п»ї 日本・インドネシア関係に思惑の違い『東南アジアの座標軸』第4回 | ニュース屋台村

日本・インドネシア関係に思惑の違い
『東南アジアの座標軸』第4回

1月 30日 2015年 国際

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宮本昭洋(みやもと・あきひろ)

りそな総合研究所など日本企業3社の顧問。インドネシアのコンサルティングファームの顧問も務め、ジャカルタと日本を行き来。1978年りそな銀行(旧大和銀)入行。87年から4年半、シンガポールに勤務。東南アジア全域の営業を担当。2004年から14年まで、りそなプルダニア銀行(本店ジャカルタ)の社長を務める。

1月中旬に大阪で「インドネシアの最新情勢について」をテーマに講演を行ってきました。熱心にメモを取っておられた参加者の方々から講演後の懇親会ではいろいろなご質問やご相談を受けました。

インドネシアへの投資熱はいまだ冷めていないと感じましたが、他方で現地に進出されている方からは、ルピア安に伴う外貨借り入れの為替差損への対応、さらに国税当局との税金を巡る問題など悩ましい経営課題をお聞きしました。

急速に高コスト化が進む現地での経営リスクは高まる一方ですから、多少のコストを払っても為替のリスクヘッジや各分野の専門家に経営のアドバイスを受けることはリスクを軽減するため大切です。

◆日本関連事業の中止や見直し

さて、日本に出張している間にも両国関係に緊張感が漂う、日本の投資熱に冷や水を浴びせかねないような出来事が顕在化しています。かねて日本政府は、アジアのインフラ需要を取り込むためユドヨノ前政権時にインフラ整備の遅れが目立つインドネシアの首都圏投資促進特別地域(MPA)で優先的に取り組む事業について、政府間合意をしていました。

ところが、「海洋国家建設」を政策目標の柱に据えたジョコ・ウィドド政権になってからジャワ島以外の地域のインフラ整備も優先するとして風向きが変わりました。インドネシア国家開発庁(BAPENAS)は日本と計画していた事業のうち、ジャカルタと東ジャワのスラバヤを結ぶ高速鉄道など数件の中止や見直しを発表したのです。

高速鉄道プロジェクトは日本が2008年から事業化調査を始めていただけに、政府は対応に困惑していると思います。また、ジャカルタのタンジュン・プリオク港の国際港湾施設は既に処理能力を超えており、同港に向かう高速道路はコンテナトラックで日々大渋滞です。

このため、西ジャワ州カラワンにチラマヤ新国際港を整備していく計画はMPA事業のなかでもフラッグシップ事業として位置付けされていましたが、日本企業を利するだけだとして事業開始が危ぶまれています。

ちなみに政府間のプロジェクトには中国や韓国の動きも実に活発で、両国は既に多くの案件を手掛けています。ジョコ大統領の就任後の国際会議以外の外遊先のひとつは韓国で、朴槿恵(パク・クネ)大統領との首脳会談が目的でした。水面下で韓国政府の巻き返しが進んでいるのでしょうか? また、中国主導で設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)にインドネシアも参加しています。規模が小さく日本が影響力を行使するアジア開発銀行(ADB)より期待が大きいのかもしれません。

◆EPA見直しを迫る動きも

このような出来事が起こるなかで、今度はゴーベル貿易大臣が日本を訪問し、08年に日本と締結した経済連携協定(EPA)の見直しを迫るような動きが出ています。EPAは安倍首相の第1次政権時代に日本とインドネシア国交回復50周年行事の一環として締結されています。

EPA発効後、インドネシアの力強い内需が牽引(けんいん)して日本からの工業製品などが大幅な輸入超過となっており、なんとか不均衡を是正したいとの思惑です。資源輸出に代替できる輸出工業製品を増やしたいインドネシアですが、日本への輸出品が漁業などの一次産品や衣料品などが中心ですから、構造的にも交易条件の改善は望めません。

インドネシアでは、EPA取り止めも選択肢の一つになっているようです。そのためでしょうか、過激組織「イスラム国」とみられるグループによる邦人殺害警告を受けて中東から予定を繰り上げて帰国した安倍首相とゴーベル氏との異例の会談も予定されています。知日派ゴーベル氏との交渉の行方が注目されます。

ここでさらに追い打ちをかけるようなショッキングな出来事は、自民党の政治家と長年にわたり太いつながりのあったギナンジャール・インドネシア日本友好協会会長が、政権に影響力のある大統領顧問会議の委員から外れたことです。同氏はスハルト政権以来、自民党政権とのパイプ役を務めてきました。大統領選ではジョコ氏への積極的支持を打ち出してきましたので、ユドヨノ政権に続いて大統領顧問会議の委員に再選されるとの観測がありましたが、選ばれませんでした。

◆政治力学や世代交代の潮目を見誤る?

以前から、長年懇意にしているインドネシア経営者協会(KADIN)幹部と会うたびに話題にしていたのは「日本がインドネシアとパイプを築けているのはギナンジャール氏しかおらず、既に政治の力学が移り変わり、政治家の世代交代が進むなかで、このままの状況ではリスクが高い」との認識で一致していましたので残念です。今回の委員落選は、日本が進めるインフラ整備にも影響を与えかねません。

今年は日本の経団連や経済同友会の幹部が、インドネシアへの訪問を計画しています。日本とインドネシアの関係強化を図りつつジャワ島を中心としたインフラビジネスなどを取り込む思惑ですが、ジャワ島外の開発を優先したいとするインドネシア側の風向きの変化には困惑していると思います。

日本企業のインドネシアに対する投資熱に変化はありませんが、新興国での企業経営にはいろいろなリスクが伴います。日本もインドネシアとの長年の政治、経済関係を軸にしてMPA事業を計画してきましたが、中国や韓国の強まるプレゼンスを改めて検証する必要があります。今回の両国間の思惑の違いが日本政府にとって思いがけない事態だったとすれば、なおさら日本企業は自衛のためにリスク管理が必要です。

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