п»ї 軽自動車市場は「ガラパゴス」か?『山田厚史の地球は丸くない』第21回 | ニュース屋台村

軽自動車市場は「ガラパゴス」か?
『山田厚史の地球は丸くない』第21回

5月 16日 2014年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の3行が経営統合して「みずほグループ」が誕生した時、「コメ銀行脱却できるか」という見出しの記事を書いた。護送船団行政という閉鎖市場で育った銀行は、政府の保護で成り立つコメと似ている、規模が大きくなればグローバルな競争に勝てると思ったら甘い、という趣旨の記事だった。

銀行は「失礼な」と大変なお怒りだったが、その後の展開を見ると、「みずほ」はやはりコメだった。

◆国内新車販売で40%を占める「ガラ軽」

コメは世界と遮断した市場で、日本の消費者だけにもてはやされる商品の象徴だが、最近はもう少しモダンな表現がされるようになった。「ガラパゴス」である。世界の進化から取り残された産業。銀行だけではない。日本の携帯電話市場でかつて主流だったガラパゴス携帯、通称「ガラケイ」は、海の外からやって来たスマートフォン(スマホ)の荒波に息絶え絶えだ。政府の保護下にある通信業者が求める日本独特の機能とサービスに特化した結果、国際市場から取り残されたのである。

軽自動車も日本独特のクルマだろう。排気量660cc以下は「庶民の足」とされ税の優遇を受けてきた。限られた国産メーカーだけで市場を分け合い、独自の進化を遂げてきたのはガラパゴスと通じるものがある。携帯のガラケイをもじって「ガラ軽」などと呼ばれるようになった。

昨年暮れの税制改正で、軽自動車への優遇税制が削減された。快走にブレーキをかけようという動きの背後にトヨタ・日産がいる、とも業界で言われた。国内で新車販売の40%がいまや軽が占める。ダイハツとスズキが軽市場を二分し、ホンダが割って入ろうとしている。トヨタ・日産は軽を生産していない。日本を代表する自動車メーカーが生産車種を持たない市場が急激に膨張しているのをなんと考えたらいいのか。

「世界に類がないクルマが増殖する日本市場はゆがんでいる」というガラ軽批判は海外のメディアでも取り上げられるようになった。

こうした見方にスズキの鈴木修社長兼会長が5月9日の決算会見で吠えた。

「ガラ軽などガラッパチの言うことだ。現実はそうでない」。

記者から「ガラ軽という指摘があるが」と問われ、ズバリと切り返した。

鈴木さんは常々、次のように言っている。

「軽自動車は日本の宝だ。悪しざまに言う人は、世界の流れが分かっていないか、分かっているから敢えてそう言っているか、どちらかだ」

「なぜ米国が軽自動車制度を壊そうとするのか。なぜフォルクスワーゲンがスズキの株を手放さないのか。世界の潮流である小型化の先端に軽があるからだ。彼らは軽のようなクルマを造れない」。

日本の軽は進化から取り残されたガラパゴスではない、むしろ進化の先端にある、と見るべきだ、というのである。

◆小型化と品質を両立させる製造技術は日本のお家芸

携帯のガラケイは海外で売れなかった。ところが軽は途上国で売れている。軽の車体に1000ccエンジンを積んで走っている。軽量・低燃費・安価。性能に不足はない。見栄を排した実用車として人気がある。クルマはもっと小型になる。小さくて性能がいいクルマを安く造る競争がこれから始まる、というのだ。

日本で、軽は2台目のクルマとして地方で伸びた。交通の不便な地域で中心に伸びているが、最近は都会でも軽が増えている。ガソリン価格の高騰が背景にあるが、クルマが家族の乗り物から個人の足になる中で、取り回しがいい小型車に人気がシフトしている。

スポーツカーや高級乗用車はすたれないだろう。その一方で動力が電気や水素になっても、人々にフレンドリーな足になるのは簡素で品質の伴う小さなボディーが求められるだろう。

アメリカのビッグ3(GM、フォード、クライスラー)が小型車戦争で敗れたのは、利益が稼げる大型車にこだわったからだ。性能がいい小さいクルマを安く造ることは容易ではない。

トヨタが軽に手を出さないのも、レクサスに象徴される高級車種を造った方がもうかるからだ。軽は子会社のダイハツに任す。深読みすれば、ダイハツを凌(しの)ぐような軽を造る自信がないからかもしれない。

ホンダは軽に復帰した。小型車のフィットで販売を伸ばし、小さいクルマで利益を出すノウハウを身につけたからである。

小型化と品質を両立させる製造技術は日本のお家芸だ。独特のモノづくり文化をガラパゴスで終わらせるか、市場の最先端に押し上げるか。決めるのは市場である。

世界の趨勢(すうせい)を決めるのはアジア市場だろう。日本を席巻した軽が、インド・中国・ASEAN(東南アジア諸国連合)域内でどんな展開になるのか、競争相手はもはや欧米メーカーではない。

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