み需要があり、4月から反動減があることは織り込み済みだった。それが予想を超える勢いの落ち込みになった。反動減だけで説明がつかないほど消費は冷えた。

理由は「実質賃金の低下」だ。春闘は、政府が経済界の尻を叩いたこともあり一部だがベースアップが復活し、ボーナスをはずむ企業も目立った。連合の集計で賃上げ率は2・1%。久々の賃金上昇だ。所得が増えれば消費は伸びて当然だが、そうなっていない。

厚生労働省がまとめた7月の勤労統計調査(速報)によると、実質賃金指数は前年同月比1・4%減、13カ月連続の減少となった。物価の上昇が賃金の伸びを上回っている。主たる原因は円安だ。ガソリン・灯油、小麦・油脂など暮らしに欠かせない商品が軒並み値上がりした。

◆株が上がって喜ぶのは一部の富裕層だけ

安倍政権の「お手柄」とされていた円安が、暮らしを圧迫し始めた。

円高に苦しんでいた産業界は、円安を歓迎した。海外でドルを稼ぐ企業は円安になれば円換算の利益は膨張する。トヨタはドル相場が1円安くなれば400億円利益が膨らむという。上場企業のほとんどが海外で事業をしている。円安=株高となった。安倍政権の支持率は東証ダウと連動するといわれる。

だが、円安は一部の大企業が儲かっても、国内消費を飯のタネにする企業や消費者には厳しい。

株高はいいことのように語られるが、今や国民の幸福度ではない。企業が儲かれば、生産が拡大され、設備の発注や雇用が増える、というのがこれまでの経済だった。だから、株価が上がる=企業が儲かる=国民が潤う、とされてきた。

ところが、企業が儲かっても国内の発注や雇用は増えない、というのが最近の傾向だ。企業の儲けは内部留保と海外投資にまわる。設備投資し、雇用の恩恵は海外に流出している。日本はもう輸出立国ではない。自動車産業などはとっくに国際的な「地産地消」が始まっている。株が上がって喜ぶのは、株式投資で資産を運用する一部の富裕層だ。庶民や国内産業は逆風にさらされる。そのことがはっきり出たのが、4-6月のGDP統計である。

安倍首相は12月に確定する7-9月の数字など見て消費税率を引き上げるべきか判断する、というが、9月が終わろうとする現時点で景気に明るさは見えない。

9月の月例経済報告は「一部で足踏みがみられる」と景気見通しを下方修正した。ごまかしがきかないほど鈍化が目立ってきた。どうする安倍さん。

◆円相場と国債が暴落すれば内閣は吹っ飛ぶ

アベノミクスを吹き込んだ首相のお友達グループは、財政再建より景気拡大を重視している。金融の異次元緩和で物価を上昇させ、インフレを起こして経済を膨張させれば財政赤字は軽くなる、という考えだ。

4月からの増税が景気にブレーキを掛けた、さらに10%に消費税を上げるなんてとんでもない、という考えである。お友達に影響されやすい安倍さんは、この考えに近いだろう。だが、首相が自分の考えで経済政策を決められるか、といったらそう簡単ではない。

政策には継続性が欠かせない。経済のかじ取りを握っているのは財務省をはじめとする政府の官僚だ。日本政府はG7サミットなどで「財政の基礎収支を2020年までに黒字にする」と約束している。その前提は消費税増税だ。

財政再建を棚上げすれば「日本は大丈夫か?」という不安を市場に与えかねない。アベノミクスでうまくいっていたというのはウソだった、という評判が立てば日本国債が売られかねない。

景気回復に向かっていた視線が、財政赤字1000兆円を直視するようになれば、「円は危ない」という空気が広がるだろう。円安とは自国通貨が安くなることだ。本当の怖さを味わう「日本売り」は避けたい。円相場と国債が手を携えて暴落すれば内閣は吹っ飛ぶ。

消費税増税を先送りしたくても安倍さんが踏み切れないのは、このあたりの事情があるからだ。

暑い夏が終わり、肌寒ささえ感ずるこの頃だ。秋のテーマは「消費税の税率引き上げをすべきか否か」。うすら寒い懸案が、年末に向かって議論されることになるだろう。

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