п»ї 神鷲ガルーダの光と影 『東南アジアの座標軸』第26回 | ニュース屋台村

神鷲ガルーダの光と影
『東南アジアの座標軸』第26回

3月 28日 2018年 国際

LINEで送る
Pocket

宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

長谷工コーポレーションの海外事業の顧問、インドネシアコンサル会社アマルガメーテッドトライコール非常勤顧問。関西大学大学院で社会人向け「実践応用教育プログラム」の講師、政策研究大学院大学で「地域産業海外展開論プログラム」の特別講師を務める。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

学生時代にイギリスの作家ヒギンズの小説『鷲は舞い降りた』が大ベストセラーになり、私も魅了された一人です。鷲を化体した神鷲ガルーダは、インドネシアの国章で象徴ですが、なかでもガルーダ・インドネシア航空(以下ガルーダ航空)はその代表です。

◆世界最高評価のエアライン

インドネシアの航空会社は、2005年9月のマンダラ航空機墜落事故、07年1月のアダム航空機墜落事故、さらに同年3月にはガルーダ航空もジョグジャカルタ空港で着陸に失敗し、重大事故を起こしました。米連邦航空局は相次ぐ航空機事故を受けて、運航安全管理への重大懸念から07年に北米への乗り入れを禁止、欧州委員会〈欧州連合の政策執行機関〉も欧州への運航禁止措置に踏み切りました。

インドネシアの航空当局や航空会社は、安全な運航管理に向け多くの努力を続けた結果、欧州委員会は09年にガルーダ航空に欧州への運航再開を認め、米連邦航空局も16年8月には運航安全性を確認して北米への乗り入れ禁止措置を解除しました。

ガルーダ航空は、この解除を受けて成田経由のロサンゼルス便とニューヨーク便の就航を検討しています。乗り入れ禁止から10年以上の歳月を経て、地上に舞い降りていた神鷲ガルーダにようやく北米の空を飛行できるチャンスが訪れました。

ガルーダ航空の復活は、欧米への運航再開にとどまりません。世界の空港や航空会社を評価する英国の航空サービス調査会社スカイトラックスは15年から3年連続で、ガルーダ航空を世界最高評価となる「5スター」と認定しています。ちなみに、17年に「5スター」を受賞している航空会社はガルーダ航空以外ではANA(日本)、アシアナ航空(韓国)、キャセイパシフィック航空(香港)、シンガポール航空(シンガポール)、エバー航空(台湾)、海南航空(中国)、カタール航空(カタール)、エティハド航空(アラブ首長国連邦)など一流の航空会社9社です。

さらにガルーダ航空は、客室乗務員の評価でも14年から4年連続で「ベスト・キャビンクルー賞」を獲得し、国際線運航の航空会社としての地位も着実に固めています。

私はインドネシア在住当時、ガルーダ航空国内線への搭乗機会も多く、内心一抹(いちまつ)の不安を抱きながら利用していました。しかし、国際線はスカイトラックス社の評価が示すように、新機材を導入し、客室乗務員サービスや機内食も飛躍的に向上しており、外国人の評判も上々です。

インドネシアの航空産業は、経済成長により搭乗客の更なる増加が期待される成長分野です。慢性的な交通渋滞でジャカルタ市内から空港へのアクセスが極めて不便であった状態は空港鉄道の開通により改善されました。また、シンガポールのチャンギ空港ターミナル1と同じ予算を投じたにもかかわらず実に貧祖なジャカルタのスカルノハッタ空港ターミナルは、ターミナル3の開業により刷新され、利便性向上から旅客・利用客の拡大にも弾みがつきそうです。

◆外部環境の悪化で経営の舵取り困難に

このようなガルーダ航空の状況を説明すると、一見したところ順風満帆に見えますが、同社の経営には大きな影が差しています。

ガルーダ航空の前社長兼CEO(最高経営責任者)エミルシャ・サタル氏は、ガルーダ航空が保有するエアバスの航空機エンジン部品納入業者の英ロールスロイス社から4百万ドル以上のわいろを受けて便宜を図ったとして、17年に汚職撲滅委員会(KPK)から収賄容疑で摘発を受けています。さらに今年2月にKPKは、ガルーダ航空の企画部門の副社長とリスク管理部門の担当役員もこの事件に関与があったとして捜査を始めており、経営を揺るがす問題はまだまだ長引きそうです。

ロールスロイス社はインドネシア以外のタイやカザフスタンなどでの贈賄容疑を認め、英国の贈収賄防止法と米国の海外腐敗行為防止法の適用を受け、当局に対して8億ドルの制裁金を支払うことで合意しています。

さらにガルーダ航空の17年連結決算は、国際原油価格の上昇に伴いジェット燃料費の増加などが主たる原因となり14年以来の赤字に転じています。世界最高ランク評価の追い風で国際線の旅客輸送量は前年比で大幅な伸びを示しましたが、国内線は格安航空会社(LLC)との競争が激化し、前年比で純減となっています。

経営陣は運航路線の再編を進め、経費削減を通じて18年度は黒字化を目指す考えのようです。しかし、トランプ米大統領は11月の中間選挙を控えて支持層に対し「米国第一」の姿勢を示す予見不可能な政策を次々に掲げており、これが逆風となって年内の米金利の利上げペースの拡大観測から、世界的な株式市場の適温相場が崩れています。インドネシアではルピア相場の一層の下落と外国投資資金の大幅な流出に見舞われており、外部環境が急速に悪化しています。

こうした状況を背景に、ガルーダ航空の経営の舵取りは困難を極める様相を呈してきました。ヒギンズの小説の続編『鷲は飛び立った』のように、神鷹ガルーダはうまく飛び立つことができるでしょうか。

コメント

コメントを残す