п»ї VW、お前もか!『山田厚史の地球は丸くない』第54回 | ニュース屋台村

VW、お前もか!
『山田厚史の地球は丸くない』第54回

10月 09日 2015年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

   
「VW(フォルクスワーゲン)の足を引っ張るようなことはするな。自動車業界全体の深刻な問題として捉えてほしい」。トヨタの豊田章男社長がそう発言したとネットに流れている。

自動車販売台数世界一は昨年、トヨタグル―プだった。今年1-6月はVWが首位を走る。競い合うライバルの失態は好都合であり、ディーゼル車のイメージダウンはこの分野が手薄なトヨタにとって幸いでもある。そこまでは誰でも分かる。それを表に出してしまうと「なんだトヨタは」と言われるだけだろう。賢い経営者は「惻隠の情」を示すことで人品骨柄を示す。

◆整然と外に漏れず進行した徹底したインチキ

慰安婦報道で朝日新聞が世間の批判を受けていた時、読売新聞がここぞとばかり「反朝日キャンペーン」を展開した。販売店の尻を叩き、朝日の購読者の引きはがしに力を入れた。業界内で顰蹙(ひんしゅく)を浴びる販売戦術で、読売が求めてやまない高級ブランドから遠ざかるばかりだった。新聞業界全体が信頼を失い、読売まで大幅に部数を減らした。

VWは信頼のブランドだった。VWが不正に手を染めるなら、自動車業界の闇は相当深い、と多くの人は思うだろう。質の高い製品や大きな利益を稼ぐ企業は「いい会社」で立派な人が働いている、と思われがちだが、どうもそうではないらしい。

「わずかな人数によるミスで、何万人ものまじめな従業員が一様に扱われることがあってはならない」。辞任したヴィンターコルン社長はそう語ったというが、どう見てもミスではない。

エンジンに二つのソフトが書きこまれていた、という。一つは当局に対応する「検査用」。馬力や燃費を犠牲にして窒素酸化物(NOx)の排出を抑えるプログラムだ。もう一つは「実走用」。NOxの排出を10-40倍に跳ね上がるが馬力は上がり、燃費もいい。どちらを選ぶか。スイッチはハンドルの動きだ。検査時はハンドルは動かない。その時は検査用プログラムが動く。ハンドルの動きをセンサーが感知すると「実走用」が作動する。

日本のメーカーがディーゼルエンジンに二の足を踏むのは「性能を高めながら環境基準をクリアするのが難しい」ということだった。完全燃焼すると馬力・燃費はいいがNOxが沢山出る。

二通りのエンジンを一つにする「奇想天外な騙(だま)し」でVWは、「性能・燃費・クリーン」を見事達成した。

内蔵されるプログラムは外から分からない。しかし、ここまで徹底したインチキは、数人の技術者で出来るだろうか。首謀者は数人かもしれない。だがソフトに合わせメカの動きにも工夫は必要になる。二つのソフトを開発するには相当な人手がかかり、主要なポジションには不自然な作業に気付く人がいたはずだ。整然と、外に漏れず進行したところにVWのすごさを感じる。

「世の中には知らなくていい情報が沢山ある」。そんなCMがあったが、不自然に思っても、余計なことを考えず、粛々と協力した社員がいたのだろう。

ナチスドイツの悪夢を思い出してしまう。あれほどの残虐行為は、残忍で異常な者の行いと思われがちだが、実際は勤勉で規律正しい普通の人間が、ある状況の中で手を染めてしまった。ユダヤ人哲学者のアンナ・ハーレントはそんな風にナチスを分析した。

人も羨(うらや)む優等生が、立派な会社に入って、バカなことをする。東芝やオリンパスで見てきたことだ。いつかバレることでも、先のことには目を瞑(つむ)り、やっているのはオレだけではないと組み従う。VWも東芝も底流のあるものは同じではないか。

◆米国の環境NPOが強者が仕切る支配構造に穴を開けた

内部で不正が指摘されても握りつぶされ、欧州連合(EU)で問題にされながらVWは追及を受けなかった。強者が仕切る支配構造に穴を開けたのは米国の環境NPOだった。

ICCT(The International Council on Clean Transportation)。直訳すれば国際清浄交通委員会という組織だ。財団の寄付で成り立ち市民目線にたって環境問題をクルマ、船舶、航空機の燃料問題から提起している。

メーカーと政府が発表する排ガスの測定値は基準となる走行パターンでも数字でしかない。実際はもっと多いに違いない、と考え市販のクルマに車載型の小型検知器を付けて実測した。そんな中でVWが飛びぬけて高い数値が出たことで疑惑が広がった。

米国の環境局は、日本の国交省とは違い、決して自動車業界寄りではない。疑惑をVWに正す中で「偽装ソフト」が明らかになった。残念ながら、日本にはICCTのようなNPOはない。日本から評議員として加わる大聖泰弘(だいしょう・やすひろ)早大教授は次のように指摘する。

「車両を特別な走行パターンだけ検査機の上で調べる時代は終わった。クルマに詰める小型測定器が普及し、公道でリアルな数値を測れるようになった。技術を悪用してインチキする動きを封ずるには、消費者である市民が環境や安全を監視すること有効で、その技術的条件は整いつつある」

多くの人は会社員であり、消費者でもある。立派な人ほど優秀な企業人でありがちだ。我々は立派な消費者なのだろうか。     

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