п»ї 混迷深まるインドネシアの政権運営『東南アジアの座標軸』第8回 | ニュース屋台村

混迷深まるインドネシアの政権運営
『東南アジアの座標軸』第8回

5月 15日 2015年 国際

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宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

りそな総合研究所など日本企業3社の顧問。インドネシアのコンサルティングファームの顧問も務め、ジャカルタと日本を行き来。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

◆政策の一貫性欠如

最近、インドネシアのジョコ・ウィドド政権が発表する政策の一貫性のなさや、整合性のない施策が目立っています。その事例を紹介します。

昨年11月、大統領就任早々に議員や各省庁の幹部に対して頻繁に行われていたホテルなどでの会合を禁止しました。国家財政にゆとりがなく国民向けに経費節約をアピールしながら蜜室会議を禁止、透明性を促したのです。ところが、そのあおりを受けたホテル業界の陳情があったのか、外部から横やりが入ったのか分かりませんが、4月に禁止令は解除されています。

次に、ルピア安を防止するための諸政策の一環として4月に外国人観光客を呼び込むとして30カ国からの外国人に対するビザ免除を打ち出しましたが、節操のないビザ免除は相互主義(レシプロ)を標榜する移民法にも抵触するとして撤回に追い込まれました。外国人観光客がドルを国内に落としてくれることに期待したのです。ちなみに政府は通貨法の規制を強化して年内にも国内ではドルを禁止してルピア使用を義務づける予定です。

さらに、政府はイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」などに感化されるインドネシア国内過激派の動向を危惧(きぐ)してインターネット上の過激なウェブサイトの検閲を強化してアクセスを禁止しましたが、国民から「表現の自由への侵害」との批判が出たことから問題サイトを再び解禁しています。

また、上級官僚や政治家に自家用車保有のため公費支出するとして署名した大統領令も国民からの批判で撤回に追い込まれました。ジョコ大統領本人の弁は、大統領令の内容を良く読まずに署名してしまったとのことでした。

このほか、昨年11月に発表した中部ジャワのチラチャップの5000メガワット発電所建設計画は、その後の検証過程で経済合理性を欠くとして中断されました。また、ルピア安防衛策の一環として資源の輸出に関する輸出信用状の利用義務付けなども現場実態にそぐわないとして、すぐに撤回や延期申請を認めるなどして骨抜きの政策になりました。輸出売却代金のドルが国内に回されず海外の口座に入金されるのを防止する狙いでしたが、これまでの市場慣行は輸出信用状を利用しない取引が主流でした。

加えて、財務省による税収強化の一環として高速道路の通行料に付加価値税を課すという発表も、景気後退の状況に配慮して断念しています。また、外国人にインドネシア語検定試験を義務化するという発表も、撤回される方向になりました。

このように諸政策や諸規制を突然発表して結果的に撤回や修正に追い込まれる事例は前政権時代もありましたが、朝礼暮改にも似た一貫性のない諸施策を発表・発出するのは理解に苦しむところです。これこそ、外国投資家が懸念している「レギュラトリーリスク」(規制リスク)です。

◆メガワティ元大統領の「院政」

ジョコ氏は、現在の最大与党・闘争民主党の党員として国民からの支持を受けて直接選挙で大統領に当選しました。国民からの支持が政治家として基盤であり、経済成長を果たし国民の所得向上につながる政策実現が生命線です。

ところが今年になり、国家警察長官の後任人事を巡る大統領直属の汚職撲滅委員会(KPK)と国家警察との組織対立の原因を招いたことや、支持母体である闘争民主党からの執拗(しつよう)な圧力、大統領選でペア当選したカラ副大統領との関係悪化や確執が伝えられるなど、与党内での政治基盤がなく政治的妥協を余儀なくされる政治判断も多いと思います。

この辺りの事情が政策の一貫性のなさにつながっていることは想像に難くありません。国民からの支持率も就任時に比べて20%程度低下、政治圧力に翻弄(ほんろう)されながら安定した経済成長の実現に向けて一刻も早く成果を出したいという焦りもあると思います。

「仕事師内閣」を標榜(ひょうぼう)して任命した各大臣は、担当省庁が直面する各政策課題に対しても早期に実績を上げようとして関連省庁間の協議や連携も満足に行わず、他省庁と先を争うかのように政策や規制を発表。政権内部でもチェックが効いておらず、結果的に経済の実体にそぐわず、政策効果も乏しいため批判を受け、撤回や中断に追い込まれるという背景が透けて見えます。

先ごろ行われた闘争民主党の党首選は、対抗馬がないままメガワティ元大統領が党首に再選され、2020年まで党首を担うと共に、息子と娘を副党首に就任させています。新聞報道では「メガワティファミリー党」と批判されていますが、党首再任後の党員への声明でジョコ大統領に対して「国民の支持を受けた党の政策や方針を順守すべき」と強烈なアピールをしています。まさにメガワティ党首が「院政」を敷いている構図を国民に示したのです。

次期国家警察庁長官の人事に介入したのはメガワティ党首でした。大統領時代の警護官を務めたブディ・グナワン氏を推薦するようにジョコ大統領に働きかけましたがKPKから不正蓄財を公表され、候補不適格との烙印(らくいん)を押されたことで長官候補から外れました。

ところが、新たに任命されたバドロディン長官の定年は1年余りで、後任に再びブディ・グナワン氏を充てようとの意図から、今度は国家警察副長官に任命されました。来年改めてこの問題が再燃して政権を揺さぶることは必至です。

◆守旧派勢力が伸長 改革派は劣勢に

まさに現政権は、与党連合の政治的圧力と国家権力間の抗争、国内経済成長の停滞から内政面では問題続出です。ジョコ大統領は、4月下旬からアジア・アフリカ会議(バンドン会議)の60周年式典、同時期に開催された世界経済フォーラムのホスト役、さらにマレーシアでのASEAN首脳会議など外交面では国際会議日程を無難にこなしました。しかし、内政面では政治リスクが顕在化し、経済が減速傾向を強めるなかで、再び指導力を発揮できるのか、あるいはこのまま政治圧力から妥協を繰り返して与党連合に操縦され、レームダック化が予想外に早く進んでいくのか予断を許しません。ジョコ大統領の政治基盤について、既得権を持つ守旧派勢力の伸張は著しく、改革派はますます劣勢になっており、インドネシアの先行きには楽観は禁物だと思います。

さて、インドネシアでは4月からコンビニなどでのビール販売が禁止されました。若者が手軽にアルコール飲料を購入できなくする措置です。さらに国会では、イスラム政党から提出される国内でのアルコールの生産、販売、消費を禁止する「禁酒法」の審議を予定しています。背景には、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の影響を警戒する動きがあります。インドネシア人の多くはシリアを含む中東に出稼ぎに行っています。シリア情勢の悪化で帰国者も増えており、ISに感化されたインドネシア人が国内で過激な活動を引き起こしかねないとして、いまのうちにイスラム教で禁止されている飲酒を制限して厳格化しておきたいとの思惑があるようです。

法律化されれば、多くの外国人や観光にも影響を与える可能性があります。ちなみに、インドネシアのイスラム教徒の主流はスンニ派ですから、宗派としてはISと同根です。このような背景もあり、治安当局はテロに対する警戒感を強めています。

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