п»ї 消費税と「ナベツネ新聞」『山田厚史の地球は丸くない』第34回 | ニュース屋台村

消費税と「ナベツネ新聞」
『山田厚史の地球は丸くない』第34回

11月 21日 2014年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

「安倍さんが首相になってから、読売さんの特ダネが増えたね」。そんな評判が霞が関で立っている。12月総選挙の口火を切った「首相、年内解散へ」は読売新聞の特ダネだった。消費税にからむ重要案件に読売の特ダネが目立つのはなぜだろう。

◆首相の後見役

昨年の今頃、安倍晋三首相は今年4月から消費税を8%に引き上げることに逡巡(しゅんじゅん)していた。有識者から意見を聞き、首相が決断する、という段取りの時に「首相、消費税引き上げ決断」と打ったのも、読売だった。

特ダネの2日前、読売新聞グループの渡辺恒雄会長は、安倍首相と都内で夕食を共にしている。

「ナベツネは消費税8%に反対していた。やるなら来年10月いっぺんに10%にし、軽減税率を同時にやれと主張していた。しかし官邸は、まず8%にして様子を見て10%との方針をとった。発表する前に首相がナベツネに仁義を切ったというわけです」

官邸に出入りし内情を知る官僚はそう解説した。首相が渡辺会長になぜそこまでするのか。幼いころの「刷り込み」が関係している、ともいわれる。

実父の安倍晋太郎元外相は政治家になる前は毎日新聞の政治部記者だった。渡辺会長はそのころから読売政治部の敏腕記者で、「ナベツネ」の異名は自民党に広がっていた。

「晋太郎は記者として凡庸だったが、岸信介の娘婿、いずれ政界に出ると見られていた。ナベツネは家族ぐるみで安倍家を取り込んだ」

当時を知る記者はいう。晋三がまだ坊やのころからナベツネは家に出入りし、父が敬愛する偉い記者だった。晋太郎が急逝し跡を継いで政界に入った晋三の後見役がナベツネだった、という構図である。

◆読売の顔を立てた特ダネ

そのナベツネが「一気に10%にして軽減税率をやれ」と紙面で論陣を張る。だが財務省は「来年10月に経済はどうなっているか分からない。先送りすれば税率引き上げが出来なくなるかもしれない」と首相を説得した。

「安倍さんは親しい人に訴えられるとすぐその気になる」(財務官僚OB)。官邸の役人は、面会を求めるナベツネに会わさず、方針が決まってから面会を実現させ、特ダネとして差し出して読売の顔を立てた、という。

今回は、その第2ラウンドだ。「再増税を先送りし、解散で国民の信を問う」。読売の特ダネには軽減税率とナベツネの関係が絡んでいる。

読売新聞はいま日本新聞協会の会長会社。白石興次郎社長は新聞協会長を務めている。新聞各紙は「消費税賛成」の論調に加え「新聞に軽減税率を」と主張する。新聞は生活必需品、低所得者も読めるようにという理屈だが、インターネットの普及で止まらない新聞離れを食い止めたい、という思いがある。

軽減税率は新聞経営の命綱だが、財務省は慎重だ。認めれば様々な業界から圧力がかかる。どの商品やサービスを非課税にするか、難航する作業を考えると役人はゾッとする。日程もきつい。来年10月までに間に合いそうにない。「出来るとして2017年4月から」というのが舞台裏の事情だった。

「2017年4月に軽減税率が適用される保証はない。そこをはっきりさせるのが今回の先送り」。

そんな声が新聞界からも聞こえる。

◆新聞にまで「魚心水心」?

20日付の読売新聞は1面トップで安倍首相の単独インタビュー記事を載せ「10%で軽減税率導入」と打った。税率引き上げとセットで軽減税率を実施する、と安倍首相に言わせた。各紙は一斉に「2017年4月に軽減税率」と書いた。方針を既成事実化し、新聞をその対象にしてもらおう、というのである。

消費税は「逆進性のある税制」といわれる。貯蓄に回す余裕のない低所得者ほど、所得に占める消費税の比率が高くなる。その一方で法人税が引き下げられる。そんな「弱いものイジメ」を調整するには、生活必需品を非課税や低税率に抑える「品目ごとの見直し」が避けられない。

導入が予定される2017年4月をゴールに、それぞれの業界が政界工作に血道を上げるだろう。これで与党にとって有利な選挙になる。

業界として軽減税率をお願いするには「日頃の政治活動への応援」が必要になるかもしれない。これまでも補助金や租税特別措置など業界と政治の「魚心水心関係」はよくあった。

今回は新聞まで「魚心水心」が及ぶのだろうか。世論に影響のあるメディア、「公正中立」を掲げる新聞が、権力にすり寄ることにならないか。

業界代表として振る舞う読売の論調は、今や自民党べったりである。集団的自衛権も原発再稼働も憲法改正も。秘密保護法の委員会ではナベツネ会長が座長を務める。

首相の一日を記録する「動静」の欄に、メディア関係者との会食が目立つようになった。新聞は大丈夫だろうか。

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