п»ї ASEAN経済共同体の進捗(その3)『ASEANの今を読み解く』第15回 | ニュース屋台村

ASEAN経済共同体の進捗(その3)
『ASEANの今を読み解く』第15回

11月 07日 2014年 国際

LINEで送る
Pocket

助川成也(すけがわ・せいや)

中央大学経済研究所客員研究員。国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員。専門は ASEAN経済統合、自由貿易協定(FTA)。2013年10月までタイ駐在。主な著書に『ASEAN経済共同体と日本』(2013年12月)。今年10月末に『ASEAN大市場統合と日本』(文眞堂)を出版した。

8月末にミャンマーの首都ネピドーで開催されたASEAN経済相会議(AEM)において、ASEAN経済共同体(AEC)実現に向けた進捗(しんちょく)状況が報告されたが、その主なものを3回シリーズで紹介する。今回はその最終回となる第3回で、最も遅れている措置の一つと言われている非関税障壁の撤廃について報告する。

◆非関税障壁撤廃の取り組み遅延が貿易自由化を阻害する懸念

ASEAN経済共同体(AEC)の枠組みで、最も順調に進んでいる代表が、ASEAN自由貿易地域(AFTA)の関税削減・撤廃である。2013年12月時点で、AFTAの自由化率(全品目に対する関税撤廃品目の割合)は、ASEAN先行加盟6カ国で99.2%、後発加盟4カ国でも72.6%に達している。ASEAN全体みれば86.6%であるが、2015年1月には一気に97%弱にまで高まる予定である。

これまで日本が締結してきたEPAの自由化率は、84.4%(対シンガポール)から88.4%(対フィリピン、豪州)であり、また、重要5品目(注1)のみ関税を維持した場合でも自由化率は93.5%にとどまることから、AFTAは例外品目が極めて少ない高水準のFTAであることがわかる。

しかし、関税が撤廃されたとしても、非関税障壁・措置(NTB/NTM)が残存している場合、域内で物品の自由なやり取りが制限されることになる。輸入に際して、例えば、輸入許可証の取得や数量制限、更には恣意(しい)的な品質規格の設定などが典型的な事例である。

AECの工程表であるブループリントでは、フィリピンを除くASAEN先行加盟国は2010年、フィリピンは12年、後発加盟国は15年(若干のセンシティブ品目は16年)に撤廃を予定である。先行加盟国は当初の期限は過ぎており、次のターゲットを15年末のAEC発足に合わせたものの、悪戦苦闘が続いている。

NTB/NTMには安全規格・工業標準、保健衛生規則・品質規格、SPS措置など、国によっては国内法の改正や規制の変更を伴う場合も多く、概して撤廃には相当程度の時間を要する。そのため、NTB/NTMの撤廃は、15年末に迫るAEC実現に立ちはだかる最も高い壁の一つである。

(注1)日本の重要5品目とは、コメ(58品目)、麦(109品目)、牛肉・豚肉(100品目)、乳製品(188品目)、砂糖(131品目)の計586品目。

◆非関税措置を新たに設ける動きも

ASEANはNTB/NTMについて、貿易的制限措置を新たに導入しないスタンドスティル 、既存の貿易制限措置を段階的に削減・撤廃するロールバックの原則の下、全ての非関税障壁を撤廃することを目指している。しかし、それら原則を無視するかのような動きが続いている。特にその動きが顕著なのがインドネシアである。

インドネシアは、先行加盟国が目指していたNTB/NTM撤廃期限である10年以降も、新たな措置/障壁を導入している。インドネシア政府は10年に入り、自動車部品、化粧品、陶器、鉄鋼、省エネ電球、携帯電話、自転車の7品目について輸入検査を義務化する方針を示した。また、鉄鋼及び非鉄金属分野では、冷延鋼板(11年6月施行)、形鋼(12年2月施行)でそれぞれ強制規格を導入している。

ジョコ・ウィドド政権の発足直前、ユドヨノ政権下のヒダヤット工業相は「インドネシアは自由貿易協定締結の流れから撤退、孤立する必要はない。必要な産業の保護措置を打ち出す」(14年8月20日発言)として、NTB/NTMを今後も活用していくことを明言した。インドネシアは、簡単に策定できる3つのNTM、具体的には、①インドネシア国家標準(SNI)順守義務②輸入品に対するパッケージ・ラベル要求③全ての事業でのインドネシア語の強制使用――を挙げ、活用する方針である。

◆NTM/NTB削減・撤廃に不透明感

13年8月にブルネイで開催されたAEMでは、NTB/NTMの削減・撤廃に関し、その実施が遅れている事実について懸念を共有、その上でASEAN非関税措置データベースを国連貿易開発会議(UNCTAD)新分類 で分類しなおすこと、非関税措置・障壁の削減・撤廃に向け、加盟各国で関係省庁横断的な合同機関を設置することに加えて、実際に発生している事例を国と措置とでマトリクス化し、ウェブサイトで公表することなどを決めた。

今回のミャンマーでのAEMでは、それら措置の進展を確認したにとどまっており、具体的な進捗は不明である。ウェブ上で実例マトリクスを13年11月時点に更新したに過ぎない。ここでは68ケースが取り上げられているが、10カ国あわせれば膨大な数になるNTM/NTBについて、実害が出ているものを優先的に取り組む姿勢を示した。

ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)とジェトロは、今年6月に開催されたミンASEAN事務総長との対話の中で、NTBの削減・撤廃に向けた取り組みの加速化の重要性を強調した。特に、FJCCIAおよびジェトロが14年初めに実施した「ASEAN・東アジア地域・非関税障壁(NTB)調査」では、貿易取引上の障害になっている措置として、特に「船積み前検査」と標準や強制規格などの「貿易の技術的障害」(TBT)を挙げた。

15年末はすぐそこに迫っているが、ASEANのNTM/NTB問題の是正・解消に向けた取り組みは、まだ緒に就いたばかりである。

コメント

コメントを残す