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電撃解任されたFBI長官の「選択」
『時事英語―ご存知でしたか?世界ではこんなことが話題』第28回

5月 16日 2017年 文化

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SurroundedByDike(サラウンディッド・バイ・ダイク)

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勤務、研修を含め米英滞在17年におよぶ帰国子女ならぬ帰国団塊ど真ん中。銀行定年退職後、外資系法務、広報を経て現在証券会社で英文広報、社員の英語研修を手伝う。休日はせめて足腰だけはと、ジム通いと丹沢、奥多摩の低山登山を心掛ける。

今回は、米国で発行されている雑誌「ザ・ニューヨーカー」(The New Yorker)に掲載された記事を紹介する。この雑誌は、表紙のデザインを見るだけで楽しくなる。そして、その表紙と記事の見出しに使われるフォントは他の雑誌とは違う。おしゃれである。ニューヨーク・マンハッタンをはじめとする米国東部、あるいはサンフランシスコなどの都会をさっそうと闊歩(かっぽ)する知性派40歳以上の女性が典型的読者階層と私は勝手に想像している。

◆野性的かつ個性的な論述

昨年11月の米大統領選直前に、FBI(米連邦捜査局)がクリントン候補の私用メール問題の再捜査を実施すると公表したことについて、米国、そして世界が困難な状況、あるいは劇的な緊張緩和にむかう決定的な契機と将来見なされることになるかもしれない。今回はその関連でまさに渦中の人、コミーFBI長官に対する上院司法員会での証言内容を取りあげたものだ。

実はこの記事の翻訳進行中にコミー長官がトランプ大統領に電撃解任されるに及んで、この記事が示唆していると思われる、トランプ氏への協力者としての単純なレッテル貼りはあてはまらなくなった。さりながら、後述のファインスタイン上院議員との質疑で繰り広げる論述ぶりは実に野性的、個性的である。日本の警察庁長官あるいは国家公安委員長が国会で行ったらみんながひっくり返る。

言っていることが真実で、本当にそう思っているとしたらあきれるほど英雄的である。期せずしてここ数日来、2メートル超(と思われる)の体躯(たいく)で映画スター級のイケメンのコミー氏がテレビのニュース画面に登場している。

それにしても事実はいったいどうなっているのだろうか? ロシアの関与の有無、トランプ氏の予測不能でワイルドな言動と今後の展開に目を離せない。以下、小見出しから全訳で紹介する。

◆「心の中に現れた二つの扉」

The F.B.I. director, James Comey, framed his testimony about announcing a renewed look at Hillary Clinton’s e-mails just ahead of the Presidential election in a way that may have been self-serving. ――By John Cassidy May 3, 2017 (FBI長官のジェームズ・コミー氏は大統領選挙直前に行ったヒラリー・クリントン氏のeメール再捜査公表について、自分に都合の良い理論構成のもとで証言を行った 2017年5月3日 ジョン・キャシディ)

ジェームズ・コミーFBI長官が水曜日(5月3日)の上院司法員会での証言の際、同委員会の・少数党有力メンバーであるダイアン・ファインスタイン議員はずばり核心に迫った。

コミー氏に、昨年11月の選挙の結末に自らを巻き込むことになった決断への説明を求めたのである。彼女は尋問した。「大統領選挙の11日前にその中に何が入っているのか不明なまま、なぜ追加のコンピューターの捜査開始を公表する必要があったのか? なぜ、あなたがいつもするように、公表せずに捜査を行わなかったのか?」

コミー氏は非常に落ち着いて見えた。彼は開口一番、いかに自分の職務を大事に思っているかを述べ、「はい、議員、良い質問をいただき、ありがとうございます」とファインスタイン氏に答えた。「10月27日に、クリントン議員のeメールに焦点を絞った捜査を7月に終えた部下たちが私に面会を求めてきたのです」

コミー氏は、ヒラリー・クリントン氏の元側近フーマ・アベディンの元夫であって今は不品行が原因で面目失墜の元議員アンソニー・ウィーナー氏のラップトップパソコンに何千にも及ぶクリントン氏のeメールとおぼしきものを彼と捜査担当者たちが発見した際に話したいきさつを思い起こしていた。FBIはウィーナー氏が未成年の女性に(犯罪行為の意図をもって)接触したことに関連したいわば別件の捜査過程で、その問題のラップトップパソコンを押収していたのである。

しかし、捜査官たちはそのパソコンに入っているeメールには、最初の捜査では発見できなかった国務長官就任後最初の3か月間でのやりとりの一部が含まれているだろうと考え、「彼女が悪意を以て行動していたことの証拠が存在するならばそれは任期初めの3か月で交わされたメールのなかにあると思われる」ので重要な情報であった、とコミー氏が言った。

そこでコミー氏は彼のスタッフに捜査のための当該パソコン押収令状入手を認めた、と述べた。

「そして、私は選択を迫られた」と、彼は早口で続けた。「そして、私は選挙が近づいている時に影響を及ぼすと考えられる行動は、その選挙が野犬捕獲者であろうとアメリカの大統領であろうとどんな役割の人を選ぶためのものであっても、回避できるならばそうする伝統を守りながらこれまで仕事をしてきた。しかし、その日の朝、そこに座って、脳裏に浮かんで見えるドアに『行動を控える』との選択ラベルはなかった。(実際には)二つのドアが心に現れたのであるがそれらには両方とも行動すべき、とのラベルが貼られていた。そして、片方は『スピーク』であり、もう一方は『隠せ』のメッセージであった」

(16年)6月、コミー氏はクリントン氏の国務長官在職中の私信eメールサーバー使用を巡る捜査が終了した旨を公表した。そして、FBIはクリントン氏と彼女の側近たちが極秘情報の取り扱いに極めて「軽率」であったと結論づけながらも、刑事責任を問うことは進言しなかった。(だから)ウィーナー氏のパソコンにあるeメールを調べる再捜査を始めるためには、それを公に発表しないでいることは「自分の見解では隠ぺい行為を犯すことになる」とコミー氏は述べた。

「そこで、(胸の内で描いた)『スピーク』と『隠せ』の両方の選択肢ラベルをじっと見つめた。『スピーク』を選ぶことは本当にまずい。11日後には選挙だ。ああ、本当にやばいことになる。(でも)自分の中では隠すことは壊滅的なことになる。言わないでいることの破滅的結末はFBIにとどまらず計り知れない範囲にまで及ぶことになるのだ。そこで、正直に言うと、『本当にまずい』、あるいは『破滅的結末』のどちらかの選択が迫られるなか、私はチームに言明した。『我々は実にまずい事態に向かわねばならない。私は議会に対し再捜査を始めると告げねばならない』と」

コミー氏は強調する。仮にもし同じ局面に再度遭遇してもまた同じ選択をするだろう、と。「いいですか、ひどいことになりました。選挙に影響を与えたかもしれないと考えると少し吐き気がするくらいだ。でも正直、だからと言ってその決断を変えることにはならない。私にその決定に賛成できない人には(再捜査開始を公表した)10月28日の時点まで私と一緒に戻り、その選択の場面に立ち会ってもらい、あなたならどうするかを明らかにしてもらわねばならない。すなわち、言うか言わないかを」

ファインスタイン氏は、コミー氏がその問いを発するにあたり、自らの行動を用意周到に正当化する理屈を考えているであろうと想像したためか、その問いに直接答えることはしなかった。

ウィーナー氏のラップトップパソコンから見つかったeメールは、普段から直球しか投げない人物と評されているFBI長官を本人自らが言う通り、明らかにひどく難しい立場に追いやった。しかし、政治的マターに干渉しているように見られるのを避けることはFBIにおける単なる伝統などではない。昨年10月にクリントン氏の選挙陣営と多くの法務省の役人が指摘したように、検察官と司法当局の役人たちに、選挙に関係する微妙な事柄を持ち込んだり、それらについて公にコメントしないよう指示したりする正式な決まりやガイドラインが存在するのである。

◆「長官は大きな賭けをした」

コミー氏はなぜこれらのガイドラインを無視することを選んだのか? クリントン氏の再捜査のニュースは、いずれにしても選挙前に漏れてしまうと恐れたのだろうか? 水曜日に行った回答の一つのなかで、コミー氏はFBIのニューヨークオフィスの誰かが(元ニューヨーク市長の)ルディ・ジュリアーニ氏らに資料を漏洩(ろうえい)していることをほのめかしている。そしてまた、コミー氏は10月、クリントン氏が勝利すると予想し、選挙前にクリントン氏を不利にする資料をFBIが入手していてそのことを隠していたことがあとで知れて共和党議員たちが議会で怒り狂うのを恐れた可能性もある。

「長官は大きな賭けをした」と、カリフォルニア州選出の民主党先任上院議員のファインスタイン氏は述べ、さらに「ギャンブルは、クリントン氏の大統領候補としての適格性が否定される何らかの事実が出てくることに賭けたこと。そしてそうはならなかったのである」と。

ファインスタイン氏はまた、コミー氏に議会に知らせることに関して彼の部下の間で意見の対立がなかったのか、とも聞いた。(これに関して)コミー氏は若手弁護士から、それはドナルド・トランプ氏が選ばれるのを助けることになりはしないか、と聞かれたことは認めた。コミー氏は「私は、『それを言ってくれてありがとう』」とその弁護士に答えたと述べ、さらに続けた。「瞬時たりとも(FBI内での意見対立は)なかった。なぜなら、(そうしないと)アメリカの独立機関としての死につながるからだ。私は誰それの政治的運命にどう影響するのか、などということをいちいち考えていられないのだ。我々は常に自問するのだ。今、正しいのはどうすることなのか? そして答えを実行するのみだ」と。

コミー氏の言動はすべてもっともで力強く響く。しかし、それならここで明らかな疑問が生じる。すなわち、トランプ氏の選挙陣営に繋(つな)がる人物たちがロシアと秘密裏に共謀したのではないか、の捜査をすでに始めていたことをコミー氏はなぜ議会に言わなかったのか? クリントン候補が機密事項を誤って取り扱ったことは確かに重大である。しかし、その事柄自体は深刻度において、(国家に対する)背信とか反逆とはとても同列に並ぶものではない。

この問題をコミー氏にただす役割は民主党のバーモント州選出上級議員のパトリック・レーヒー氏に一任された。レーヒー氏は、FBIがクリントン氏の私信メールの件に関しては内部メモや面談記録を公開していることを指摘した。「私が知らないだけかもしれないが、このようなことが起きたのは42年間の議員生活でも見たことがない。しかし、ドナルド・トランプ氏を支援する不法な企みの恐れについての捜査に関し、あなたは全く何にも触れていない」とレーヒー氏は述べた。さらに、レーヒー氏はただした。「あなたが片方の捜査についてのみ繰り返しコメントしながら、もう一方のことは何も言わないことが果たして適切なのか?」と。

コミー氏は答えた。「正しい、と思う」。彼は二つの捜査案件とも同じ原則の下、首尾一貫した方法で取り扱っている。FBIは公の調べが始まってから3か月を経過するまでその存在を確認できなかった、と述べ、さらに、FBIはその件については捜査が済むまでそれ以上の事は何も言わなかった、と続けた。トランプ氏の捜査についてはコミー氏は次のように加えた。「その件に関しては、これから先数か月先に至るまで一言だって発しない。調べが終わるまで沈黙することになるだろう」と。

このような調子で始まって、彼の議論は自分を防御する態度に思えた。しかし、コミー氏の二つの扉の比喩(ひゆ)にみられるように、彼の理屈の組み立ては、やや自分に都合のいいようにしている可能性がある。

ある報告によれば、米国の情報機関と司法当局がトランプ陣営とロシア政府につながりのある人物たちとの接触を捜査し始めたのは昨年の春である。それが事実であれば、その捜査はすでに10月までに3か月より長く進んでいたことになる。しかし、コミー氏は今年の3月までその存在を確認できなかったと言うのである。

多分、この件の捜査遅延については合法的な理由があるのであろう。察するに、捜査対象に関する情報を知られたくなかったのであろう。しかし、そのことはこれらの重大発表のタイミング選択について、ある程度の自由裁量があることを意味するのだ。――まさに、コミー氏が昨年10月にもう一方の事案において許容を拒絶した時間的余裕についても同じである。

※本稿筆者のジョン・キャシディ氏は1995年以来「ニューヨーカー」の専属記者である。また、彼はウェブサイト版であるnewyorker.comにも政治、経済と他の分野の記事を書いている。

※今回紹介した英文記事へのリンク
http://www.newyorker.com/news/john-cassidy/james-comeys-two-door-choice

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