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驕る安倍に死角あり―対話拒否、力ずくの辺野古訴訟
『山田厚史の地球は丸くない』第73回

7月 22日 2016年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

沖縄の民意に政府は「けんか腰」で応えようというのか。参議院選で沖縄の有権者は島尻安伊子(しまじり・あいこ)沖縄担当相を落選させ、民意を改めて示した。ところが政府は、名護市辺野古の米軍海兵隊基地の工事再開を強引に進めよう動き出した。

7月22日、埋め立て申請を無効とする沖縄県の決定を違法とする訴訟を福岡高裁に起こした。国と県の訴訟合戦は、政府の紛争処理委員会でさえ「話し合いによる解決」を求めたが、政府は力ずくで突破する構えだ。

◆ガチンコ対決を選んだ官邸

選挙直後から「突破」の動きは出ていた。11日には沖縄県東村(ひがしそん)高江(たかえ)で中断されていた海兵隊ヘリパッド(着陸帯)に資材搬入が始まり、ゲート前に座り込む反対住民を機動隊が排除する実力行使が行われた。

日米で合意した約束を粛々と実行する、という本土政府の姿勢を改めた。だが、国が強硬姿勢をとればとるほど地元には「本土政府への反発」が強まる。

政府内部には「不毛な衝突を繰り返しても展望は開けない。辺野古に代わる代替案を探るべきだ」という声もある。代替地の検討がひそかに始まっているようだが、「それを言いだせば敗北」とする官邸はガチンコ対決を選んだという。工事が中断している辺野古を再開しなければ日米合意を前に進められない、と焦り、休戦状態だった訴訟合戦を再開したのである。

政府は、これまでも「裁判に持ち込めば勝てる」と考えてきたが、現実はそうなっていない。国は誤算続きで、むしろ窮地に立っている。

◆第三者委員会の苦悩

素人には分かりにくい「訴訟合戦」の流れをここで振り返ってみよう。

発端は、沖縄県知事だった仲井真弘多(なかいま・ひろかず)氏の「寝返り」だった。2013年12月、当時知事だった仲井真氏は基地建設のため辺野古の海を埋め立てることを承認。「基地建設反対」を掲げて再選されたのに、本土の政権交代で方針を180度変えたことに反発した県民は翌年の知事選に、自民党員でありながら基地建設に反対する翁長雄志(おなが・たけし)氏を擁立、仲井真氏を落選させた。

翁長知事は、埋め立て承認の手続きに瑕疵(かし)があったとして、15年10月「承認取り消し」を決定。政府は「承認取り消し撤回」を求める代執行訴訟を起こした。

勝訴を信じ「裁判でシロクロをつける」と意気込んでいた政府に誤算が生じた。「裁判の雲行きが怪しくなり、このままでは敗訴するかもしれない、という情報が官邸に上がった」と関係者はいう。福岡高裁那覇支部が出す判決を官邸が事前に察知するのもヘンな話である。

「高裁で負けても最高裁でひっくり返せる」「いや敗訴判決が参議院選挙の直前に出るのはまずい」。官邸の判断は割れたが、結局は「判決を回避し、和解に持ち込もう」となった。

今年3月4日、裁判長は突然「職権による和解」を提案。和解交渉は非公開で行われ、県も国も、話し合いで打開する道を探ることで合意。双方とも訴訟を取り下げた。この時点で国が強行した辺野古の工事は中止された。

政府は、国交省の第三者委員会・国地方係争処理委員会に舞台を移した。県が行った埋め立て承認取り消しの適否がここで吟味された。沖縄県の言い分が却下されたら、県は改めて裁判に訴えて争うことが出来る、と和解条項で決められていた。国交省の委員会なので国に有利な決定が出る、と官邸は考えていた。ところが委員会は3月19日、「判断できない。国と県はもっと話し合いを」という決定を下す。

第三者委員会の結論に苦悩の跡がうかがわれる。「いずれの判断をしても、それが国と地方のあるべき関係を構築することに資するとは考えられない」として、国と県が「真摯(しんし)に協議し、納得できる結果を導き出す努力を」と指摘した。

◆「休戦破り」の訴訟

政治問題化し裁判で和解したはずの案件を持ち込まれ、国の側に有利な結論を出せと期待されても第三者委員会は「ハイそうします」とはできない。

官邸は頭を抱えた。第三者委員会で有利な結論を得て、工事を再開するというシナリオが狂った。

県が不服として訴訟しようが、工事さえ再開出来れば辺野古移転への既成事実が重ねられる。「真摯に話し合いを」という結論では、工事は再開できない。

県は「不服」でないので提訴はしない。やむなく国が「休戦破り」の訴訟に踏み切った、というのが今回である。

工事再開には、一日も早い判決が必要だ。

「秋には高裁で勝ち、来春には最高裁で勝訴できる」と見通しを語るが、「官邸の希望的観測」という関係者もいる。

裁判だろうと第三者委員会だろうと、意のままになる、という思い上がりが安倍政権にあるようだ。「安倍一強」と言われる体制で、官邸の力が強くなっているのは確かだが、自分の意向を皆が忖度(そんたく)し、都合のいい結論を出す、と思うのは思い上がりではないか。

不服従を示しているのが沖縄である。官邸が威圧的になればなるほど、抵抗は強まる。

「驕(おご)り」が自民党最強と言われる安倍政権の死角かもしれない。

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