п»ї 縦割り官僚支配からの脱皮―日本がもう一度輝くために(4)『翌檜Xの独白』第4回 | ニュース屋台村

縦割り官僚支配からの脱皮―日本がもう一度輝くために(4)
『翌檜Xの独白』第4回

11月 15日 2013年 社会

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翌檜X(あすなろ・えっくす)

企業経営者。銀行勤務歴28年(うち欧米駐在8年)。「命を楽しむ」がモットー。趣味はテニス、音楽鑑賞、「女房」。

わが国では、なぜ産業界の新陳代謝が進みにくいのでしょう? また、新しい企業が勃興しにくいのでしょう? 今回はその点について考えてみたいと思います。

やはり最大の原因は、縦割りの行政組織にありそうです。本稿の2回目で、経済成長につれて官僚組織が肥大化・部分最適化の道を歩んだと指摘しました。部分最適化した官僚組織は、全体最適など全く考慮の外に置きながら自らの領分を広げ、そこにおける利権の確保が自己目的化しました。

誤解のないように言っておきたいのですが、官僚一人ひとりに問題があるということではないのです。私には役人の皆さんに何の恨みもありません。ただ、ここまで強固な枠組みができてしまうと、その行動原理や組織行動を変えるのはほとんど革命に等しいほどのエネルギーを要するようになります。これはあくまで私の想像ですが、優秀で使命感があり、良心に富む人であればあるほど悩み、結局は無力感のうちに諦め、朱に染まることを選ぶか、もう少し気骨のある人は外へ出てしまうのではないかと思うのです。

実はこの想像は私自身の体験を踏まえたものなのです。私は学生の頃、途上国支援を志し、国際機関で働きたいと思っていました。残念ながらそれは実現せずに民間企業に勤めることになったわけですが、30代半ばで国際機関で働く機会を得ました。短期間であったこともありそれなりに楽しめたのですが、本音で言うとそこに永久就職しなくて良かったというのが正直な思いです。

と言いますのも、思い描いていた組織とその中で経験した組織では大きな隔たりがあったからです。組織がその創設時の理念や志を維持発展させるというのは実はなかなか大変なことなのです。とりわけ外部からのチェックがかかりにくい組織は往々にして当初の理念から離れ、それ自体のための論理が働き始めます。加えて、ポストに限りがある組織に必要以上の能力が集まると、そのエネルギーは本来の目的に向かってではなく、内部に向かいがちです。

◆新陳代謝を阻む「護送船団方式」

私が経験したその国際機関では、オフィサーとして働くには最低でも修士の資格が必要とされ、多くの人たちは博士号を持っていました。その知的能力が本来の目的に向かうのではなく内向きに働くと、本来の組織が目指す方向とは違う方向にエネルギーが使われます。

同じように、わが国においても経済界を所管する官庁が業界ごとに異なり、それぞれが自分の縄張りに影響力を行使しようとします。「護送船団方式」という言葉をよく聞きますが、所管官庁とその管轄下にある主要企業は持ちつ持たれつの関係にあります。

企業は役人の面倒を見る見返りに業界内の秩序維持を求めます。役人の方は自分たちの将来の落ち着き先を求めるわけですから、下手に新規参入など認めると統制しづらくなります。ましてや海外からの参入が自由に行われるなどトンでもありません。勢い既存の秩序が守られることになり、新陳代謝が起こりにくくなります。従って、秩序の保たれている古くからある業界で大きな新陳代謝が起こることはまずありません。

新規ベンチャーの勃興があるとすれば、既存の業界とは一線を画した領域、既存の大企業が持たない技術をベースとし、かつ大きな資本を必要としないような事業、例えばITの知見や独自の技術を持つEC関連事業、バーチャルなゲーム事業、モバイル周りの事業などが中心となります。

大半の業界では、本来の競争力をなくした企業であっても温存されるため新陳代謝は起こりにくく、労働の企業間・業界間の移動は限られることになります。また、人は同じ職場で長く働くことによって、その集団内でのルールが常識となり、汎用的なスキルの形成がされにくくなり、新たな産業・企業が勃興してもそこへの労働力の供給がされにくくなります。

◆Googleで垣間見たプロフェッショナルな世界

先般ひょんなことから、米カリフォルニア州のGoogle本社を訪ねる機会を得ました。正しいか正しくないかではなく、素直に新鮮さを感じました。複数の事務棟が同じ敷地内に建てられていましたが、日本の大企業のオフィスとは全く似ても似つかないレイアウトと雰囲気でした。もちろん背広・ネクタイ姿の人物は皆無です。至る所に簡単な食事ができるキャンティーンがあり、仮眠の施設がありました。またオープン・クローズドを問わず、数多くのミーティングスペースが設置されていました。

通勤には会社からバスが用意されており、サンフランシスコの渋滞を気にすることなく、通勤途上もパソコンやiPadで仕事ができる環境が与えられています。長時間オフィスで仕事をすることには価値がなく、要求されるのは周りへの情報発信と取り組んでいるテーマに関するアウトプットのみだそうです。さらに、経営者による週に一度の会議は原則オープンで、イントラネットで誰でも視聴できることになっています。

シリコンバレーには同じような勤務形態をとる会社が幾つかあるようで、特定のスキルを持った社員が転職することも稀(まれ)ではないようです。働く人たちは活気にあふれ、いかにも新たなアイデアが湧出しそうな雰囲気に満ちていました。

行政指導という名の責任を伴わない恣意(しい)的な権力行使と何十年も変わらない職業倫理。もたれあいに裏付けられた安定という名の停滞。退出すべき企業が保護され、新しい命が生まれにくい体質。その組織でしか通用しない論理やスキル。労働の流動性が限られているため、国全体としての資源の最適配分が難しいのが現在の日本。

反対に、自分の強みを意識しそれを尖(とが)らせるプロフェッショナル志向。個人の能力を最大限引き出す環境の創出。個人の側からは、自分の働き場所を求めて自分のつくりうる価値で勝負する世界。労働の流動性が高く、自分の価値を意識しつつその価値を生かせる場を求め移動する文化。

科学技術の進歩がますます加速化するこれからの世界で、どちらのモデルが優位性を持つかは明らかではないでしょうか?

二つのモデルを対比するために若干極端に図式化する形となりましたが、現象としての違いは、適度な新陳代謝を通じて新たな命が生まれやすいかどうかです。ダイナミックに変化するこれからの世界で勝ち残っていくためには、官僚自身が矛盾を感じている縦割りの官僚支配からの脱皮が不可欠のようです。

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