п»ї 3月の決意、行き届かない支援は続く『ジャーナリスティックなやさしい未来』第39回 | ニュース屋台村

3月の決意、行き届かない支援は続く
『ジャーナリスティックなやさしい未来』第39回

2月 27日 2015年 社会

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引地達也(ひきち・たつや)

 コミュニケーション基礎研究会代表。毎日新聞記者、ドイツ留学後、共同通信社記者、外信部、ソウル特派員など。退社後、経営コンサルタント、外務省の公益法人理事兼事務局長などを経て、株式会社LVP等設立。東日本大震災直後から「小さな避難所と集落をまわるボランティア」を展開。

◆当事者の声

今年も3月がやってくる。2011年3月11日以来、3月は特別な月として記憶に刻まれた私の気分は落ち着かなくなる。ボランティアとして様々な支援活動を積み重ねてきて、人の悲しみに接したり、勇気づけられたりしながら、失敗も繰り返してきて、迎える4年目。

先日、うれしい報告があった。3月14日~18日に仙台市で開催される国連防災世界会議の一環で開催されるシンポジウム「多様性と災害対応」の中で、支援を続けてきた宮城県気仙沼市本吉町の知的障がい者の母のグループ「本吉(もとよし)絆つながりたい」が、「震災と障がい者」をテーマに発表することになったという。

事務局長で知的障がい者の母である小野寺明美さんは「発表者の中で唯一の当事者なんです。頑張ってお話します」と声を弾ませたが、その力強い言葉には、学者や専門家には分からない「当事者の苦労」を背負い、発言したいという決意がのぞく。

彼女らの苦悩は黙っていれば、閉ざされた社会での出来事として押し込められそうだから、今回の発言の機会は大きく開かれた社会への窓とも言える。その日、多くの人にその当事者である小野寺さんの言葉を受け止めてほしいと願う。

「支援の行き届かないところへの支援」を心がけて、震災直後から現地でボランティアを展開してきた私にとって、この「本吉絆つながりたい」は取り残された場所だった。現在は気仙沼市に属しているが、吸収合併する前の本吉町としての意識が強いのは、気仙沼と地理的に遠く、核となる漁港がない中で、小さな集落単位で暮らしてきた伝統もある。

震災直後に、宮城県に緊急支援職員として派遣された神戸市の職員が「支援の行き届かないところに行く」という私に耳打ちした言葉が、「本吉の蔵内地区に行ってほしい。ここは道路が寸断されて支援が行っていない」だった。

そこで訪れた本吉地区で、私は家や漁船を流されたサンマ漁師一家や布団がないまま家屋の2階で過ごしていた老夫婦らに出会った。支援を続けるうちにこの地区の民生委員から「知的障がいの子どもが暴れて大変なんだ。家庭崩壊寸前の家がたくさんある」と聞き、知的障がい者の母から話を聴き始め、誰も報じることのなかった事実に直面し、「本吉絆つながりたい」への支援が始まった。

◆命を守りたい

 震災の風化を防止するために私が作詞した歌曲「気仙沼線」「サンマ漁」のCDのブックレットには、この本吉の知的障がい者のフラッシュバックに関する記事をルポルタージュとして報告し、TBSの番組「報道特集」のプロデューサー(当時)に現状を説明し、報道特集も取材を開始し、結局特集として報じられた。

これをきっかけに徐々に問題が明るみになり、関係者の間では対策の必要性は感じているようだが、まだ具体的な形にはなっていない。私も復興庁の公募予算で、知的障がい者のフラッシュバックに関する解明と対応策の研究と対策づくりを要望したが落選した。この分野はまだ未解明な部分が多く、行政の予算が付けやすいマインドまでは、まだまだお母さんたちの頑張りが必要。だから私もその取り組みを微力ながら応援、そして支援している。

支援の時期、と言ってしまうと軽率のようだが、事実3月は誰もが「あの日」を思い出す。だから、さらに思い起こさせるコンテンツが必要だ。私に関する今年の3月は、歌曲「気仙沼線」の普及活動を通じて提供された気仙沼線の写真の展示、ライブ活動と講演で主に首都圏での震災の風化防止を視野に展開する。風化防止と言うと大きすぎるので、思いとしては、明日来るかもしれない震災で一人でも多くの命を守れる気持ちを持ち続けてほしいという願い、が活動の目的であり、自分を鼓舞する原動力である。

◆人を癒やすケアメディア

3月以降、私や気仙沼線に関する催しは以下の通りで、各地で募金箱を設置し、「本吉絆つながりたい」への寄付としている。お近くの方は来てほしいし、「開催したい」という要望にもなるべく応えようと考えている。

▽3月1日から3月13日 よみがえる気仙沼線写真展WITHことば 東京都江戸川区江戸川総合文化センター展示ギャラリー 入場無料

▽3月9日から3月21日 よみがえる気仙沼線写真展Vol2 WITHことば 東京・代々木 カフェヌック 入場無料

▽3月15日午後5時~ 未来へのかけはし 大至ライブ 歌と甚句と気仙沼線 東京両国・はなの舞(気仙沼線普及委員会主催)5000円(食事・飲み放題付)

▽3月18日午後7時~ 気仙沼線写真展レセプション・ちゃんこ会 東京・代々木 カフェヌック 4000円(ワンドリンク、ちゃんこ食べ放題)

▽4月11日 クラシックチャリティーコンサートと気仙沼線写真展 出演草刈とも子(マリンバ)ほか 東京都千代田区麹町「る・ぴあの」

▽4月28日から5月24日 よみがえる気仙沼線写真展WITHことば 東京都江戸川区東部図書館 入場無料

▽4月29日午後2時~ 引地達也講演と大至ミニライブ 東京都江戸川区東部図書館 無料 申し込みは同図書館まで

記事中心ではなく、歌、そして写真で震災を語り継ぎ、命を守ることができるのか。私はこれらを、人を癒やす「ケアメディア」の一つとして継続して取り組んでいきたい。これらは、新たなメディアの可能性としても位置付けている。

※コミュニケーションに関する記事は、今回はお休みします。

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