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日本にハブ港をとり戻そう
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第40回

2月 27日 2015年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住17年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

残念ながら現在の日本は「輸出小国」になってしまった。自動車や産業用機械・電子部品など今でも日本の輸出に貢献している産業はあるが、これらの産業でもいわゆる日本の六重苦(円高・重税・自由貿易協定〈FTA〉の遅れ・労働規制・環境規制・電力不足)などから2000年代に入って企業の海外移転が進行してしまった。

更に深刻なのは、日本の産業の競争力の低下である。世界で進行する階級社会化によって購入層の多様化現象が起こっているが、大量生産に慣れた日系企業はこのマーケットの多様化についていけていない。また中国・韓国企業の追い上げにあい、ボリュームゾーンである低価格帯商品についても日本企業はじりじりとその存在感を失いつつある。

日本企業がいまだにしがみついている「高品質」信仰は、誰をターゲットにしているのであろうか? 世界的な顧客層の変化に対する議論がなされていない現状を考えると、「高品質」は単に自分自身に対する慰めの言葉でしかなくなってしまう。結果は明らかである。日本企業のジリ貧である。

こうした中で、かねて私は地方再生を軸とした日本の産業育成の必要性を訴えてきた。『21世紀の資本』の著者で今話題のトーマス・ピケティ氏が吉川洋・東京大学大学院教授との対談(2月10付日経ビジネス)で指摘しているように、「今日本にもっとも必要な事は人口減少の食い止め」である。そして、その人口減少を食い止めるために必要なことは、各地方の産業振興である。

その具体的な施策の第1弾として、今回は日本の港湾のハブ港化について提案してみたい。

◆コンテナ貨物取扱量30位以内、日本は東京港だけ

最初に、皆さんは「現在、日本の港湾は世界の港としてどのくらいの位置付けにいるか」をご存知であろうか? 残念ながら下表の通り、上海(中国)・シンガポール・香港・深?(中国)、釜山(韓国)などアジアの港がコンテナ貨物取扱量において上位を独占している中で、日本の港はわずかに東京湾がトップ30位以内にランクされているのみである。1985年当時は神戸、横浜の2港がトップ10入りし、それぞれシンガポールや釜山より上位にいたのである。

 

注1:日本・アジアのその他港湾の( )内は順位である。
   2:最新年は速報値
資料:CONTAINERISATION INTERNATIONAL YEARBOOK 各年版。
(2011年はContainerisation Internatinal 2012 March)

人口増加と新興国の経済成長を背景に、世界の海上物量は過去30年以内に5倍程度に増加したと推測されている。現に2010年に世界2位の取扱実績を持つシンガポールは、85年からの10年のうちに16.7倍(1.7000万TEU→28.4300万TEU)、韓国の釜山港も12.3倍(1.1500万TEU→14.1900万TEU)と大きく取扱量を増やしている。

これに対して、日本では85年当時、取扱量で5位の実績を持っていた神戸港は1.3倍、横浜港で2.4倍と極めて低率な伸びしか示していないのである。家電・自動車を中心として製造業の興盛により経済繁栄を謳歌(おうか)した日本では、こうしたサービス産業の育成が顧みられなかったのも当然かもしれない。

一方、国土が小さく当時は国力も小さかったシンガポールは、1980年代に経済開発庁が中心となり自国を世界のトータルビジネスセンターにするという目標が掲げられた。具体的には会社・教育・医療・ライフスタイル・ソフトウエア開発のほか、ハブ港湾にターゲットを絞り、国家一丸となって目標達成を図ってきた。

また韓国も国策として、1980年以降釜山港を通過する積み替え荷物については貨物入港量を免除。釜山港と光陽港を連続して寄航する外港コンテナ船に対して船舶料を100%免除するなどの港湾料金政策を実施。船荷の積み替え作業を行うハブ港湾化を目指し、1995年1月の阪神淡路大震災を機に神戸港や大阪港にとって代わって、釜山港は日本の荷物の積み替えを行うハブ港となったのである。

私は日本出張時に金沢、福井を訪問した際に、この地の荷物がすべていったん釜山に行ってから仕分けられるとの話にびっくりした。しかしよくよく調べてみると、日本で釜山向けのトランスシップ(荷物の積み替え)コンテナ貨物量が一番大きい港は博多港で、2番目はなんと横浜港である。日本の国際コンテナ積出港であるべきはずの横浜港は、なんと釜山港をハブ港として利用していたのである。実に日本の荷物の46%は韓国・釜山に仕向けられ、この地で積み替え作業を行っているのである。

日本は今、人口減少と労働力の高齢化に直面している。製造業を担う人材が不足しつつあるとともに、日本国内の総需要が伸びないのである。こうした時代を迎えたからこそ、海外の需要を取り込む港湾のハブ化は新しい産業の目玉として積極的に取り組む施策になりうるのである。

◆高すぎるコスト

ところが、日本の港湾のハブ化には三つの大きな問題が存在する。その第一は、港の水深問題である。近年船舶の大型化が進み20年前と比較すると、一船舶のコンテナ積載量は約3倍まで増加している。政治家が跋扈(ばっこ)し地方景気浮揚のために日本全国の港湾整備に小分けして金を使ったため、大型船に対応可能な港の整備は後回しとなってしまった。これによって、日本には深水港は皆無となってしまった。

2008年、横浜港でようやく水深16メートルの岸壁の使用を開始。あわせて現在水深20メートルの岸壁を建設中である。一方、日本の港のライバルである釜山港は、既に18メートルの岸壁を保有している。マレーシアのジョホール港の水深が19メートルあるのに対し、大阪港、神戸港は水深14メートル。これでは日本に大型船が来ないのは当たり前である。いや、来航出来ないのである。

2番目の問題点は、ゲートの船積み時間である。シンガポール、釜山港など世界のハブ港では年365日24時間ゲート稼動が標準化されているが、日本ではつい最近まで平日のみの8時間稼動であった。

現在試験的に稼働時間延長が図られ、横浜港の一部で12時間半、名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港で11時間半の稼働時間となっている。しかしあくまでも暫定処置であるため、業者側は延長された稼働時間に対応した体制の整備には二の足を踏んでいると聞いている。当然のことながら、世界標準である24時間体制が構築出来ない日本の港ではシンガポールや釜山からのハブ港奪取など不可能である。

更に日本の港にとっての最大の弱点は、コストの高さであろう。日本内運輸組合総連合会の調査によると、大型母船とフィーダー船の料金などを合算したいわゆるターミナル料金を釜山港と日本の港で比較した場合、1コンテナあたり3倍程度コストは高く(1コンテナあたり2万~3万円の差)なる。

それはそのまま、日本の地方港から横浜港などをハブ港として使うケースと釜山港を使うケースで発生する船積み関連総コストについても、1コンテナあたり2万~3万円の差となってしまうのである。これだけ差があれば、日本の企業も経済合理性から釜山港を使うであろう。

◆「非効率な業務」と「行政の保護」

どうしてこんなに日本の港湾はコスト高なのであろうか? 人件費や光熱費の高さもあるだろう。韓国政府の政策的支援もあるだろう。しかし何よりも日本の港を高コスト化に導いているものは、「非効率な業務」とそれを守るための「行政の保護」である。

大型船の水先案内業務、引き船業務、小型船による荷輸送業務、港湾での荷物引き上げ業務、陸送業務、倉庫業務など港湾の仕事は一つ一つに細分化され、それぞれ別個の業者が取り仕切っている。そして業務ごと別々に料金を課しているのである。行政はこんな業界構造に手がつけられず、実質的に放置している。こんなことでは競争力のある価格設定は出来ない。業者同士が互助会と化しているのである。

こんな状況の中で日本の港湾は世界競争に負け、ジリ貧状態にある。笑い話のようであるが、ここ数年日本の港湾業者が積極的にタイなどに海外進出してきている。いよいよ日本で利益が上げられないのである。

しかし、もし日本の港がハブ化し港湾業者が積極的な業務効率化によるコスト削減を行えば、海外から荷物が集まり仕事も増える。何も港湾業者はわざわざ海外に出くる必要などないのである。

日本、中国、ASEAN(東南アジア諸国連合)などのアジアと豪州、更には南北アメリカを包括する環太平洋経済圏は、世界の60%以上の経済規模である。そして今後、更にその比率は大きくなっていくと予想されている。世界地図を開けば、日本はその環太平洋経済圏の中心に位置することはご理解いただけるであろう。

日本は地理的には世界で最も有利な場所にいるのである。更に北極航路の開発により日本から直接欧州へのアクセスも可能となってきた。もし親日国であるタイにも第2のハブ港を建設し日本の港湾と提携すれば、アフリカ、中東、インドにも共同でアクセス可能となる。

ハブ港湾は、人口が少なくとも国力が小さくとも可能な施策である。現にシンガポールや釜山港がハブ港化で成功している。日本の経済力が低下している今だからこそ、海外の需要を取り込む港湾のハブ化は日本にとって最適な施策である。日本政府は港湾業務の24時間化やコスト削減を前向きに取り上げてくれる港湾を早急に選定し、不退転の決意で日本の港のハブ化に取り組むべきではないだろうか。

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