森友事件、日本政治を映す鏡 「切られシッポ」はなぜ逆襲した? 『山田厚史の地球は丸くない』 | ニュース屋台村

森友事件、日本政治を映す鏡 「切られシッポ」はなぜ逆襲した?
『山田厚史の地球は丸くない』第89回

3月 17日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

国有地の異様な払い下げから始まった大阪の学校法人・森友学園の疑惑。籠池泰典理事長は「安倍首相から昭恵夫人を通じて100万円寄付をいただいた」と発言、事態は首相夫妻を巻き込む政局騒動へと発展した。

北朝鮮がミサイルを発射し、韓国では大統領が失職。中国では習近平体制が強化され、米国はトランプ政権誕生で大揺れ。激動する世界で、日本は「不可解な学校法人の異色理事長」に国会やメディアが右往左往している。「こんな問題に国政が振り回されている場合か」。そんな声が与党議員から聞こえてくる。

◆舞台装置や配役が興味を引く個性に満ちて…

日本は、なぜこんな問題で大騒ぎしているのか。

東芝は7千億円の損失を米国の原子力事業で出し、経営が行き詰まった。東京都でもめている築地市場の豊洲移転は、800億円の土壌対策費がかかった。森友学園は9億円の土地が8億円値引きされ、1億円で売られた。額でみれば「ちっぽけな問題」である。

大騒ぎに発展したのは、舞台装置や配役が興味を引く個性に満ちていたからか。

事の発端は、地元の市会議員が請求した情報公開だった。近畿財務局はこれを拒否し、「非公開」とした。国有地の売却価格に素人が首をかしげることは珍しいことではない。財務局がスンナリ発表したら「なんでこんなに安いの?」と問題になっても、「ここは昔、沼地でね、ゴミが大量に埋まっているから処理費がかかるんですよ」と落ち着いて説明すれば、これほどの騒ぎにならなかったのではないか。

公開が原則の売却価格を「非公開」にしたのは、「見せられないことがあります」と公言したようなものだった。隠し事に世間は注目する。納得できない市議が訴訟に持ち込んだことで、財務局は一転して、衆目集まる中で公表した。

大阪のローカルな疑惑は、全国紙の社会面トップを飾り、一気に「事件」となった。

序盤戦の「悪役」は財務省。国有財産の責任者である理財局長が国会で「適正に処理された」「法律に違反していない」「ゴミ処理は確認していない。確認する義務もない」「交渉記録は処分された」「保管期限が終了し、内規に従って処分された」。

テレビ中継で映し出される佐川宣寿理財局長の傲岸不遜(ごうがんふそん)ぶりは、庶民が抱く高級官僚の悪イメージをなぞった。役所の論理で正当化すればするほど、世間は「信用できない」と疑いを深めた。

そこに首相夫人が登場する。ユニークなふるまいが注目を集める昭恵さんが、今度は森友学園の名誉校長になっていた。「夫も応援しています」と講演で言ったとか。

役所の厚遇をいぶかしく思っていた人々は「そーか」と納得する。更に「教育勅語」を暗唱させる幼稚園。運動会で「あべさんガンバレ」と叫ぶ園児を映したビデオが、お茶の間を唖然(あぜん)とさせた。

ワイドショーが競って取り上げるようになり、安倍首相の態度が変わった。

「私の考えに非常に共鳴している方」「教育に対する先生の熱意は素晴らしいと聞いている」と持ち上げていたのに、騒ぎが大きくなると、「この方は非常にこだわるというか、そう簡単に引き下がらない人」と否定的なトーンになった。

「教育勅語のどこが悪い」と籠池理事長を擁護していた稲田朋美防衛相も「10年会っていない」「不愉快なことがあって」と距離を置き始めた。裁判の代理人として法廷に出廷しているのに、「記憶になかった」とシラを切った。

頼りにしていた国会議員の鴻池祥肇元防災担当相まで記者会見し、献金の申し出があってことを明らかにして「迷惑千万」と怒って見せた。

◆庶民の「統治に対する憤懣」に火が付いた

「てんでんこ」のように親しい政治家がわれ先に逃げ出す。取り残された尻尾のようになった籠池氏は、仲間の薄情さに我慢ならなかったのか。関係を示す「事実」を明らかにし始めた。

「法律相談など受けたことはない」と逃げまくる稲田氏が、森友学園の民事訴訟に代理人として出廷していた記録が出てきたのも籠池氏によるものだろう。そして「安倍首相から100万円の寄付」である。

発端となった「財務局の情報隠し」と同様、最初から認めれば大きな問題にはならない出来事ばかりだ。小学校に寄付しようと、訴訟の弁護を引き受けようと、違法でもなんでもない。丁寧に説明すれば追及される事案ではない。

国会で堂々と否定したり、むきになって関係を消そうとしたりするから、関係を示す「新証拠」が重みを増す。

日本では大衆を動かす媒体はテレビのワイドショーである。ここで話題になって国民の関心事となる。森友学園はワイドショーが競って取り上げたことで、政権の支持率にまで影響が出た。ゴミ捨て場になっていた1ヘクタールにも満たない土地の払い下げが、政権を揺るがすスキャンダルに発展したのである。なぜだろう。

政治家への不信、フェアでない行政。庶民の気持ちの根深いところにある「統治に対する憤懣(ふんまん)」に火を付けたからではないか。

政治家が「8億円の値引き」を指示した証拠などない。だが安倍首相や稲田防衛相には思想的に近い籠池理事長と消し難い接点がある。日本会議のメンバーでもある籠池氏は、権力者とのつながりを誇示して用地交渉を進めていたようだ。安倍・稲田・籠池の3氏は「右翼つながり」であることが分かりやすい。

首相や防衛相が関係を消そうとすればするほど、世間は「やはり繋(つな)がってるんだ」と納得する。証拠があるか、とか、法に触れない、と強弁しても「権力者は身内に甘い」と庶民は知っている。教育勅語や「あべさんガンバレ」の関係で厚遇を得るのは納得がいかない、というのが一般の感情だろう。

◆首相官邸を見て仕事をするようになる官僚

問題は財務省だ。政治家が関与しようと、森友学園がねじ込もうと、国有財産の処分は平等に行うのが行政の仕事だろう。ところが規則を逆用し、行政の裁量を目いっぱいに効かせた。役人言葉でいう「エンピツを舐(な)めた」のである。特段の大サービスを重ね、格安の売却に持って行った。だから交渉記録を表に出せない。

政権が長期化するなかで、官僚のすり寄りがここまでひどくなったことを示したのが今回の一件である。「総理大臣の知り合い」に気を使った財務官僚の忖度(そんたく)、と軽く見てはいけない。

安倍政権は内閣人事局を設け、省庁の審議官以上、局長・次官のポストを首相官邸が握った。省庁が持っていた人事権を奪ったのである。公に奉仕する公務員は、出世すると首相官邸を見て仕事をするようになる。首相が細かな指示を出さなくても、官僚は動く。権力者が出すサインを見落とさないように細心の目配りをするのが「出来る官僚」だ。

狂気の指導者・ヒトラーに、分別ある官僚が付き従ったのもこうした構造があったからだ。天下の秀才を集めた財務省が、籠池理事長のような人にハイハイと応じたのも同じである。
安倍晋三記念小学校という名で寄付を集め、安倍昭恵名誉校長という肩書を森友学園は利用した。役人は総理からの「お墨付き」と判断したのだろう。

直接指示を出していないから問題はない、ということではない。社内に逆らえない空気をつくってしまった東芝と同じだ。

大阪府豊中市のローカルな話題だった「不可解な払い下げ」は、日本の政治・社会構造を映し出す鏡となった。

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