シティに離脱派台頭は本当か
『山田厚史の地球は丸くない』第90回

3月 31日 2017年 経済

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山田厚史(やまだ・あつし)

ジャーナリスト。元朝日新聞編集委員。「ニュース屋台村」編集主幹。

英国がついにEU(欧州連合)離脱を通告した。EU委員会との交渉がはじまり、2年後には同盟から抜ける。英国民にとって賢明な選択か、誤った判断なのか。分かるのは5年後、10年後かもしれない。さまざまな人が、立場や考えで意見が異なり、その決着が国民投票だった。離脱が決まり、EUとの対立が鮮明化する中で「残留派」多数、とされていた金融街・シティに「離脱支持」が広がっている、という。

◆ロンドンの強み「ウインブルドン現象」「貸座敷」

自由な商売をするにはEUから抜けたほうがいい、というのだ。金融資本の本質が透けて見える。自由、すなわちタックスヘイブンを活用し「富者への寄り添い」で生きる、という道だ。

EUは域内に本拠を置く金融機関は、どの国でも営業ができる「パスポート制」と呼ばれる制度を採用している。

金融機能が集積し英語でビジネスが出来るシティは、外国為替取引の40%、金融派生商品(デリバティブ)の50%を商う世界最大の金融市場だ。

JPモルガンチェース、ゴールドマンサックス、野村ホールディングスなど外国金融機関がロンドンに現地法人を構え、EUビジネスを行っている。

主要なプレーヤーは外国人だが、シティに来て活躍してくれれば、ロンドンがにぎわい仕事や雇用が増え英国の繁栄につながる。

離脱となるとロンドンを拠点にする外銀はEUで商売をする時、新たな許認可が必要になる。外銀大手は現地法人をフランクフルトやパリ、ブリュッセル、ダブリンなどに移し、域内の営業を確保することを迫られる。ロンドンに比べれば不都合は多いが、やがて金融での英国の地位は低下するだろう、と憂慮されていた。

「貸座敷」を維持するにはEU離脱は損になる、という理屈だった。

そんな事情は十分知りながら「離脱でもいいさ」という声が、シティの伝統的な金融業者からあがっている。

シティのメインプレーヤーは米国、日本、ドイツなどのグローバル金融資本だが、シティを仕切っているのは「マーチャントバンク」と呼ばれる規模は小さいが伝統ある金融業者だ。企業や富裕層のカネを預かり、独自の運用で資産を管理する。質素で目立たないが格調高いオフィスを構え、お得意様の面倒を見る。ブティック型の金融業だ。

分かりやすく言えば「一見さんお断り」の京都の店みたいな金融業者。シティで伝統的な保守層を形成している。こうした老舗が「EU離脱、けっこうじゃないか」と言い始めてるという。

◆居心地が悪いEU残留

米国でトランプ大統領が「ドット・フランク法を廃止する」と息まいている。この法律はリーマン・ショックの教訓から、ウオール街の金融業者を厳しく管理し「顧客第一」を掲げ2010年に成立した。投機的な取引を規制し、顧客への説明責任やビジネスの透明性を求めたものだ。

ウオール街には目の上のタンコブで、消費者保護を重視したオバマ政権の退場を好機と見て撤廃を働きかけていた。

「アメリカ・ファースト」を叫ぶトランプ氏は、金融資本が稼ぎやすくする環境づくりに動いている。ウオール街のバブルが崩壊してから10年、金融規制への反動が米国で起きている。

リーマン・ショックの打撃を受けたのは欧州も同じだ。銀行の倒産が相次ぎ、EUは規制強化に取り組んだ。採用したのが、際限のない金融膨張に歯止めをかける金融取引税。域内の金融機関やファンドに株・債券の取引に0・1%、デリバティブは0.01%を課税する。英国が猛反対して加盟国一致での導入は流れたが、ドイツやフランスなどEUの中核にある11か国で導入された。

EUの金融規制は、圧倒的集積を持つ英国対その他諸国という対立の図式になる。シティの業者は、EUにとどまることの居心地の悪さを感じはじめた。パナマ文書の暴露が拍車をかけた。

分かりやすい例がキャメロン前首相のケースだろう。亡父のイアン氏がパナマで運営していたオフショア信託「ブレアモア・ホールディングス」に前首相と妻サマンサさんが株を一時保有していたことが暴露された。

キャメロン氏はイートン校からオックスフォードという典型的なエリートコースを歩んだ政治家だが、家業はシティのマーチャントバンクだった。租税回避地に信託銀行を設け、目立たぬ稼ぎをあげ、絵にかいたようなエリートコースを息子に歩ませて、シティの権益を守る、というパターンである。

キャメロン氏は、EUが検討していたタックスヘイブン規制から、信託銀行を外すようEU委員会に書簡を送り、成果を上げたことが明らかにされている。

ケイマン島やジャージー諸島などは英国王の属領、自治を盾に情報公開を拒んできた。
富裕層や企業はタックスヘイブンのペーパーカンパニーに資金を隠し、税金を逃れてきた。主役はパナマ文書で名前が出たモサック・ホンセカのような事務所ではない。キャメロン氏の亡父のような人物が担うシティの金融業者である。遠く離れた租税回避地の集めたカネの管理・運用を遠隔操作するのがシティのビジネスだ。

◆「ブリテン・ファースト」でいいのか

金融言葉では「オフショア業務」という。どこの国の法律も及ばない「海岸線の外」の取引、シティは政府や王室の属領を使って儲けてきた。

パナマ文書で世界の目は厳しくなり、EUの規制は強まるだろう。英国にとって金融業はEU諸国がうらやましがるほどの基幹産業だ。シティの業者にとって飯のタネである。顧客は世界にいる。

離脱して困るのはグローバル金融機関だ。メイ首相は、EUのうるさい規制から逃れたい金融保守層の利益を重視した。業者はそれでいいだろう。英国はタックスヘイブンに寄生する金融業で生きていく。「ブリテン・ファースト」。しかし世界の秩序はそれでいいのか。

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