タイの日本食ブーム 『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第14回 | ニュース屋台村

タイの日本食ブーム
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第14回

1月 31日 2014年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住15年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

タイ国内の日本食レストランが今年4月には2000店を超える見込みであると、日本のNPO「日本食レストラン海外普及推進機構」が発表した。10万人いるとされるタイの在留日本人が毎日これらの日本食レストランに行くとしたら、1店舗あたり50席必要という計算になる。

タイで生活する日本人の数を考えれば、2000店という日本食レストランの数はそれほど驚くにあたらないのかもしれない。昼夜とも日本食レストランを利用する日本人も多いし、タイ人も大勢日本食レストランに押しかけている。

◆高まる知名度、老舗と数え切れないほどの専門店

今から35年前、私が初めてアメリカ中西部ミネソタ州ミネアポリス市に滞在した時、日本食レストランはたった1軒だった。まだ若かった私は、毎日アメリカ料理でも特に問題なかったが、ある日、日本人の友人とこの日本食レストランに出向き、久しぶりの天丼をオーダーした。

天丼のふたを開けてみてびっくりした。天丼が真っ黒に見えたのである。砂糖としょうゆで強烈に味付けされた天つゆが、ごはんを隠さんばかりにひたひたに注がれている。天ぷらの衣は厚く、かつ低温で揚げられていたためか、その衣は油でベタベタの状態。一口食べてみたが、とても食べられるものではなかった。申し訳ないと思ったが全て残してしまった。あとから聞いた話では、その日本食レストランは韓国人が経営しているとのことだった。

2回目の海外赴任は、1987年から米ロサンゼルスであった。当時のアメリカは、ブラックマンデーに代表される不況のど真ん中。一方の日本は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とたたえられて絶賛されていた時代。

当時のアメリカは日本食ブームに沸いていたが、その日本食とは「寿司もしくは刺身」「天ぷら」「牛肉の照り焼き」の三点セット。日本食レストランは、すべからくこれら三点のコンビネーションプレートを取り扱い、すし専門店と銘打っているところでも、大半は天ぷらや牛肉の照り焼きをメニューとして持っていた。こうしたすし専門店には「通」のアメリカ人がカウンターに腰掛けていたが、カリフォルニアロールをおかずに白飯を食べるなど、日本人の感覚から外れた光景を頻繁に目にした。

ところが、現在のタイの日本食レストランでは、こうした姿から大きく変貌(へんぼう)を遂げている。もちろん、各種日本料理を取り揃えた日本食レストランは数多くあるが、老舗(しにせ)の「葵(あおい)」や「日本亭」など高級レストランでは、日本に負けない本物の日本の味を20年以上維持し続けている。

また、すし屋は言うに及ばず、ラーメン、トンカツ、カレー、お好み焼き、豆腐料理など、数え切れないほどの専門店が存在する。「大戸屋」「COCO壱」「さぼてん」「牛角」「吉野家」など、日本でお馴染みの看板もいたるところで見かける。タイで食べられない日本料理はないのではないかと思えるほどである。

こうした日本料理の普及は、海外に住む日本人にとって大変歓迎すべきことである。タイに住みながら日本と同じ味のものを食べられるということは、当然の喜びである。さらに、この10年で「日本」のイメージはすっかり衰えているが、日本食に限って言えば認知度は高まってきている。「日本食」を通して日本の良いイメージが広まることは、海外で働く日本人にとって強い追い風となる。日本は国としてのPR力は弱いが、日本食は民間の力で日本を宣伝していく強烈な方法である。

◆個人では高級店に行けない日本人

こうした日本食レストランの出店ブームの中でいくつか気づくことがある。その第一が、最近の日本人の貧しさである。高級日本食レストランのテーブル席に行くと、その多くはタイ人の金持ちで占められ、まぐろのトロや直輸入のカニ、日本各地の特産牛のステーキなどをアラカルトで注文している。一方、まばらにいる日本人は、値段の張らない定食メニューをオーダーする。

こうした高級店に日本人客が行かないのかと言えば、そういうわけではない。日本の会社は取引先を接待する際は、顔を見られないように個室を利用する。毎夜、会社の接待交際費を使って日本人は高級日本食レストランを利用する。しかし、個人の金ではこうした店には行けないのである。

過去20年間のデフレによって、日本人の金銭感覚は世界と大きくずれてしまった。加えて最近の円安である。現在の日本は、500円あれば昼食が食べられる。日本に出張した際、昼食時に東京のオフィス街に行ってびっくりしたことがある。多くの若者がコンビニで買った弁当を、公園で一人で食べているのである。昼食代は400円程度だろう。

一方、バンコクの日本食店で昼食を食べても、最近は1000円近く取られる。物価の安いタイでも、いわゆる価格逆転現象が起こってきているのである。いわんや米国やヨーロッパなどで昼ごはんに日本食を食べれば2000円から3000円になってしまう。日本人が世界各国に行って、日本と同じ価格水準で振る舞えば「日本人は貧乏人である」と思われかねない。

◆目的が明確でない商談会は税金の無駄遣い

最近の日本食ブームのなかでもう一つ気になることがある。タイに出店しようと考えている人の中に「タイに来れば何とかなる」という、楽観的な見通しに支えられた人が多くなっているような気がする。2000店近くある日本食レストランも、その入れ替わりは激しい。いくつものレストランが開店から1年もしないうちに店を閉じていく。

立地・メニュー・サービス・価格が、顧客ニーズにマッチしているのはもちろんのこと、味を維持し続けることは極めて難しい。長く続いている店はこうしたことに不断の努力をしている。

またタイでは最近、日本の地方自治体や地方銀行に後押しされた、地方の特産物の売り込み商談会が多く開かれている。しかし私の目から見ると、目的やターゲットが曖昧(あいまい)なものが多いように思う。

商品の輸入を行う卸売業者、スーパーマーケットや日本食レストランなどの小売業者、タイ在留日本人もしくはタイ人などの最終消費者。商談会の中には、誰に対してアピールしようとしているのか分からないものが多い。商談会を行うこと自体が目的化しているのならば、国や地方自治体が支出するこうした商談会に対する補助金は、税金の無駄使い以外の何ものでもない。

【写真説明】
バンコク市内には座敷を備えた高級日本食レストランやラーメン、牛丼など数え切れないほどの専門店がある=いずれも筆者撮影

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