п»ї 中国に呑まれる日本 鴻海を選んだシャープ『山田厚史の地球は丸くない』第62回 | ニュース屋台村

中国に呑まれる日本 鴻海を選んだシャープ
『山田厚史の地球は丸くない』第62回

2月 12日 2016年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

我が家のテレビはシャープ亀山工場製である。新聞社を退職した時に買った。そのころのシャープには勢いがあり、独自の液晶技術は、電気店で並ぶ各社の製品の中で、ひときわ鮮やかな色彩を放っているように見えた。

その液晶投資が命取りとは残念である。技術を経営に生かせず、多額の有利子負債が重荷になったという。救済は、政府の肝いりである「産業再生機構」の主導で進む、と思っていた。ところが台湾に本社を置く鴻海(ホンハイ)精密工業が乗り出し、シャープを傘下に組み込むという。

◆7千億円の現ナマで大胆な提案

日本を代表する電機メーカーが中国に呑みこまれる。一連の動きに、今の日本企業を取り巻く構造と体質が滲(にじ)み出ているように思えた。

再生機構の方針は、シャープの解体処理だった。企業丸ごと救済しない。救済金3千億円を投じ、足らない分は銀行に債権放棄させる。損金を埋めた後、液晶部門を切り離しジャパンディスプレー(JDI)に合体させる。JDIは日立、ソニー、東芝のディスプレー会社が統合してできた会社で、競争に負けた液晶事業が経産省の指導で束になった国策会社である。シャープが加われば文字通り日本連合が形成される。シャープが培ってきた液晶技術が外国企業に持って行かれることもなく、国産技術として生かされる、という筋書きだった。

そんなシナリオを吹き飛ばしたのが鴻海の大胆な提案だった。シャープ本社を訪れた郭台銘(テリー・ゴウ)会長は7千億円を提示して驚かせた。産業再生機構の倍を超えた現ナマで交渉の主導権を握った。資本注入で損失を消し、シャープを鴻海の子会社として再建する、という案だ。

この提案にシャープ経営陣とメーンバンクのみずほ銀行が飛びついた。

経営陣は再生機構の「分割処理」に抵抗があった。液晶が切り離されJDIに統合されれば、家電や太陽光などの事業だけでシャープの暖簾(のれん)を守るのは難しい。いずれバラバラに分解されどこかに吸収されるだけだ。

メーンバンクも債権放棄を避けたかった。鴻海がカネを出してくれれば身を切らなくても済む。

◆信頼のブランド」、世界市場で見れば二流・三流

7千億円をポンと提示できる鴻海の度量に日本勢はたじろいだ。「モノづくり大国」を自認する日本の現実を見た思いだった。日立、東芝、ソニー、シャープ、そしてパナソニック。世界を席巻した電機メーカーは、日本でこそ「信頼のブランド」だが、世界市場で見れば二流・三流になってしまった。韓国のサムスンに規模も技術も追い越され、今度は台湾の鴻海から15兆円の巨大メーカーである現実を認識させられた。シャープの売上高は2兆8千億円に満たない。実は雲泥の差がある。

鴻海はパソコン、通信機器、電子機器、自動車の電子部品などのIT産業の裾野で黒子の生産者として力を蓄えてきた。日本の電子産業の強みが部品メーカーにあるように、受注で規模を拡大してきたしたたかな企業である。

シャープに目を付けたのは個々の技術を製品に組み上げる総合的な開発力である。部品供給で規模の経営に成功した鴻海は、製品で勝負するブランドメーカーへ脱皮したい。シャープ買収はその足がかりだ。15兆円企業は飛躍するために7千億円は惜しくない、という判断である。

世界で起こる大きなイノベーションの蚊帳(かや)の外に日本はいるのではないか。「日本の技術は世界一」「中国が逆立ちしても追い付けない技術」といった臆病な自尊心が世界の現実に目を向けることを妨げてきた。

業界関係者は鴻海を知っていたが、リスペクトする向きは少なかった。「成り上がり部品供給者」と見下し、「技術のニッポン」に胡座(あぐら)をかいていた。

◆国粋主義的な産業政策の行き着く先

日本で暮らしていると世界が見えない。電気店に行けば並んでいるのは日本製のブランドばかり。だが、世界市場で売れているのはサムスンだけではない。中国・海爾集団(ハイアール)や韓国のLG電子など日本で見かけないもブランドが売り場を占めている。

視野の狭い日本にあって幅を利かせているのが国粋主義的な産業政策だ。

「日本の技術を流出させるな」とばかり日の丸メーカーへの囲い込みに役所は力を入れている。今回もシャープの技術が中国メーカーに流れることに危機感を高めていた。

技術は流れるものである。日本も欧米の技術を吸収して産業化してきた。20世紀末から日本の工業技術は急速に中国・アジアに流出した。当然である。現地生産が盛んになったからだ。仕事の現場にはその国の人たちが働いている。人は動き、技術が伝わる。加速したのが日本企業のリストラだ。日本企業の製造現場で長く働き裏も表も知っている技術者がリストラされ、中国や韓国のメーカーで第二の人生を始める。そうした現象は日本国内でも起きている。破綻(はたん)した三洋電機の技術者がアイリスオーヤマで家電製品の開発に当たっている。日本の製造業の裾野であるアジアでこうした動きが広範に起きている。

「産業再編成」は通産省の頃から経済産業省のメーンテーマだった。企業を合併させて国際競争力の強い日の丸産業を育てることが役人の使命のように言われてきた。戦後の統制経済から高度成長をへて海外進出を目指す産業を育てることに官僚たちは手ごたえを感じてきた。

それが今や「後ろ向きの再編」だ。競争に負けた企業を集約して「日本代表」に仕立てる。JDIはその典型だろう。敗戦処理の寄せ集めは1+1+1を3にすることは難しい。汗をかく官僚に前向きの威力が生まれるとは思えない。銀行も将来性の薄い寄せ集め企業より力ある外資に商機を求める。

「シャープを中国に渡すな」は官邸も一枚噛(か)んだ再編劇となったが、鴻海のパワーを超えることができなかった。

官主導の再編が日本で威光を放ったのは、20世紀のことだったのか。

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