п»ї 中国のフグ市場開放『山田厚史の地球は丸くない』第78回 | ニュース屋台村

中国のフグ市場開放
『山田厚史の地球は丸くない』第78回

9月 30日 2016年 経済

LINEで送る
Pocket

山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

中国人がフグを食べるようになったら、どんなことが起こるだろう? 憂慮と期待が、国内のフグ業者に広がっている。

9月から中国政府がフグの流通・販売を解禁した。正確に言うと「再開した」。中国では1990年まで、勝手にフグを食べたり売ったりすることができた。ところが食べて死ぬ人が後を絶たず、国家は禁止した。「フグは危ない。売るな食べるな」だった。そんなお役所行政を「フグを食べたい」という人々の食欲が押し切ったのである。

◆禁止しても抜け穴

日本への影響はどうなるのか。水産庁漁政部に聞くと「フグを扱える業者の登録が9月から始まりましたが、まだ登録はなく、これからです。解禁は国内業者だけで輸入は解禁されません。これからどうなるかは、予断を持たず見守るしかないでしょう」。

業者の関心は、いろいろだ。

「14億人の中国人がフグを食べるようになれば、日本のフグは注目される。フグを扱う業者にとってビジネスチャンスだ」

という期待がある一方で

「フグの爆食が始まれば漁獲が限られている天然フグの争奪戦が始まり、中国マネーにさらわれて枯渇しかねない」

と心配する声もある。

中国政府が解禁したのは、中国国内で養殖されているトラフグとメフグだけ。それも農業部(日本の農林水産省に概ね相当)が許可した、安全管理が厳格な業者に限る、としている。天然ものや日本からの輸入が解禁されたわけではない。しかし、フグ食の扉が開けば食生活は変わり、もっとおいしいフグを食べたい、と思うようになる、と関係者は見ている。

禁止しても抜け穴があるのが中国だ。上海や北京では堂々とフグ料理店が店を出している。「先日、寄りました。鉄皿もありましたよ。日本の料理屋で出すような品ぞろえで、1人数千円でしたね」と水産庁の担当者は言う。

禁止のフグが食べられるのは、当局が試験的に認めている店だけという。経営者は中国人、日本から調理人を呼んで内臓の処理などの指導を受けていたという。食に貪欲(どんよく)な中国人である。役人や富裕層は食べたいものは食べられる仕組みになっているようだ。

試験的にはうまくいった。業者は前広にビジネスを展開したい、そろそろ解禁にするか、ということだろう。

養殖フグが出回るようになれば、必ず「天然ものが食べたい」となる。日本でも養殖より天然ものの値段が高い。コリコリするような天然ものがうまい、などと言うが、希少価値は珍重される。

◆クマやセンザンコウ、ジャコウジカも

すでに中国から日本にフグを食べにやってくる観光客が増えている、という。中国でできないことを外国で体験したい、という富裕層は少なくないようだ。

思い出したのは、タイの中国国境近くの保養地メーホンソンを訪れた時のことだ。ホテルの人が「中国人が来るようになってクマが減った」という。クマがはちみつを食べる時につかう右手が高級料理の食材になるので、依頼を受けた業者がクマを乱獲している、というのだ。

クマ撃ちツアーの観光客が中国からやってくる。中国ではクマの狩猟が禁止されているのでタイが目を付けられた、というのである。なんとかしないとクマがいなくなる、と話していた。

似たような話はいろいろある。保護動物であるセンザンコウは漢方薬になるので密猟が盛んになった。ジャコウジカは生殖腺が精力剤や化粧品の原料になるとかで、絶滅の危機といわれていた。

◆マグロ、それともウナギのように?

巨大中国で食の動向がちょっと変化しただけで周辺に大きな影響が及ぶ。

フグは保護動物と違い、養殖が主流になっている。中国は今でも養殖は盛んで年間1万5000トンの漁獲があり、3分の2が日本に輸出されている。残りは韓国向けだ。

中国は外貨を稼ぐためフグを養殖し自分たちは食べない。フグを食べる食文化は希薄だった。日本の業者によると、中国には江蘇省あたりで淡水のフグが獲れ、から揚げやあんかけの料理があるが、一般には毒魚とされ、敬遠されてきた、という。

1990年に禁止されたのは、養殖が始まり国内に横流しが始まったがフグを扱う習慣や技術がないため内臓の処理の不手際から事故が相次いだためだ。当局は指導や調理免許などきめ細かな制度化を諦め、全面禁止にした。

この四半世紀、養殖を支えたのは日本の需要で、商社など輸入業者が養殖場の指導や商品のチェックが進み、中国農業部も「管理基準を満たす業者に限って解禁」を決めた。

課題は三つあるという。①安全にフグをさばける調理技術と人材の養成②ナマ食の普及がどうなる③市場開放・自由化への展望。

日本ではフグといえば下関だが、下関の強みは加工業者が集まり、陸揚げしたフグの処理能力があることだ。内外からフグが集まり、中心市場になった。養殖は中国で広がったが、処理はまだこれから。日本の業者に出番はある。消費が増えればナマ食が始まる。その先にある中国のフグ市場の開放。

フグはマグロの道をたどるか、それとも養殖路線が似たウナギのようになるのだろうか。

One response so far

  • 七福神 より:

    中国でのふぐへのニーズが高まれば、「ふぐ料理」を新たな観光資源として、PRすることも可能になるかもですね。とにかく巨大な人口大国中国の影響は想像以上なので産業界や地方自治体もうまく活用していくことでしょう。。

コメントを残す