п»ї 外国為替リスクからの膨大な損失『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第5回 | ニュース屋台村

外国為替リスクからの膨大な損失
『バンカーの目のつけどころ 気のつけどころ』第5回

9月 20日 2013年 経済

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小澤 仁(おざわ・ひとし)

バンコック銀行執行副頭取。1977年東海銀行入行。2003年より現職。米国在住10年。バンコク在住15年。趣味:クラシック歌唱、サックス・フルート演奏。

タイに進出している日系企業のうち2割強の企業は外国為替リスク(以下為替リスク)への対応を十分にしていない、と私は考えている。2008年のタイ商務省のデータに基づいてバンコック銀行日系企業部が行った在タイ日系企業の業績調査によると、当時約4000社あった、実質的に日本企業が会社の経営に関与しているタイ法人のうち約3分の1は、恒常的赤字もしくは債務超過状態であった。このうち08年の1年間に急速に業績が悪化し債務超過に陥った企業の大半は、この年に進行した急速な円高、バーツ安に伴って表面化した為替損失によるものと思える。業績の悪い企業の約3分の1がこうした為替リスクに伴う損失だったことを考えると、全体でみても2割から3割の企業は為替リスクへの対応が十分でないと推定される。

実際、私ども日系企業部の部員がお客様を訪問しても、為替リスクを放置しているお客様は多い。この要因は以下に大別出来る。
1.為替リスクの存在を全く理解していない。
2.現地に取引銀行を持たないため、為替リスクのヘッジができない。
3.為替リスクについては理解しているが、その恐ろしさについて実感していない。

これら1~3について検討をしていきたい。

◆為替リスクの存在を理解していない

そもそも為替リスクを伴う取引とはどのようなものがあるだろうか?
1.日本の親会社からの原材料の円建て買い入れ
2.日本の親会社への製品の円建て輸出
3.日本などから輸入した機械設備の円建て延べ払い
4.親会社からの円建て親子ローンまたは日本の金融機関からの円建てローン

これらの事例では、日本との取り引きを想定し円建てに限定しているが、タイの日系企業であればバーツ以外の通貨はドルを含めてすべて為替リスクを持つこととなる。

日本国内だけで円建て取引を行ってきた会社が初めて海外に進出した場合、こうした為替のリスクを理解できていない。またオーナー系企業がタイへ進出し、子会社の経営を部下に任せるケースなどでもこうしたことがたびたび起こる。

◆タイに取引銀行を持たないため、為替リスクのヘッジができない

タイに進出する企業で、進出後の銀行取引を事前の計画に盛り込んでいる会社はそう多くない。会社登記申請、工場建設、従業員の確保など差し迫った課題をこなすのに精いっぱいであり、ついつい銀行取引は後回しになる。

また、日本の主取引銀行がタイで支店を持っていない場合、頼るべき銀行を見つけられないまま、ずるずると操業に向かう。しかし、実際には多くの場合、創業後の運転資金が必要だったり、創業に伴う赤字資金の補てんが必要だったりする。こうしたケースで数多くの企業で行われるのは、円建ての親子ローンであったり、円建て買掛金の支払い猶予であったりする。特に「円は金利が安いため、バーツ借り入れをするより得である」などと為替リスクについて全くの無理解が絡むと”複雑骨折”となる。

最近では地方金融機関が自ら為替リスクを理解しないまま、円建ての現地貸し付けを積極的に売り込むケースがある。

タイで子会社の経営を行う場合、ほとんどの会社において為替による損失を避けるため、バーツ建てで借り入れを起こすべきであり、よしんば円建ての親子ローンなどを組む場合でも通貨スワップという為替リスクを避ける手法を使うべきであるということを肝に銘じておいていただきたい。

◆為替リスクについては理解しているが、その恐ろしさについて実感していない

外国為替が大きく変動するのはそれほど頻繁ではない。それがゆえに為替リスクの怖さをわかっている人もそれほど多くはない。しかし現在、外国為替市場を支配しているのは、オフショア資金などを中心としたヘッジファンドなどであり、これらの資金量に対して多くの国は対抗手段を持ち合わせていない。いわんや一般企業が太刀打ちできるものではない。

これらヘッジファンドが意図的に攻撃を仕掛けたのが、1997年のアジア通貨危機である。そこまで大がかりでないにせよ、08年のバーツ/円の通貨変動により多くの在タイ日系企業は多額の損失をこうむった。どのくらい多額であったか以下の算式をご覧いただきたい。

その年1億円の親子ローンを組んだ企業は、年末において実に2100万円もの損失が発生したのである。せっせと1バーツ、2バーツのコスト削減に励んでいる会社が、外国為替の変動だけで一挙に800万バーツ弱の損失が発生するのである。こんな負の資産を抱え込んでしまったら会社全体の士気にも大きく影響する。けだし恐ろしや、である。

◆信頼できる銀行をつくる努力を

これまで4回にわたってタイへ進出した日系企業の失敗例を見てきた。四つに大別できる失敗の事例は、いずれもやり方さえ間違えなければ避けることができるものである。今回の為替リスクによる損失はまさに銀行取引そのものにかかわるものであるが、それ以外の類型である進出の際の事前検討や犯罪防止策などについても、銀行にあるノウハウをうまく利用すれば十分対応可能なものだと思われる。

信頼できる銀行を持つことは、進出成功への一つの秘訣でもある。

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