п»ї 大型複合施設の開発ラッシュ、住宅価格も高騰『夜明け前のパキスタンから』第13回 | ニュース屋台村

大型複合施設の開発ラッシュ、住宅価格も高騰
『夜明け前のパキスタンから』第13回

5月 06日 2016年 国際

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北見 創(きたみ・そう)

日本貿易振興機構(ジェトロ)カラチ事務所に勤務。ジェトロに入構後、海外調査部アジア大洋州課、大阪本部ビジネス情報サービス課を経て、2015年1月からパキスタン駐在。

不動産開発が盛んだ。有力財閥は豊富な資金を用い、大型複合施設の建設を進めている。今後数年で国内最大規模となる高層ビル、商業施設が続々とオープンする。住宅市場では、42年ぶりの低金利で個人の不動産投資が過熱している。住宅価格が5年間で4倍になった地区も。日本製の建設機械、建設資材、昇降機、空調など、様々なチャンスがありそうだ。

◆パキスタンで最も高いビルが建設中

山崎豊子の小説『沈まぬ太陽』で、主人公の恩地元が夕日を眺めたクリフトン・ビーチから住宅街へと戻る途中、巨大なビルが建設されているのが見える。「ベヘリア・アイコン・タワー」は2010年から着工され、高さは286m(横浜ランドマークタワーと同程度)。17年に完成すれば、パキスタンで最も高いビルとなる。下層では大型のショッピングモールがオープンする。その他の階層はオフィス、サービスアパートメントとして利用され、多目的な複合施設となる。

建設中のベヘリア・アイコン・タワー(4月23日、筆者撮影)

建設中のベヘリア・アイコン・タワー(4月23日、筆者撮影)

デベロッパーのベヘリア・タウン社は、「パキスタンのドナルド・トランプ」と呼ばれるマリク・リアズ・フサイン氏が1980年代に創業。住宅開発で成功し、一代でパキスタン最大の不動産グループへと成長させた。同社は前払いで建設機械を数百台発注するなど、その資金力に驚く関係者も多い。アイコン・タワーの建設にあたって、周辺道路、陸橋、街灯、植樹も全て自社で整備していると聞く。政府のインフラ整備なぞ待っていられない、と言わんばかりだ。

◆財閥系の大型施設が続々と開発

2010年代になって、資金力のある有力企業グループが、大型不動産プロジェクトを続々と打ち出している。カラチの商業施設といえば、駐在員が毎週のように通う「ドルメン・モール」がある。11年にオープンした同モールは、アリフ・ハビブ・グループとドルメン・グループの共同事業「ドルメン・シティ」の一部。地上階から3階までは商業施設となっており、カルフール(ハイパースター)、デベナムズ、欧米ブランド・ショップなど130店が入居している。モール部分の延べ床面積は100万平方フィート(約9.3万平方メートル)と広い。

写真の右方・手前の大きなビルは「ハーバー・フロント」というオフィスビルになっている。エグゼグティブ向けの住居施設も裏手にある。左の奥に見える建設中の「タワーA」「タワーB」は、それぞれ40階建ての高層ビルになる。

増設中のドルメン・シティ(4月23日、筆者撮影)

増設中のドルメン・シティ(4月23日、筆者撮影)

ユヌス・ブラザーズという財閥も、カラチ市内で複合施設の開発プロジェクトを打ち出している。同グループは1962年に繊維商社から創業し、現在では国内セメント最大手「ラッキー・セメント」、化学最大手「ICIパキスタン」を傘下に納める。

ユヌス・ブラザーズの肝いりプロジェクトが「ラッキー・ワン」だ。写真で見えるのは、その入り口部分だ。敷地にはショッピングモール、結婚式場、映画館、レストランなどが立ち並ぶ計画。その上には8棟の高層マンションが建設される構想だ。完成は2017年を予定している。

開発が進むラッキー・ワン(4月23日、筆者撮影)

開発が進むラッキー・ワン(4月23日、筆者撮影)

ラホールでは、パキスタン最大の財閥であるニシャット・グループが大型商業施設「ニシャット・エンポリウム」を開発している。16年中の完成を目指しており、延べ床面積は270万平方フィートと、国内最大級のショッピングモールとなる見込みだ。モール内には200を超えるブランドが出店する。20万品目を扱い、1日あたりの来訪者数は4万4千人を計画している。

建設中のニシャット・エンポリウム(4月21日、筆者撮影)

建設中のニシャット・エンポリウム(4月21日、筆者撮影)

◆住宅価格が5年前から4倍増

活発なのは大型施設の開発だけではない。13年6月に第3次ナワーズ・シャリフ政権が誕生して以来、住宅価格が上がり続けている。不動産会社ザミーン・ドットコムが公表している住宅販売価格指数によると、11年1月時点に比べて、カラチの住宅販売価格は16年2月時点で3.6倍になっている。消費者物価指数は5年間で1.4倍になったが、それに比べて速いスピードで、住宅価格は上昇している。特に外国人駐在員の多い「ディフェンス・エリア(DHA)」と呼ばれる、治安の良い住宅地域は人気で、価格は3.9倍になっている。

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現在、政策金利は42年ぶりの低水準である。値上がりが見込める不動産投資の人気が過熱している。中東へ出稼ぎしているパキスタン人が、貯まった資金で住宅購入するケースが増えている。非公式な送金ルートで得た資金を、不動産へ代えようとする人も少なくない。

ライフスタイルの変化も影響している。今までは祖父母と父母、叔父家族、息子家族、兄弟家族など、数世帯が一つの住宅で住んでいた。最近では核家族で家を借りる世帯が増え、住宅への需要が全体的に高くなっている。

カラチの住宅価格の上昇が、ラホールやイスラマバードより高い理由は、これまでカラチは一般犯罪が多く、治安が悪かったが、シャリフ政権になってから比較的治安が安定してきたことが挙げられる。

不動産の高騰というとバブルのような印象を受けるが、大型商業施設の開発や、核家族化に伴う住宅購入の拡大は、時代の変化による長期的なトレンドだ。複合施設、高層ビル、住宅の建設はこれからも増えるだろう。

現在でも、日本製の建設機械などの販売が伸びている。建設資材、ビル向けの昇降機、エアコンの販売も拡大するだろう。日本式サービス業によるショッピングモールへの出店も面白いかもしれない。日本ではあまり目を向けられていないだけに、様々なビジネスチャンスが見つかりそうだ。

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