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改善は「巧遅拙速」で
『ものづくり一徹本舗』第11回

2月 28日 2014年 経済

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迎洋一郎(むかえ・よういちろう)

1941年生まれ、60年豊田合成入社。95年豊田合成タイランド社長。2000年一栄工業社長。現在中国、タイで工場コンサルタントを務める。自称「ものづくり研究家」。

「巧遅拙速(こうちせっそく)に如(し)かず」ということわざを皆さんはご存知であろうか? 中国の古典で、兵法で有名な「孫子」を出典としており、「上手であるが遅いよりも、下手でも早いほうが良い」という意味である。命を賭けた戦場では、熟考をしている間に敵に攻められる危険が高く、とにかく早く先手を打っていけということであろう。

私は、この「巧遅拙速」という考え方を今から40年ほど前、大野耐一会長(元トヨタ自動車副社長)から徹底して教え込まれたのである。

◆すぐできることを実行しない愚

ある日、大野会長から現場の改善のヒントをいただき、「ああしよう、こうしよう」と思案していると、翌日さっそく大野会長からフォローがあった。しかし私はまだ思案中であり、現場は何も変わっていない。そこでとっさに私は「この件につきましては関係部門にも相談して最も効率の良い方法を考え、来週までに報告いたします」と苦し紛れの言い訳をした。

すると会長から「関係者みんな集まれ」とご指示があった。そこで大野会長は、強い調子で我々にこう言われた。「君たちの仕事のやり方では改善が進まんぞ! いますぐ行動を起こせ! 立派な物は出来なくて良い、失敗を恐れるな! やってみて悪い所があればそこを直せばよい! その行動を巧遅拙速というのだ」

その日を契機に関係者一同、改善に取り組む姿勢ががらりと変わった。巧遅拙速を肝に命じ、改善できると思われることはとにかく手をつけてみた。当時私の担当する職場は約200人の従業員がいたが、なんと1年で120人の従業員で従来と同じ量の作業ができるほど工程改善が進んだのである。

いまだに多くの会社で改善活動が進まない。これらの会社に共通することは「すぐにやれることをなかなか実行に移さない」ことである。

なぜ実行に移せないのであろうか? 「改善してもその効果がよくわからない」「一カ所改善すると他に問題が出てくるかもしれない」「完璧な改善をするために良いアイデアが浮かばない」「改善をするためにお金がかかるが、上司の決裁が降りるだろうか」などと多くの不安が心によぎる。こうなると失敗を恐れて慎重になり、1カ月たち、2カ月たちという状況が生まれるのである。

改善活動を進めていくためには、経営者自らが「巧遅拙速」の重要性を従業員全員に浸透させるべく、繰り返し説き続ける必要がある。

◆考えたことはすぐ行動に移す

ここで、最近経験した悪い事例を参考として紹介したい。

自動車用部品の組み立て工程の出来事である。その工場では、ある工程を完了すると、数十個単位で製品を容器に収納している。製品を詰めた箱が床に何箱も積み重ねてある。次に検査員が来て1箱ごとに抜き取り検査を行い、検査が終わると元の位置に戻す。検査が終わった箱は台車を持ってきて積み込み、後工程へ運んでいる。

そこで「無駄が多いので改善してください」と指示を出した。考える力を養うために、その場では具体的な改善方法については言及しなかった。翌日確認すると、何も変わっていないので「どうしたのか?」と聞くと、「いま製造技術の担当者に頼んでコロコン搬送装置(そろばん球のような回転器具をつけた手動のコンベヤー)を設計しています」とのこと。「いつ終わるのか?」と聞くと、設計完了は1週間後、装置の完成は1カ月以上かかるとの答えが返ってきた。

巧遅拙速で行動を起こせば、図面は必要ない。どこの工場でも使われていないコロコン台などの部品は少なからずあるはずである。まずは改善すべき場所に導入するコロコン台の高さと幅、長さを現場に行って自分で決める。現在使われていないコロコンなどの部品を少し改造すれば、自分たちでその日のうちに改善活動はできるのだ(この工場では私が実際にやってみせた)。

製品や半製品が煩雑に積み上げられている工場は宝の山である。巧遅拙速に改善活動を行えば、原価低減に成果が上がることは請け負いである。

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