п»ї 生き残るための成長シナリオ―日本がもう一度輝くために(5)『翌檜Xの独白』第5回 | ニュース屋台村

生き残るための成長シナリオ―日本がもう一度輝くために(5)
『翌檜Xの独白』第5回

11月 29日 2013年 社会

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翌檜X(あすなろ・えっくす)

企業経営者。銀行勤務歴28年(うち欧米駐在8年)。「命を楽しむ」がモットー。趣味はテニス、音楽鑑賞。

今の若い人たちに申し訳ないと思うことが一つあります。それは、私たちの世代は明日をあまり意識することなく基本的には楽観的でしたが、今の若い世代は明日を信じることが出来なくなっているのではないかということです。成長の見込めない国は、今どれだけストックがあっても明るい将来を描けません。また、新興国のベンチマークとなり、尊敬を受けることはありません。従って、日本がふたたび輝くためには、成長へのシナリオが明確に描かれることが不可欠です。

今、安倍政権で語られている成長戦略も大変大切なのですが、今回はもっと根本的な視点から考えてみたいと思います。経済の成長を考える時、最大の要素は労働力人口の伸びと生産性の向上にあることは言うまでもありません。過去を振り返ると、生産性が向上することによって私たちの生活は豊かになり、多くの不可能が可能となりました。

しかし、生産性の向上にはどこかで限界が来ます。とりわけ先進国にはこの点が制約になるでしょう。私は、経済成長を考えるときの最も根本的かつ重要な指標は人口動態だと考えています。世の中には予測が満ちあふれていますが、最も確かな予測が人口統計です。しかも人口の成長度合いはまさに一国の成長の土台なのです。

わが国の人口は、1950年には8300万人(世界5位)、2000年には1億2700万人(同9位)、そして2050年には国連の推計によれば、1億900万人(同16位)となるようです。このまま何もしなければ、その後も着実に日本人の数は減少していきます。

2050年には地球人口が100億に近くなることが予想されており、これはこれで食料・環境問題を含めて大変大きな課題ではあるのですが、日本の労働人口が絶対値で減っていくことを放置すれば、この国は間違いなく衰退の道をたどるでしょう。

◆一定程度の移民を受け入れ「日本人」を増やす

それでは、どうしたら日本人を増やせるでしょうか? よく移民を取り入れれば良いという人がいますが、それでは日本という国に暮らす人口は増やせても「日本人」を増やすことは出来ません。私は、これには二つの方法があると思っています。第一は外国人を日本人化すること、第二は日本人の出生率を高めることです。

第一の点から考えて見ましょう。これは私自身の経験からの発想です。私は30代の半ばに米国で生活する機会を得、小学生2人を含む家族5人で一緒に赴任しました。小学生の子供たちはもちろん英語は出来ません。でもその町には日本人学校がありませんでしたので、現地校に通うことになりました。

ABCも分からない状態のままの登校となったわけですが、最初に覚えてきた英語のフレーズは「I pledge allegiance to the flag of the United States.」 でした。これには驚きました。日本でも「門前の小僧習わぬ経を読む」との言葉がありますが、それを地で行く話です。

このほかにも「個」の資質を重んじるとか、言わなければ分からない(沈黙は金ではない)とか、fairnessの尊重とか、米国が重んずる価値観がどんどん子供たちに植え付けられていきます。

考えてみれば当たり前のことですが、アメリカ合衆国という国はそもそも移民が構成する国家であるわけです。すなわち、外から入ってきた人間をアメリカ人化することによって国民を増やしているのです。

私たちはこのやり方から学ぶことができるのではないでしょうか? 日本人はともすると自分たち以外の民族を排他的に扱います。その結果、その人たちは自分たちを守るためにグループ化し、日本人とは違う存在として生活します。

日本の経済規模を考えると、一定程度の移民を受け入れるのは当然だと思います。いつまでも排他的な態度をとっていては諸外国からの尊敬を勝ち取ることは出来ないでしょう。であるならば、入国そのものを拒んだり、入ってくる人たちを放置し便宜的に使ったりするなどという発想ではなく、それを奇貨としてその人たちを日本人化するという発想は出来ないでしょうか?

カリキュラムをしっかりと組み、一部の授業を除けば日本の子供たちと同じ授業を受けてもらいます。その中で私たちが大切にする価値観を共有してもらいます。そして一定の条件の下、その人たちに日本人になってもらう道を開きます。そうすれば、出自の違いはあっても「日本人」は増えるはずです。

この方策には副産物がついてきます。そういう教育を受けた後で日本人になることを選ばない人も出てくるはずです。でも、その人たちは日本のよき理解者・伝道者になってくれることでしょう。また、日本の子供たちも日常の生活の中でグローバル感覚を自然と身につけることができるようになるでしょう。まずは、いくつかの地域にモデル校を設置することから始めれば、その地域の活性化にも通じるはずです。

◆地方分権を進め、主体性ある地方都市づくりを

次に出生率を増やす方策です。私は、職業柄毎年日本の各地へ出張します。そのたびに地方都市の衰退を実感します。東京だけが必要以上に大きくなり、その他の都市がほぼ例外なく廃れていくといった状況を放置すれば、人口など増えようがありません。

私たちの世代では、3人や4人の兄弟姉妹がいるのが当たり前でした。私自身4人兄弟のうちの一人です。普通の人たちが今の東京でたくさんの子供を生み、育てる気になるでしょうか? 経済的にも環境的にも無理があるのではないでしょうか?

日本はとても豊かな自然に恵まれています。本当に美しい国だと思います。地方にはまだまだ拡大の余力があります。活性化できないのは仕組みのせいです。この論考でもたびたび触れていますが、中央集権的な資源配分のやり方は既に限界に来ています。

いったん中央に集めたお金を中央官僚の裁量で地方にひも付きで配分するなどというやり方は、何もない時代に無理やり成長を演出する時には有効だったかもしれません。しかし、そのようなやり方によって地方の自主性は完全になくなってしまいました。結果がいまの特色のない、主体性のない地方都市の現状です。

官僚に創造性を期待するのは、どだい無理があります。魅力的な個性あふれる都市づくりが進めば、通信技術が飛躍的に進展し、通信料がほぼ無料となった今、地方での職場作りはさほどの難作業とは思えません。地方分権を真剣に進め、地方に税源を与えて自らの知恵で街づくりを行うべきです。そうすればおのずと地方の人口は増えるはずです。結果として、日本の総人口の減少に歯止めがかかりますし、東京一極集中の弊害も緩和されるはずです。

一国の土台をなす人口減少問題について、これまでの政府が真剣に取り組んできたとは到底思えません。形ばかりの小子化担当大臣を設置はしていますが、本気度が感じられません。もし本気でこのことが重要と思っているのであれば、誰もが一目置く人物をその任に当てるべきですし、予算もしっかりと付けるべきです。

また、予算は過ぎ去っていく世代にではなく、次の時代を担う世代にもっと充てられるべきです。大阪市長の橋下徹氏の失速は、地方分権の推進にとっては大きな打撃となりました。橋下氏が大阪でここ数年間やってきたことは間違っていません。国と地方の役割分担を整理し、道州制を通して真の地方自治を実現すること、これ以外にこの国が生き残っていく道はないように思えます。

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