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2つの「灰」で思ったこと
『国際派会計士の独り言』第23回

12月 07日 2017年 経済

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内村 治(うちむら・おさむ)

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オーストラリアおよび香港で中国ファームの経営執行役含め30年近く大手国際会計事務所のパートナーを務めた。現在は中国・深圳の会計事務所の顧問などを務めている。オーストラリア勅許会計士。

イギリスを宗主国とする英連邦の国々のほとんどで最も盛んなスポーツと言えば、日本人にはあまりなじみはないですが、サッカーやラグビーを置いて、クリケットになるだろうと思います。筆者も留学でオーストラリアに行った1970代当時、野球に似ているようで似ていないクリケットにオーストラリア人が熱狂するのが初めはなじめませんでした。しかし20年以上住む中で、オーストラリア人の同僚らと仕事の後にパブなどでクリケットについて話しているうちにそれなりにその面白さを感じられるようになりました。

◆クリケット競技会の最高峰

豪州では現在、英国代表チームと豪州代表チームのクリケットの国際試合が行われています。クリケット競技会の最高峰の一つとされるテスト・マッチ・シリーズ、ジ・アッシュズ(The Ashes〈灰〉)です。1試合あたり1日6時間(途中にランチタイムとお茶休憩があり、ゆったりとした流れの中で行われます)を最長5日間かけて、更にそれが5試合にもわたります。

アッシュズは、100年以上続く伝統の英豪間の国際試合で、初戦が行われた1882年に英国が地元で敗れ、「英国クリケットの死、そして豪州にその灰が持っていかれた」との“死亡記事”が英国の新聞に載ったことに由来するそうです。過去69回の対戦結果は英豪ともに32勝、引き分け5回と互角で、豪州での今年の試合も大変な熱狂の中で行われていると思います。ここで改めて感じるのは、英国と豪州の歴史と人のつながりで築かれた絆の強さです。

昨年6月に英国で行われた欧州連合(EU)からの離脱に関する国民投票は、大方の予想に反して英国民が離脱を支持するという結果となり、メイ首相の下でEUからの離脱交渉が始まりました。英政府はEUの政策執行機関である欧州委員会と離脱交渉を行っていますが、原則2年間で終結しなければいけないという制約の中で、交渉はかなり難航しているとの報道もありました。

ただし、英国の最近の報道では、最大の課題の一つと見られていた、EUが英国に支払いを求めている、手切れ金とも言える巨額の未払い分担金の額について450億~550億ユーロ(6兆~7兆円)程度で折り合ったと伝えていて、今後、北アイルランド国境問題などが大きく前進して欲しいと思います。

こうした動きの中で、アジアに住む英国人の友人数人から聞こえてきたのが、52カ国が加盟し、そのGDP(国内総生産)の合計が1千兆円規模に上る先述の英連邦の経済的つながりを今後更に強化していくのだという主張でした。英連邦の枠組み(例えば、英国の他にカナダ、豪州、南アフリカ、インド、シンガポール、マレーシアなどが主要国)を強化するとともに、EUを含め様々な国と自由貿易協定(FTA)を代わりに結んで、EU脱退による影響の補完を目指すというものです。

筆者は、欧州経済の専門家ではありませんが、この代替策でこれまでのEUの枠組みの中で金融などの分野が著しく発展してきた英国経済を補完できるとは思えません。Brexit(英国のEU離脱を意味するBrit〈Britain〉とexitを組み合わせた表現)が早期に成功裏に完了して、欧州各国との連携維持、日本とも既に対話が始まっているFTAの締結、そして4年に一度の国際スポーツ大会である英連邦大会やクリケットのアッシュズの絆と枠組みなどをうまく利用して、英国が孤立することなく、これまで以上に発展することを願っています。

◆観光地バリ島の火山噴火

二つ目の「灰」は、インドネシアのバリ島の噴火のことです。本稿執筆時点(12月6日)ではまだ小規模ながら、大規模な噴火も懸念されます。インドネシアは七つの火山帯を有する日本とともに「環太平洋火山帯」に位置しています。130を超える活火山があり、シナブン山など三つの火山の噴火に続いてその西側にあるバリ島のアグン山からも噴煙が上がりました。この影響で、バリ島のデンパサール空港は3日間閉鎖されるなど混乱が生じています。豪州政府はチャーター便をバリ島に出すなどして、バリ島観光に訪れていた4千人に及ぶ自国民の退去を速やかに進めました。

バリ島では、2002年と05年にイスラム過激派組織ジェマー・イスラミアによる爆破テロ事件が起き、数百人の死傷。オーストラリア人も100人近くが犠牲になったことが思い出されます。バリ島はパースなど豪州の西海岸から近く、ビーチとヒンズー教寺院など文化遺産も豊富な素晴らしい観光地であるほか、コスト的に国内のリゾートよりも安価に楽しめるのがオーストラリア人の人気を集めている理由だと考えられます。16年のバリ島への外国人訪問者数は、オーストラリア人が中国人などを抑えて100万人を超え(日本は23万人)最も多いことは特筆できます。バリ島に近い西オーストラリア州(州都パース)は大麦などの穀物生産が主要産業で、世界屈指の生産量を誇っています。

筆者は本稿第13回「豪州のサンゴ礁白化と環境対策の将来」(2017年1月16日掲載)で、世界最大のサンゴ礁で有名な豪州の世界自然遺産グレートバリアリーフで、サンゴの死につながる「白化現象」の危機的状況や最近の異常気象の原因と考えられる温暖化対策の重要性を指摘しました。

もし今回のインドネシアでの火山噴火が長期化したり大規模噴火につながったりすると、観光客数が減るなどの問題だけではすまないと思います。20世紀最大規模といわれる1991年のフィリピンのピナツボ火山噴火は、噴煙が成層圏まで達し地球の気候に大きく影響したといわれています。これにより、地球の温度が平均0.5度下がったとされ、オゾン層の破壊も進んだとの報道もあります。今回のバリ島の噴火が長期化したり大規模化したりした場合、政府の温暖化対策が不十分であるという現状を改めて露呈する一方、噴煙が豪州の気候や農業にどんな影響を及ぼすのか注視していく必要があるようです。

◆虹色と同性婚の合法化の動き

豪州に関わる二つの「灰」について書いてきましたが、豪州では今月、もう一つの色が注目を集めています。6色のレインボーフラッグに象徴される性的少数者(LGBT)の権利認知の動きです。今年9月に政府が行った国民調査で60%超の強い国民の支持を受けて、ターンブル首相の下でLGBTに関わる同性婚の合法化が進められ、まもなく婚姻法が改正化されるようです。

既に、世界で26カ国が合法化しているとはいえ、アジア太平洋地域ではニュージーランドに続いての合法化であり、既に一大観光イベントとなっている年に一度、7月にシドニーで行われるLGBTの祭典「マルディグラ(フランス語で「肥沃な火曜日」の意味)・パレード」も来年は更に盛大なものになるのではと思います。

※「国際派会計士の独り言」過去の関連記事は以下の通り
第13回 豪州のサンゴ礁白化と環境対策の将来
https://www.newsyataimura.com/?p=6275#more-6275

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