п»ї ASEAN経済共同体の進捗(その2)『ASEANの今を読み解く』第14回 | ニュース屋台村

ASEAN経済共同体の進捗(その2)
『ASEANの今を読み解く』第14回

10月 03日 2014年 国際

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助川成也(すけがわ・せいや)

中央大学経済研究所客員研究員。国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員。専門は ASEAN経済統合、自由貿易協定(FTA)。2013年10月までタイ駐在。同年12月に『ASEAN経済共同体と日本』(文眞堂)を出版した。10月末には「ASEAN大市場統合と日本」(文眞堂)を出版予定。

8月末にミャンマーの首都ネピドーで開催されたASEAN経済相会議(AEM)において、ASEAN経済共同体(AEC)実現に向けた進捗(しんちょく)状況が報告されたが、その主なものを3回シリーズで紹介する。今回は第2回で、サービスの自由化について報告する。

◆第9パッケージにフィリピンを除き合意

今回のASEAN経済相会議で最も期待されていたのが、「ASEANのサービスに関する枠組み協定」(AFAS)の下での自由化分野の拡大であった。その取引形態は4つに分類される。

まず、ある加盟国の領域から他の加盟国の領域へのサービス提供をあらわす第1モード(サービスの越境)、海外でのサービスの消費をあらわす第2モード(サービス消費者の越境)。第1モードは、例えば日本で開発されたスマートフォン用アプリが海外でダウンロード・提供されるケース、第2モードは、日本からの留学生が海外の大学で教育サービスを受けるケース、が該当する。これら2つのモードは、ASEAN経済共同体の下で完全自由化を目指す。

一方、問題はサービス分野の投資にあたる第3モード(サービス業務拠点の設置)と自然人の移動によるサービス提供にあたる第4モード(自然人の移動)である。

第3モードは、例えば、日本の保険会社が海外で業務拠点を設立し、この拠点で保険サービスを提供すること、第4モードは、タイの大洪水で水没した設備機械について、日本から修理・メンテナンス要員を派遣し修理サービスを提供すること、が事例として挙げられる。

サービス分野の投資にあたる第3モードに注目すると、このモードでは必ずしも完全自由化(外資100%)にまで踏み込んではいないものの、2015年までには全ての分野で、少なくとも出資比率70%まではASEAN資本を認めることが約束されている。

サービス分野の種類は現在、世界貿易機関(WTO)の分類に従い、全てのサービスを12分野155サブセクターに分類している。このうち、AEMのもとで自由化が推進されるのは、経済相以外の大臣が管轄する金融サービス、航空運送サービスを除く128サブセクターとなる(注1)。

またASEANはWTOの「サービス貿易に関する一般協定」(GATS)と同様、ポジティブリスト方式による自由化を進めている。この方式は、市場アクセスや内国民待遇など、サービス自由化の基本的義務を負う分野をリストに掲げるものであり、一般的に自由化の制限分野を明示化するネガティブリスト方式の方がより自由化に資する枠組みといわれる。

ASEANはAECのブループリント(青写真)のもと、サービス自由化交渉で自由化するサブセクター数を設定し、加盟各国は指定されたサブセクター数を上回る自由化分野を自ら選定、提示する形式をとっている。

ASEAN加盟各国は、12年のAEMで80サブセクターを自由化する第8パッケージに署名した。続く第9パッケージは全128分野のうち104分野まで自由化する予定であった。そのうちロジスティクス分野に分類される9分野で、新たに外資比率を少なくとも70%まで、その他サービスの66分野を外資マジョリティーでの出資を可能にする。

当初、13年のAEMで署名する予定であったが、自由化分野の抽出作業が難航、1年遅れ今回のミャンマー・ネピドーでのAEMで署名されることが期待されていた。今回、AEMの議長声明では「署名された」との記載はなく、「第9パッケージの完成に向けた作業の進捗を評価した」とされた。

ジェトロが署名の有無を確認したところ、タイ商務省関係者によれば、第9パッケージはAEMの中でフィリピンを除く形で署名されたという。フィリピンのみ、AECブループリントで規定された前述の第9パッケージに沿った自由化が記載された「自由化約束表」が提出できなかったと見られる。その結果、ASEAN事務局ウェブサイト上でも協定や約束表は、他の加盟国も含め一切公表されていない。

14年7月に訪日したプッシュパナタン・サンドラム前ASEAN事務局次長(AEC担当)は「フィリピンは憲法で外資40%にまで制限している分野があり、(AFASの実現には)ASEAN合意と国内法とがうまく共存できる仕組み作りが必要である」と語り、同国にAFASを実施する上で課題があることが指摘した。

AFAS第9パッケージに署名するには、フィリピンは「第 9次外国投資ネガティブリスト」(2012年11月22日発効)を修正する必要があるが、同リストのAは「外国人による投資・所有が、憲法および特別法により禁止・規制されている分野」であることから、そのネガティブリストを改正するには、憲法や特別法などにさかのぼって改正が求められるもようである。

(注1)ただし、製造業、農業、漁業、林業、鉱業、採石業に付随するサービス業はASEAN包括的投資協定(ACIA)の下で自由化される。

表 ASEANのサービス貿易・第3モードの外資出資比率緩和スケジュール

 
〔注1〕分野横断的制限も含む
〔注2〕優先分野は、e-ASEAN、観光
〔注3〕その他モード3における市場アクセス制限の除去は2015年までに漸次実施
〔注4〕サブセクターの一部の自由化であっても、「当該分野自由化済み」とカウント
〔資料〕ASEAN事務局及び各種ヒアリングをもとに作成

◆あくまで部分的なASEANのサービスの自由化

ASEANのサービスの自由化の手法は、自由化分野数のみを全体で決め、どの分野を自由化約束するかは、各国が自ら決定出来る手法を採る。そのため、自由化しても大きな問題がない分野を先に、国内産業への影響が懸念される分野を後に、それぞれ時間差を設けられることから、センシティビティーを持つ国内産業は自由化の対策に必要な一定の準備時間を確保することが出来る。 

しかし、ASEANのサービス自由化の真の問題は、「全ての分野で自由化する」とうたっているにもかかわらず、実際に外資が参入出来る分野は極めて限られる懸念があることである。

つまり、15年末のAEC発足後でも、128分野の範ちゅうにあるサービス全てが自由化されるわけではない。具体的には、加盟国は128に分けられた「サブセクター単位」で自由化を行う必要はなく、当該サブセクターを細分化し、自由化する分野を限定することが出来る。

当該サブセクター全体でも、また極めて限られた一部でも、ASEANの求める「外資70%容認」分野を設ければ、「自由化が約束された分野」としてカウントされる。そのため、加盟各国は国内保護を主張する業界に配慮し、自由化への影響が最小限に抑えられる業種を選定、他のASEAN加盟各国に提示する誘因が働くようになった。

例えば、サブセクターの一つ「卸売り」分野について、タイはAECのもと「自由化約束を達成した分野」である。しかし実際は、タイは広範な卸売り分野の中で「医薬品の卸売り」の自由化を約束したのみ。このようにサービス投資の自由化に後ろ向きな国を中心に、一種のモラルハザードが起きている。

これらASEANのサービス自由化の問題点の解決を期待されているのが、これから策定される「ASEANサービス貿易協定」(ATISA)である。ASEANはATISAについて、AFASを内容・形式両面で見直し、改善・強化するものに策定するとする。少なくとも現在の自由化水準では企業を失望させることは間違いなく、「ASEANの求心力」を維持するため、ATISAによる真の自由化に向け取り組むことが不可欠である。

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