п»ї グローバル経営管理のものさし―国際財務報告基準『国際派会計士の独り言』第3回 | ニュース屋台村

グローバル経営管理のものさし―国際財務報告基準
『国際派会計士の独り言』第3回

3月 25日 2016年 経済

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国際派会計士X

オーストラリア及び香港で大手国際会計事務所のパートナーを30年近く務めたあと2014年に引退し、今はタイ及び日本を中心に生活。オーストラリア勅許会計士。

日本の上場企業で国際財務報告基準(IFRS)の任意導入が最近、100社を超えたと報道されました。国内上場企業3500社くらいを擁する東京証券取引所含む日本取引所グループでは、医薬品、電機や商社に代表されるグローバル企業を中心に今年2月現在で103社が任意導入済みまたは導入決定をしたと発表しています。

また、導入を検討している会社は200社近く、これにより数年前に目標としていた300社の任意導入が現実のものになっています。2007年に日本の会計基準における国際基準との違いを解消するという国際的な合意から8年、グローバル化した上場企業の間にはほぼ予定どおり導入されているとも言え、この背景にはやはり企業活動のグローバル化と日本におけるコーポレートガバナンス意識の高まりがあるのではないかと思います。

◆日本基準とIFRSとは

日本基準の会計決算とは、一般的には上場企業の決算に関する金融商品取引法に規定される財務諸表作成のための会計基準とも言え、IFRSと対比されるものです。また、この他に、会社法上の決算となる決算書類などを年次株主総会で承認を受ける必要がありそのための作成に関わる会計手続きと基準が存在していると言えます。さらに、法人税でも当然一定の会計基準に基づいて所得が確定されることで税務申告が行われるという意味で、別の会計ルールが存在するとも言えます。

IFRSはInternational Financial Reporting Standardsの略で、ロンドンに本部のある国際会計基準審議会(IASB)が採用している会計基準です。欧州連合(EU)では05年に域内の上場企業の決算について強制適用されました。また、EU内で例えば資金調達する外国上場企業は、本国(例えば日本)の会計基準がIFRSと同等と認められない限りIFRSの適用が09年から強制されるという問題から、日本でも本格的な導入が議論されるに至りました。

ヨーロッパを起点として会計基準の統一化の動きは2000年代に本格的になりました。2005年にヨーロッパの主要国で導入される一方、オセアニアなどでも2000年代半ばにはIFRSが採用され世界的な広がりを見せ、今では100以上の国などで全てまたはほとんどの主要企業で導入されています。

世界の主要国である米国と中国がいまだ自国基準であり、任意採用を含めて適用には至っていませんが、米国は米国財務会計基準審議会が主導的な立場で米国証券委員会(SEC)と連携しながらIFRSへの強制適用への道筋を考えています。また、中国はIFRSを意識してそれに準じた会計基準である会計準則が2000年代後半に上場企業について導入済みです。これらを含めれば、アフリカなどの未整備の国々を除けば世界中でほぼ導入済み、または導入に向けての準備段階と言えます。

日本は07年に、日本基準のIFRSへのコンバージョン(収斂〈しゅうれん〉―会計基準がIFRSと同等と認められること)についてIASBと2011年までに双方の違いを解消することで合意。それに向けて様々な会計基準の見直しをするとともに、2010年からIFRSによる決算の任意開示を認めるようになりました。

例えば、中小企業など非上場の企業については適用外になりますが、今後日本においてすべての上場企業についてIFRSを強制適用するのか、一定の基準以下の上場企業や国内市場に特化する企業などについては免除し主にグローバル市場で活動する上場企業に適用するのか、など決まっていない部分はあります。しかしながら、すでにIFRSを任意適用する企業が増えてきたのはグローバル化された経済活動のもとでは時代の趨勢(すうせい)ではないかと思われます。

また、IFRSは条文主義の日米などと異なり、英国で一般的なベースとなる原則主義を基盤としており、会計基準における企業と監査人の裁量判断の部分が大きいものとなります。それ以外にも、のれんや開発費の減損などの会計処理、投資不動産の評価減損、金融資産の評価などの会計処理などで日本基準との違いがあると思います。

◆世界共通のものさし

企業にとって、IFRS導入にあたってはIT対応など多大なコストと膨大な時間がかかると言われています。筆者はオーストラリアや香港でのIFRS導入を直接関与まではいかないまでも経験しました。やはりその適用にあたってはかなりの準備期間が必要であり、ある意味では企業の根幹である経営管理の手法を基本から見直すことになるとも言えます。

では、そんな負担があるのに多数の企業が今IFRS任意適用をしていくのはどうしてか、それによってどんなメリットが企業に持たされるのか。これらについて日本取引所グループは、「世界共通のものさし」で企業の実態が把握できると指摘しています。会計基準がグローバルで統一化されるということは、例えば、ヨーロッパ、米国と日本の製薬会社を比較評価して投資がやりやすくなったり、日本の親会社にとって連結するオーストラリアとドイツの子会社について連結会計が容易になるだけでなく一貫した経営業績評価ができたりするという大きなメリットが考えられます。

これから、この任意適用がグローバル展開する上場企業間にさらに増え、国内市場中心の会社を除いて実質的に日本でIFRSが採用されていくのか。また、どのタイミングで強制適用もありうるのかなど、今後の動向が見えない部分はあります。しかし、間違いなく日本の上場企業でIFRSの適用は増えていくことを考えれば、今後も注視していくのは重要ではないかと思います。

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